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モヴィエ日記

映画の感想とか、いろいろです。

尾藤はそんなに甘くない

2023-01-21 23:19:03 | 「舞いあがれ!」Flight Log
ところで僕はたいてい朝7時半の放送を見てから仕事に行ってるんですけど、
すると「本日も晴天なり」の最後1分ほどを見ることになりまして、
原日出子も鹿賀丈史も若いなあ~とともに思うのは、
ナレーション多いなあってことですねえ。
毎回毎回、最後はほとんどナレーションで締めくくられてて、
それも登場人物の心情を説明するものがほとんどなんですよねえ。
かつて、主婦が家事しながらでもストーリーがわかるように……などと言われてたこの朝ドラのナレーション、
ちなみに僕がいちばん酷いなあって思ったのは、これはタイトルは伏せておくけど、
「天花は笑いました。それを聞いて誰々は嬉しく思いました」っての、
そのドラマ自体はまったく見てなかったけど、たまたまそれを聞いた時には開いた口がふさがらなかったですねえ。
まあその後、無事にふさがりましたけども、
しかし最近はさすがにそういうことはなくなってるみたいですけどね。
でも最近はちょっとコミカルなドラマを中心に、
登場人物のモノローグで心情を説明してしまうようなのが多いみたいで、
もっと演技それ自体に語らせろよって思うんですけどねえ。

さて、仕事を取れた舞ちゃんと藤沢が帰社すると、
休憩室で待っていた私服姿の社員たち。
終業後、わざわざ待っていてくれた彼らに設計図を披露する舞ちゃん、
それを取り囲んで感服した様子の一同のなかで冷静な土屋が、
試作の仕事をもらっても設計をできる者がいないと口をはさみ……と、
ここで、ネジの設計とはどんな工程で加工していくかを決めることだとナレーションが。
こういうのもね、本当はナレーションじゃなくて、
セリフでもって視聴者にわからせるようにするべきなんですよねえ。
いちばんいいのは、それを知らない登場人物に対して説明するものですけど、
しかしこの場にはそういう人物がいないんですよねえ。
舞ちゃんも製造工程については猛勉強してるから設計とは何かも知ってるというわけで、
仕方なくナレーションに頼ったってところでしょうか。
でもまあ、せっかく有名なミュージシャン、それも話芸に定評のある人を起用したにもかかわらず、
ナレーターの存在感が薄いのはやっぱりちょっともったいないような気もしますねえ。
だからって、彼の実人生での苦労話とかされても困りますけどね、
いくら本作関係者のなかでもっとも多額の借金を抱えていたであろうとは言え。
で、話を戻して、
設計をできたのはお父ちゃんと辞めて行った結城だけとのことで、
それでは遅かれ早かれこういう事態に直面することは予測できたろうに、
まあそこまで考える余裕のないほど目先の資金繰りが大変やったってところでしょうか……とそこへ、
「俺がやる」名乗りを上げる若い男性社員。
設計図を手に取りしげしげと眺めながら、
結城が辞める前に特訓してくれたと語る彼、
「この尾藤にどーんと任せてくれ!」
どさくさに紛れて役名をアピールした彼・尾藤を頼もしそうに見つめ、
「よろしくお願いします!」と頭を下げる舞ちゃん。
そしてオープニング・タイトルをはさんで、
工場で、お母ちゃんらとともに愕然とした表情を浮かべる舞ちゃん。
「……失敗しました」と蚊の鳴くような尾藤の声。
この場面転換でガラッと状況が変わるっていう間合いがたまらないですねえ。
なんか山中貞雄の「丹下左膳余話 百萬両の壺」を彷彿とさせるようですけど、
5万円もする金型がネジ1本作っただけで壊れてしまったとあっては笑い事では済まず、
「ホンマにすいません!」と平謝りの尾藤に、
塑性加工は計算通りいかないものだから仕方ないと笠巻さん……って、
また新しい専門用語が出てきましたよ。
で、調べてみたら、
材料に型を押し付けて目的とする形状を作るもの……とかなんとか書いてましたけど、
それって転造加工とはまた違うもんなんですね。
いやまあこういうところは僕が気になったんで調べてるだけで、
本来は、なんかようわからんけどそういうもんなんやなあ、って感じで見てればいいもんやと思うんで、
そんなもんいちいちナレーションで説明することはないですけどでもしかし、
転造の「金型のなかで転がしてネジ山作る」ってのがますます気になってしまって、
ここは一度説明というか、映像で見せてもらいたいですけどねえ。
いや、実はもう既に映ってるけどこっちが気づいてないだけかも知れませんが、
とにかく、結城と自分を比較する尾藤のことを慰めてやり、
しかし誰か設計のできる者を呼んでくるしかない、と笠巻さん。
そんなやり取りを不安げに見守るしかない舞ちゃんとお母ちゃん。
そこで結城に助けを求めることにする舞ちゃんですが……と、
こうやって結城がメインとなるエピソードが展開されていくことにりますけども、
しかしその結城の心情については多くの説明がなされるわけではないんですよね。
ナレーションや、ましてやモノローグで彼が何を考えてるかを説明したりなんぞは一切しません、
しないけどでも、最初に舞ちゃんから電話がかかって来た時にそれに応答せず、
留守録音に残される彼女の声に立ち尽くして耳を傾ける姿、
最初に指定された「うめづ」には現れず、でも、
夜も更けた工場で舞ちゃんとお母ちゃんと尾藤が頭を抱えてるところに顔を見せるときの強張った表情、
そして彼が手伝うことに最初は躊躇いを見せるお母ちゃんや、
今の職場から許可をもらって手伝うことになるといった辺りで道義的な問題があることを踏まえつつ、
そうやって許してもらえてることから今の職場の環境が決して悪いものではないだろうことを伝えつつ、
しかし時間が経つのも忘れるほど楽しかったとIWAKURAを懐かしむ様子、
そしてついに「ホンマは戻って来たい」と打ち明ける……これらの描写がすべてを物語ってるんですよね。
素晴らしい脚本ですよねえ。
一方、お母ちゃんはある策を思いつきまして、
この工場と土地を売却し、そのお金で借金を返済し、
残った分を運転資金に回し、家賃を払って経営を続けていくというこれ、
最近よく聞くリバースモーゲージとかいうやつの会社版ってところでしょうか。
これをお母ちゃんひとりで思いつくのはなかなかの才覚やないでしょうかねえ、
でもってその売却先は悠人、
この話を持ち掛けられた彼も、投資としてビジネスライクに対応してたけど、
心情を察するとやっぱり嬉しかったり誇らしかったりするんでしょうかねえ。
と、そんなこんなで試作作業も活気づくなか、
これまで「奥さん」と呼んでいた社員たちも「社長」と呼ぶようになり……ちなみに、
最初にそう呼んだのはあの山田ですよね。
結城が手伝うので終業後に残ってくれと頼まれたとき、
席を立つ者もいるなかで最初に手を挙げたのもあの山田でした。
思うに彼女も根は悪くないんでしょうけど、おそらくは経営が悪くなって、
それでリストラされるんやないかという不安からああいう態度に出たんでしょうかねえ。
合コンに行きまくってたのも夫の稼ぎに頼ろうって下心があったんでしょうかねえ……いや、
まだまだ油断はできませんよ、
後の場面で、社長が話してるのにエラソーに脚組んでましたしねえ。
安心はできないけどでも、
これだけ強烈な個性のキャラクターに「山田」などというもっとも凡庸な名前を付ける辺りも、
素晴らしい脚本と言えるんだかどうなんだか、
まあそんなこんなで苦労した試作も納期1週間前に無事完成し、
喜ぶ一同に背を向けてひっそりと去ろうとした結城も、
お母ちゃんに呼び止められ、皆から感謝と拍手を受けて満面の笑みを浮かべ、
後にその試作も合格し、彼もIWAKURAに戻ることになり、
一方、五島では主な登場人物たちが集ってお月見するなか、
朝陽君が学校に通うことになったなどの近況が語られ、
その五島から戻った貴司が「うめづ」で舞ちゃんや久留美といる席に、
彼の短歌が掲載された新聞を見て八木のおっちゃんがひょっこり現れ、
古書店の経営を託す一幕もあったりして、しかしその歌、
「着眼点が面白い」とか評されてるけど、
それって自画自賛ならぬ自歌自賛になってしもてるんちゃいますのん?
まあとにかく脚本も短歌も素晴らしいってところでして。

「お父ちゃん、これな、わたしが初めてとった仕事」
仏壇にネジを供える舞ちゃん。
お母ちゃんも傍に腰を下ろし「舞、すごいやろ」、
悠人も力を貸してくれて……などと語った後、
少しの間の後しみじみと「会いたいなぁ……」
それを聞き「わたしも」と涙ぐむ舞ちゃん、
「もっと、お父ちゃんとネジの話したい、
 教えてほしいこともいっぱいある、
 見てほしいことも、聞いてほしいことも、増えてくばっかりや……」
そう悔やむけどしかしそれは、
お父ちゃんがあんなことになって、舞ちゃんが工場に本格的にかかわるようになったからこそでしょう、
それは大いに皮肉なことではあるけどまた同時に、
この上なく美しい父と娘の関係に思えて仕方ありません、
そのことに気付いているのかどうか、舞ちゃんはやがて笑顔を取り戻し、
「……けどな、なんや、お父ちゃんに助けてもろたような気ぃすんねん」
お母ちゃんも「これからも見守っててな」と語りかけ、
涙交じりの笑顔で見つめ合う母と娘……と、
まるで第一部完結ってな趣きのこの回のなかで、
舞ちゃんがお父ちゃんに切々と語りかけるその間、
それまで鳴っていた音楽が消えるんですよね。
本作の音楽はとても素晴らしいもので、それについては機会があればじっくり書きたいところですけど、
でもこのドラマではそんな素敵な音楽が、
ここぞという場面で鳴りやむことがしばしばあって、
そんな抑制のきいた演出がまたたまらなく素晴らしいんですよねえ。
脚本も演出も本当に素晴らしくてたまらないこのドラマ、
まあいちばん素晴らしいのは舞ちゃんのカワイイところなんですけどね~。
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