目の前で泣く君のために僕ができることはただ抱きしめてあげることだけだった。
解決策や正論なんて、ある種の正しさなんて、今の君には全く意味をなさない。
だから君が落ち着くまで。たとえそれが「僕」の愛が必要という訳でなくても。
誰かの代わりでも構わない。なんて言うといかにもかっこいいような気がするけど。
でもこの行為は君のためのようで、実は僕のエゴイズムなのかもしれない。
君を抱きしめることで、僕は「僕が君のために何かしている」ということを確かめている。
いや、どちらでも構わない。きっとどれもホントなんだ。
誰の心の中に起こる気持ちひとつひとつにも偽りなんてないんだから。
僕らが一瞬一瞬感じる気持ちというのは確かにそこにあるのにすごく頼りなげだ。
あぁ僕は泣き続ける君をただ抱きしめることしかできないのかい?
君はやっぱり僕を1番必要だと思ってはくれないのかい?
***
「どうしたの」
落ち着いてきた君に僕はそっと切り出す。
『あの人のことが好きでたまらないのに、私はあの人に触れられない。抱きしめてほしいのに』
じゃあ今君を抱きしめている僕は一体君にとっての何なんだ。
「それで?」
僕はそれでもそっと君が話すのを促す。
『あの人に私の全部、考えていることもすべて知ってほしい』
僕は抱きしめる手を強めようとするが、黙ってそのまま話を聞いた。
『あの人は言葉で私を抱きしめるの。誰よりも強く』
そしてふっと息をつく君を感じて、僕はやっと抱きしめる手を緩める。
『だから。ままならないことを嘆いて関係性を解消するよりも、今のままならなさを抜け出して関係性を創造していかなきゃなのよね。のぼせることは悪いことじゃないし、のぼせが終わったところから関係がはじまるって河合隼雄先生が言ってたわ』
そう言って君は少し笑った。
「そうか」
僕は曖昧に返事をする。
『ありがとう、ちょっと落ち着いた』
そう言って君は笑った。
「気をつけて帰れよ」
君は照れくさそうにちょっと手を振って、ありがとうと声に出さずに言うと、
僕を振り返ることなく帰っていった。
満月の夜だった。
***
君の笑顔は僕をめちゃくちゃに傷つけて、それでも僕は君の笑顔に何度も救われる。
この僕を傷つけては救い、救っては傷つける。こんなことが出来るのは君しかいない。
愛してるよ。
でも僕は君を傷つけられない、救えない。
君をめちゃくちゃに傷つけて、そして救っているのはあいつだろう?
「愛してるよ」
今度は声に出してみた。僕は僕の愛を確かめたかった。
でも耳に聞こえたのは、あまりにも空虚な響きだった。
「愛してる、あいしてる、アイシテル…」
僕は君の幻想に言い続ける。
せめてあの満月だけは、僕の気持ちを受け止めてくれているだろうか。
愛してるよ。
君の笑顔は僕にとって永遠だ。
だから君と君を取り巻くものすべてが輝くように祈るよ。
祈るくらいいいだろう?これもエゴイズムになるのかい?
どこからが利他で、どこまでが利己なのか。
グレーゾーンがなければつらくはないんだ、きっと。
ごめん、僕は君をきっと愛してるんだ。
それとも僕は君を愛してるかもしれないことに酔ってるだけなのかい?
あぁどちらでも構わない。
だって今の僕を支えているのは紛れもない君への愛なんだ。
ありがとう、ごめん、ありがとう、愛してるよ。
解決策や正論なんて、ある種の正しさなんて、今の君には全く意味をなさない。
だから君が落ち着くまで。たとえそれが「僕」の愛が必要という訳でなくても。
誰かの代わりでも構わない。なんて言うといかにもかっこいいような気がするけど。
でもこの行為は君のためのようで、実は僕のエゴイズムなのかもしれない。
君を抱きしめることで、僕は「僕が君のために何かしている」ということを確かめている。
いや、どちらでも構わない。きっとどれもホントなんだ。
誰の心の中に起こる気持ちひとつひとつにも偽りなんてないんだから。
僕らが一瞬一瞬感じる気持ちというのは確かにそこにあるのにすごく頼りなげだ。
あぁ僕は泣き続ける君をただ抱きしめることしかできないのかい?
君はやっぱり僕を1番必要だと思ってはくれないのかい?
***
「どうしたの」
落ち着いてきた君に僕はそっと切り出す。
『あの人のことが好きでたまらないのに、私はあの人に触れられない。抱きしめてほしいのに』
じゃあ今君を抱きしめている僕は一体君にとっての何なんだ。
「それで?」
僕はそれでもそっと君が話すのを促す。
『あの人に私の全部、考えていることもすべて知ってほしい』
僕は抱きしめる手を強めようとするが、黙ってそのまま話を聞いた。
『あの人は言葉で私を抱きしめるの。誰よりも強く』
そしてふっと息をつく君を感じて、僕はやっと抱きしめる手を緩める。
『だから。ままならないことを嘆いて関係性を解消するよりも、今のままならなさを抜け出して関係性を創造していかなきゃなのよね。のぼせることは悪いことじゃないし、のぼせが終わったところから関係がはじまるって河合隼雄先生が言ってたわ』
そう言って君は少し笑った。
「そうか」
僕は曖昧に返事をする。
『ありがとう、ちょっと落ち着いた』
そう言って君は笑った。
「気をつけて帰れよ」
君は照れくさそうにちょっと手を振って、ありがとうと声に出さずに言うと、
僕を振り返ることなく帰っていった。
満月の夜だった。
***
君の笑顔は僕をめちゃくちゃに傷つけて、それでも僕は君の笑顔に何度も救われる。
この僕を傷つけては救い、救っては傷つける。こんなことが出来るのは君しかいない。
愛してるよ。
でも僕は君を傷つけられない、救えない。
君をめちゃくちゃに傷つけて、そして救っているのはあいつだろう?
「愛してるよ」
今度は声に出してみた。僕は僕の愛を確かめたかった。
でも耳に聞こえたのは、あまりにも空虚な響きだった。
「愛してる、あいしてる、アイシテル…」
僕は君の幻想に言い続ける。
せめてあの満月だけは、僕の気持ちを受け止めてくれているだろうか。
愛してるよ。
君の笑顔は僕にとって永遠だ。
だから君と君を取り巻くものすべてが輝くように祈るよ。
祈るくらいいいだろう?これもエゴイズムになるのかい?
どこからが利他で、どこまでが利己なのか。
グレーゾーンがなければつらくはないんだ、きっと。
ごめん、僕は君をきっと愛してるんだ。
それとも僕は君を愛してるかもしれないことに酔ってるだけなのかい?
あぁどちらでも構わない。
だって今の僕を支えているのは紛れもない君への愛なんだ。
ありがとう、ごめん、ありがとう、愛してるよ。