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沢木耕太郎「246」
2007年05月30日 / 本
最近、バブル期前後を思い出させる本が何冊か発行されました。「気まぐれコンセプト クロニクル」、「リクルートのDNA」、「246」です。
「気まぐれコンセプト クロニクル」は、ホイチョイプロダクションズによるビッグコミックスピリッツに連載されている広告業界を舞台にした世相を斬るといったコメディ4コマ漫画で、以前、おそらく「めぞん一刻」を目当てにスピリッツを読んでいた頃、熱心な読者という訳ではなかったのですが、斜め読みしていたような気がします。
今回、1984年から2006年までの23年間の代表作がまとめられたのでバブル期の風俗回顧ということで手に取りました。970ページの大著なのでまだ読み終わっていないのですが、単純に懐かしいのとバブル期の狂気のアホらしさに笑えます。そういう私も普通に宴会芸で全裸になっていましたので他人事ではなく当事者です。漫画のところどころに当時の補足説明がされていて、スキー人口のピークは1993年の1770万人が2004年には760万人まで減ったというのを読むと、そうだよなあ、当時は今シーズン何回スキーに行ったかが挨拶がわりの会話だったし、○○スキー場の1級を取りたいと真剣に青春を賭けていた青年(これは私は他人事ですが)もいたなあなど、思い出に耽ってなかなかページが進みません。
バブルで思い出すことの一つは、リクルート社員のモーレツぶりです。今の人にとってリクルートはリクナビやフリーペーパーなど身近な大企業の一つなのかもしれませんが我々の世代には当時の早朝から深夜まで働くのをよしとする「ハードワーク志向企業」の代表格です。バブル期は残業、残業、飲み、飲み、タクシー捕まらずで一般の企業、世の中も狂っていましたが、リクルートは抜きん出ていました。逸話は沢山ありますが、毎日終電で帰り、朝7時からの会議に出るなどちょっと信じられなかったです。実態は知らないので見聞ですが仕事で会ったリクルート社員も否定していなかったので本当だと思います。そしてあのノリです。当時、一度、東新橋のリクルート本社に何かで行ったことがあるのですが、エレベーターの中で「あれ、今、降りたの誰だっけ?」「チュータだよ」「あそうか、なんで挨拶しないの」「何かあったんじゃないの」「ガハハハ」のような会話を大きな声でしているのを聞いて、本当に大学のサークルみたいな会社なんだなと驚いたのを憶えています。
そのリクルートを創った江副浩正氏のリクルート魂の解説書です。ほとんどは財界交遊録とリクルートの成長物語なのですが、第一章の「企業風土について」と第三章の冒頭にある「成功する起業家の二十か条」はリクルートの企業風土、企業家精神が理解でき、示唆に富みます。これからも読み返したいです。その他、リクルートの草創期にアルバイトとして立花隆がいてバリバリやっていたというのを読むと、一流の会社はアルバイトからして違うなと思いました。
そして、沢木耕太郎の「246」です。これは、SWITCHという雑誌に掲載された1986年(昭和61年)の1月から9月までの日記です。
ちょうど、「深夜特急」の校正、初めての小説「血の味」の執筆、キャパの伝記の翻訳などをしている時期の仕事、私生活(主に小さい娘さんとの交流)を記したものですが、作家などとの交流、深夜特急に書かなかったことの裏事情、作家の飲み生活などが伺い知れて興味深いです。沢木ファンにはたまらない面白さです。ちょうど大ブレイク前、そして深夜特急が出てブレイクして・・・文学界を中心に沢木耕太郎と関わりを持とうとする関係者とまだまだ一般人の沢木耕太郎との交流が新鮮です。それにしてもしょっちゅう飲んでいるのですが、新潟に行った際のエピソードでは、高級料亭の「行形亭(いきなりや)」でインタビューの仕事をした後、おそらく7~8時間で7軒の飲み屋・バーをハシゴしています。沢木耕太郎はいい意味でも悪い意味でも昔のタイプの作家なんだと思います。そうじゃないと文壇で親交のある吉行淳之介をここまで持ち上げません(あるトラブルの際に吉行の直々の依頼を断った村上春樹とは対照的です)。
この頃の沢木耕太郎は大好きで、沢木耕太郎とクレジットのある雑誌はほとんど買って読んでいたと思います(このSWITCHの連載は知りませんでしたが…)。今、読み返しても勢いがあるというかワクワクする楽しさがあります。それは何といっても「敗れざる者たち」、「一瞬の夏」、「深夜特急」というリアルで熱い熱い本の登場人物であり、著者であることを知っているからです。そういう意味では、最も沢木耕太郎が輝いていた時期の記録なのかもしれません。それにしても上記の3冊同様に、沢木本人が登場する本の面白さです。この「246」を読んでこの頃の沢木作品はどうしてこんなに面白いんだろうかと考えていたのですが、単純に沢木本人が出ているノンフィクション(エッセイ)だからだということに気付きました。
正直に言うと、沢木本人が作中に登場しないその後のノンフィクション、エッセイは全く詰まらなかったです。この本の中でも編集過程が触れられていますが短編集の「馬車は走る」を読んだあたりから、普通のノンフィクションは期待するほど面白くないことを驚きつつ感じるようになりました。「一瞬の夏」と「深夜特急」が余りにもインパクトが強かったので、通常では高く評価されてもよい作品がどれも期待外れに思えるのでした。以前書いた「凍」がおそらく15年ぶりくらいに読んだ沢木耕太郎の作品で、よい作品だと思いつつ、沢木耕太郎が登場する本人との交流を読みたいと思ったものでした。
長くなりましたが、この作品はとても楽しめました。大好きな作家に厳しい感想ですが、全盛期を過ぎたスポーツ選手や著名人の苦悩を描くこともある沢木耕太郎本人も、「一瞬の夏」、「深夜特急」で確立したスタイルを超えられずにもがいている著名人の一人です。
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