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荻原魚雷「活字と自活」
2010年08月13日 / 本
新聞の日曜版読書欄で「食っていけさえすればいい」と大きな表題を付けて紹介されていた本です。荻原魚雷氏の「活字と自活」。タイトルから想像できるようにフリーライターを生業とする著者の書くだけで生活するのは大変な日々と古本屋巡り、本との関わりを綴った作品です。
こういう人ってやっぱりいるんだなぁと興味本位でアマゾンに注文した本ですが面白くて止まらなくなりました。
内容は3章立てで、1.長年暮らす中央線高円寺での生活の様子 2.書評 3.雑感その他といったものです。メールマガジン、雑誌、本人のブログなどに発表してきた文章の寄せ集めですが、生活の中心に据える古本屋巡りが随所に出て来て一貫しています。
高円寺、中野、阿佐ヶ谷といった中央線沿線駅周辺にはほとんど行ったことはないのですが、昔ながらの庶民的でディープな街の様子が伝わってきます。そこでの貧乏暮らしが面白おかしく描かれる。
ただし、これだけでは本にならない。中盤グイグイと読ませるのは魚雷氏お気に入り本の紹介とそれを巡る思索です。紹介されるのはマイナーな作家の詩、随想、漫画、有名作家の対談などおそらく一般の書店ではお目にかかれない本の文章ばかりです。著書の多くは今となっては誰も思い出す人もいなくて埋もれてしまっていますが、魚雷氏がきらりと光る文章を紹介してくれます。更には作家がそれを執筆していた当時の様子を別の著書で拾って、細かく状況説明、フォローしています。こういう細かい作業を繋げることでマイナーな作家、本、文章、詩を現代に蘇らせる。このことに魚雷氏が使命を感じているのかどうかは分かりませんが、おかしいなぁ、面白いねと思える作家・本・文章が続きます。
特に詩の作家・作品が多いのですが、へぇ日本でもこんないい詩が詠まれているんだと発見があります。
好きな時間に寝て起きて大好きな古本屋巡り、読書を続けている・・・といってもやはり拭いきれない現状、将来への不安・焦り、が最後の3章の文章から垣間見えます。
同じように40歳近くまで売れないバンドマンとして生きてきた男と比較してまだマシなほうだと自分を慰めたり、本の中に見出す貧しくても好きなことをやっているのは幸せだという文章を心の拠り所にしたり、ライターとして生き残るためには、とにかく上手いか、他人が真似できないユニークさを身に付けることが必要、自分はどう特徴を出せばいいのか悩んだりと、心情は揺れ動きます。
それでもこれまでやって来た以上、このまま続けていくしかないと開き直って覚悟を決めています。
この類の偏った生活あるいは異常なコレクションを目にして話しを聞くと、自分の偏り、収集などまだまだ大したことはないと気持ちがクールダウンされていきます。
自由で気ままな生活に憧れないわけではありませんが、逆に大変だろうと自分には思えます。逆境で踏ん張る自信がないから、真面目にコツコツ、そっちのほうが楽かなぁ自分は。でもいろいろと考えさせられます。価値ある一冊です。
魚雷氏は昔気質の生真面目な堅物ではありません。嵌ったゲームに何百時間も費やして反省したり、お金もないのに酒を飲んだり・・・そんなことやってちゃダメだよと野暮なツッコミを入れたくなるような氏の緩さもこの作品のいいアクセントになっています。
そういえばと久しぶりに最寄り駅の古本屋に立ち寄ったのですが、入り口付近はエロ雑誌の圧迫感があり、入ってみる気にはなりませんでした。生活のための販売、陳列でしょうが昔ながらの古本屋は厳しいです。
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