というわけでいそいそと初日に劇場に駆けつけましたよ、
2009年版「スター・トレック」。
なんせ前作「ネメシス」の日本公開から丸6年、
6年ぶりにSTが劇場で楽しめるとは……いやあ、
ついにこの日が来ましたか。
と言ってもその「ネメシス」は新スター・トレックの劇場版完結編なわけで、
しかもデータの死という悲しい結末のまま完結してしまったわけで、
ちょっとやるせなさ過ぎるというのかせつな過ぎるというのかなんというのか、
では今度はDS9か、はたまたヴォイジャーの劇場版かと思ったらなんとまあ、
オリジナル・シリーズの再構築ときたもんだ。
いま流行のビギニング物、しかもかつてのSTはなかったことにして、
新たに作り直すとあってはもう四半世紀もファンであるこのワタクシ、
一抹の不安は覚えないでもないけど、それでもやっぱりはやる心を抑えて、
いざ劇場へ。
まず冒頭、いきなりトラヴルに遭遇するUSSケルヴィン。
この艦名は過去のシリーズの例からすると、なにやら科学調査艦を連想させるけど、
そんなこと説明する間もなく、とてつもなく巨大な異星人の艦から攻撃を受けるケルヴィン。
やがて艦長は敵艦に交渉に赴くことになり、指揮を副官に託す、
その若い士官の名は、カーク。
その間にケルヴィンからは乗員が次々と脱出を進め、
そのなかには車椅子で運ばれる妊婦さんも。
脱出シャトルのなかで出産する羽目になる彼女が、
通信機で連絡を取る相手……彼女の夫は、
指揮官としての責任を果たすべく最後まで艦にとどまり、
通信機から聞こえるわが子の産声に笑みを浮かべつつ、
木っ端微塵に破壊されるケルヴィンで、わずか12分間の艦長職を終えるカーク。
そして新しい生命は……
ジェイムズ・T・カークと名付けられたその子は、
親譲りの無鉄砲で子供のときから損ばかりしている……かどうかは知らんけど、
どうやら向こう見ずで怖いもの知らずで、
自暴自棄的な振る舞いの目立つ青年へと成長したようで、
アイオワの田舎で車やバイクを好き勝手に乗り回す問題児でありながら、
しかし広大な畑の向こうにそびえ立つ、建造中の艦が気にかかるようで……
ある日、酒場にふらりとやってきた彼はひとりの女性に目をつけ、
何とかお近づきになろうとあれこれ話しかけるけど、
まったく話にならないわって感じで軽くあしらうその彼女の名は、ウフーラ。
この辺はなんか、若き日のカークというよりも、
ウィリアム・シャトナーの実録ドキュメントかいなって気もしたりなんかして。
で、艦隊士官候補生のウフーラにちょっかい出してるってんで、
他の候補生たちが現れて乱闘騒ぎになって、
最初のうちは優勢かと思えたけど、さすがに多人数で寄ってかかられちゃあ、
コテンパンにのされてしまうカーク。
そこへ止めに入り、候補生たちを追い出して、
カークに士官学校入りを勧めるのはなんと、クリストファー・パイク。
なんや、カークも彼のお世話になってたんかいな。
それやったらスポックもちゃんと事情を説明してタロス星へ連れて行ったろす。
やがて士官学校入りしたカークがその初っ端から知り合ったのが、
「私は医者だ!」と叫ぶマッコイ。
ああ、これが長年にわたる腐れ縁の始まりなんやなあ。
このときのマッコイは飛行恐怖症って言ってたけど、
転送の恐怖によってそれを克服したんですかねえ?
それはともかく、候補生としてのカークは順調に女癖の悪さを発揮しつつ、
やがて難関・コバヤシマルのテストに。
我々にとってはお馴染みの手口でそれをパスした彼は、
しかし厳しく問い詰められることに……ああ、
「カーンの逆襲」のちょっとしたエピソードがこんな大ごととして描かれるとは、
感慨無量というべきかなんというべきか。
ここでそのテストの開発者としてカークの前に現れるのが、そう、
ご存知スポック。
このシーンの前にも彼の少年時代からのエピソードがちょこっと描かれていて、
そんな複雑な内面を抱え持った彼の、深遠な意味をも含んだ課題であるコバヤシマル・テストを、
なんとも楽天的に解決するカーク。
このまったく相反する2人がどうやって信頼を築きあうものなのやら。
そうこうしてる間に緊急事態勃発。
候補生たちもそれぞれの艦に配属され、大挙出動することに。
しかしテストで不正を働いたカークは謹慎中の身。
そこをマッコイの機転で乗艦したのは……
2人が乗ったシャトルから見えるその艦の堂々たる威容……!
ああ、再び大スクリーンにその姿を現すUSSエンタープライズ!
NCC-1701(無印)!
地上の建造現場からどうやってこのスペース・ドックまで運んできたのかも気になるけど、
とにかくブリッジにはスールー(昔の吹き替えではミスター・加藤)も、
ロシア語訛りのきつすぎるチェコフも、
そしてウフーラも、スポックも……しかし、
この新鋭艦エンタープライズの指揮を執るのはあのパイク……って、
彼は初代艦長ではなかったはずなんやけどなあ……ま、
再構築、再構築。
細かいことは気にしないでエンタープライズ発進……と、
ところがエンスト・ぷっすん、ぷっすん。
スールーのこの手際の悪さは後のエクセルシオールを暗示してるんだかどうなんだか、
ここはスポックの指摘でどこだかをいじって無事発進、
他の艦隊に遅れてエンタープライズが向かう先はヴァルカン。
なにやら異常な現象が観測されてるということやけど、
そこにカークは自分の父が殉職したときのケースを読み取り、
密航の身でありながらパイク艦長に進言。
やがてヴァルカンに着くと、艦隊は既に壊滅。
カークのおかげで戦闘体勢を整えていたエンタープライズは早速敵と応戦、
そしてパイクは敵艦に赴くことになり……と、
冒頭のケルヴィンと同じような展開を見せながらしかし異なるのは、
敵艦に向かうシャトルから、カークとスールーともうひとりがなんと、
スカイダイヴィング……いや、あれはスペースダイヴィング?
なんせ、大気圏外からヴァルカン目指して飛んでいくんですよ、
宇宙服着ただけの格好で。
摩擦とか大丈夫なんやろかねえ?
まあこっちの心配はよそに、無事ヴァルカンの大気圏内に突入する3人、
彼らの目的は敵艦からヴァルカンの地表目指して突き進んでいく巨大なドリルを破壊すること。
このドリルというのがちょうど、前にニュースになった宇宙エレベーターってやつ、
あんな感じで長ぁ~いのがうねうねと宇宙から降りてきおるわけですよ。
で、その先端部分に飛び移ろうとする3人、
まずは我々に馴染みのない者が、これが失敗して命を落としてしまうという、
まさに「ギャラクシー・クエスト」的展開。
続くカークとスールーは何とかしがみついて、これを破壊はしたものの、
しかしなんやかんやで結局はヴァルカン星、崩壊。
両親たちを助けに行ったスポックの、
その彼の目の前でお母ちゃん、絶命。
あとでエンド・クレジットを見てわかったけど、
このスポックの母役はウィノナ・ライダーやったんですねえ。
でも出番はちょっとで、やっぱり万引きした代償は大きかったですねえ。
というわけでヴァルカンは跡形もなくなるわ、パイクは捕らえられてしまうわ、
そして敵艦は今度は地球を目指すわの散々な有様……そうそう、
この敵というのが、多分そうやろなあって思ってたけど、
ロミュラン人やってのがこの辺で明らかにされるわけで、
でもロミュランといえば映画の前作「ネメシス」で和解したところやのになあ、
それがこんな風に使われるとはなあ。
ヴァルカンもあないなってしもたらそれこそ、
TVシリーズや映画で描かれた数々のエピソードも成立しないわけやし、
ホンマ再構築も楽やないですなあ……と、しかし、
実はずーっと気になってたのが冒頭のケルヴィンのところで、
このロミュラン人が「スポック大使は?」とか言ってたの。
スポック大使……?
新スター・トレックでスポックはヴァルカンの大使として、
ロミュランとの和平工作に当たってたけど、
それは再構築しないでそのまんま残しとくのん……?
さて、まずは残った艦隊に合流しようとするスポックと、
単独でロミュラン艦を追って地球へ向かうべきと主張するカーク。
この場では当然、上官であるスポックの意見が通り、
反抗し続けるカークは艦外追放、
極寒の惑星に置いてきぼり。
北西に14キロメートルの地点に基地があるってんで、
そこを目指してとぼとぼと歩くカークに様々な生物が襲いかかり、
やがて洞窟に逃げ込んだ彼を助けてくれたのは……
助けてくれたのは……そう、
助けてくれたその人はスポック!
スポックと言っても再構築されたほうじゃなくって、元祖スポック!
そう、レナード・ニモイ演ずるオリジナルのスポック!
しかも自己紹介の文句は「アイ・アム・スポック」!
……でもって、ここで彼の口から語られる経緯が、
これがねえ。
ロミュラン星の危機を救おうとしたスポックは、
しかしそれに失敗して星をブラックホール化させてしまうという、
こうやって文字で書くとあまりにもマヌケすぎる失態を仕出かしてしまい、
彼と、わずかに残ったロミュラン人たちはそれに飲み込まれて……と、
ここまでは「ネメシス」の後のエピソードってことでいいんですかねえ?
そしてホールから出てきた先は百数十年過去である現在、
つまり本作の冒頭部分。
で、そこから歴史が変わったってことなんですね。
つまり再構築とはタイムスリップによる歴史の改ざんで、
決して旧シリーズはなかったことにするんじゃないんですね。
もしかしたらそうなっていたかもしれない、もうひとつの歴史なんですね。
だからエンタープライズの初代艦長はパイクで、
ヴァルカン星は崩壊してしまって、
スポックのお母ちゃんは万引き常習犯……いや、それは関係ないけど、
とにかくそれらはそれらとして、
コバヤシマルやらスールーがフェンシング好きやらの、
長年のファンをニヤリとさせてくれる要素と両立を図ってるわけなんですね。
さすがというかなんというか、
これはやられたというか、そこまでやるかというか、
いやそれ以前にニモイ=スポックを登場させた時点でもう、
納得せんわけにはいきませんよねえ、トレッキーとしては。
「必殺仕事人2009」の藤田まこと並みの……いや、
それ以上の貫禄、存在感ですもんねえ。
そんな先達に導かれてスポックという個性、さらには任務への理解を深める若輩カーク。
さらにこの惑星の基地で、いつ出てくるのかと気をもんでいたスコッティ(チャーリー)とも出会い、
彼と共にエンタープライズに戻ることになるカーク、
「未来のために過去を変えてもいいのか?」と問う彼に、
老スポック曰く「友人のおかげでそう思うようになったよ」
そう、かつては未来を救うために、
20世紀という過去のサンフランシスコにタイムトラベルしてクジラを連れて行ったりしたもんなあ。
ついでに21世紀初頭の和歌山の内之浦湾のクジラもどこかへ連れて行ってあげられへんかなあ。
もう2週間以上も迷い込んだままなんやねんで。
いや、それはともかく。
まあそんなこんなで、
この後もいろいろと展開があって、最後はメデタシメデタシになるわけですけども、
でもこれってSTにまったく馴染みのない、
いままでまったく何も見たことのない人が見て、
面白いもんなんでしょうかねえ?
日本では「なぜ挑むのか」なんてコピーをつけたりして、
若者の冒険譚、成長譚的な売り方をしてるみたいやけど、
でもこれって、結局カークは成長したんでしょうかねえ?
クライマックスでロミュラン側に救いの手を差し伸べようと申し出るのも、
和解の精神からではなくあくまでも駆け引きとしてのものやって言ってたし、
まああの和解よりも制裁やの一点張りのどこぞの政府よりはまだ、
交渉術を身につけてると言えるのかも知れんけども、
でもかつてのTVシリーズにあった、好戦的な態度をより高度な文明の者から諌められるような、
そういうエピソードを経てこそ成長というものは見出せるもんやろうに、
それで、結局ロミュラン人は絶滅してしまうわけでしょ。
これでええんやろか?
オリジナルシリーズで宿敵として登場したクリンゴンとロミュラン、
そのクリンゴンとは旧シリーズ映画版の完結編で、
そしてロミュランとは新シリーズ映画版完結編で和解を見るという、
そういうところがSTの真髄やと思うんですけど、
そのうちのロミュランをこうもあっけなく葬ってしまうとは……。
しかし一方では、もう「宿敵」でもないやろっていう気もしてねえ。
DS9なんか、宿敵ばっかりで戦記物みたいになってしもてたし、
いっそそういうのをチャラにして再構築と、
そこまで考えて作られてるんでしょうか、本作は?
まあそれは今後どうなるのか、
続編が作られるのかもまだわからないけど、
本作だけを見てみれば、これは確かに出発点として及第の出来ではありますねえ。
出発点といえば30年前の映画版第1作、
あれのデッカーをカークに置き換えたようなもんなんですよねえ、
全体の構成としては。
そう、キャラクターたちの背景はきっちり描きこまれてる、
だからこそカークの成長をもっと丁寧に描いて欲しかったですかねえ。
そりゃ活躍したとはいえ、あれでいきなりエンタープライズの艦長に就任ってのも、
それはキャリアが浅すぎるやろって感じで、
いやだからこそ今後の続編でもっともっと成長していく彼の姿が見られるんやろか?
って、ついついそんな期待ばっかりしてしまいますけど、
いやでも、むしろスポックのほうがとても興味深く描かれてましたかねえ。
ヴァルカンで孤独に成長し、しかもその故郷を失った彼が、
ここで初めて地球人と心を通い合わせたようなもんですからねえ。
彼に関してはかつてのどの作品よりも深く深く掘り下げられてたといえるでしょうか。
でもなんでウフーラと……?
この辺は大いなる疑問と好奇心と野次馬的興味がわいてきたりして。
あ、それからクリスティン・チャペルはどうしたんやろ?
マッコイが彼女を呼ぶセリフはあったと思うけど、
画面には姿を見せてなかったですかねえ?
でもまあクリストファー・パイクもどうやらタロス星へ行かなくてもすんだろす?
と、なんやかんやで楽しめてしまうんやからねえ、
やっぱりいいわあ、スター・トレックの世界は。
ラストはカーク艦長の指揮下で発進するエンタープライズ、
ナレーションは、あの声はニモイなんでしょうねえ。
To boldly go where no one has gone before……そして、
そして音楽が!
本作の音楽を担当してるのはマイケル・ジアッチーノというお人で、
ピクサーの「Mr.インクレディブル」や「レミーのおいしいレストラン」なんかを担当してて、
なかなか耳に残るメロディを奏でてくれる人やなあとは思ってましたけど、
こういうSF大作は向いてるんかなあって、それがちょっと気がかりではありましたかねえ。
そして実際に聴いてみると、繰り返し流れるちょっとヒロイックなフレーズ、
これはまあ若きカークの活躍にマッチはしてましたけど、
でもさすがにジェリー・ゴールドスミスのような風格はないなあって思ってたんですよねえ。
そして何より、アレクサンダー・クーリッジのあのテーマ曲が一切流れてこない、
ああやはり再構築やなあって思ってたんですよねえ。
そしたらそしたら、そしたらこの最後に来て、
ニモイのナレーションの後、あの音楽が!
♪パッパパー、パーパパパパー……って、
このイントロのフレーズはこれまでの映画版各作品で流れてましたけどね、
しかしその後の、
♪ラーラー、ラーララララー……の部分、
ここは確か1作目と、そして4作目だけで、
それも少しだけしか流れなかったはずなんですよ。
それが本作では流れて、さらに、
♪ラー、ラーラーラーララララー、ラー……って、
フルに聴かせてくれるんですよ、
それもオリジナルシリーズのオープニングのに近いアレンジで、
おもいっきり高らかに、たっぷりと!
そしてクレジットの最後にはジーン・ロッデンベリーだけでなく、
メイジェル・バレット・ロッデンベリーへの謝辞も出るし……
いや、なかなかにしたたかな再構築でしたよ。
実にチャレンジングで、そして見事に成功を収めたといっていい、
とにかく意欲的な作品でしたよ。
長年のファンにちゃんと配慮しつつ、これからも新しいことに取り組んでもらいたい、
それがどんなに変貌を遂げようとも、スター・トレックの精神は変わらないであろう、
そんな大いなる期待を抱かせてくれる、とにかく嬉しくってたまらない、
2009年版「スター・トレック」でした。
……それでさあ、
歴史が変わったのはケルヴィンが遭遇する、あの時点からなんでしょ?
じゃあデータの頭部はいまもサンフランシスコの地下に埋まってるんでしょ?
次はひとつそれを何とかお願いできませんかねえ……。
2009年版「スター・トレック」。
なんせ前作「ネメシス」の日本公開から丸6年、
6年ぶりにSTが劇場で楽しめるとは……いやあ、
ついにこの日が来ましたか。
と言ってもその「ネメシス」は新スター・トレックの劇場版完結編なわけで、
しかもデータの死という悲しい結末のまま完結してしまったわけで、
ちょっとやるせなさ過ぎるというのかせつな過ぎるというのかなんというのか、
では今度はDS9か、はたまたヴォイジャーの劇場版かと思ったらなんとまあ、
オリジナル・シリーズの再構築ときたもんだ。
いま流行のビギニング物、しかもかつてのSTはなかったことにして、
新たに作り直すとあってはもう四半世紀もファンであるこのワタクシ、
一抹の不安は覚えないでもないけど、それでもやっぱりはやる心を抑えて、
いざ劇場へ。
まず冒頭、いきなりトラヴルに遭遇するUSSケルヴィン。
この艦名は過去のシリーズの例からすると、なにやら科学調査艦を連想させるけど、
そんなこと説明する間もなく、とてつもなく巨大な異星人の艦から攻撃を受けるケルヴィン。
やがて艦長は敵艦に交渉に赴くことになり、指揮を副官に託す、
その若い士官の名は、カーク。
その間にケルヴィンからは乗員が次々と脱出を進め、
そのなかには車椅子で運ばれる妊婦さんも。
脱出シャトルのなかで出産する羽目になる彼女が、
通信機で連絡を取る相手……彼女の夫は、
指揮官としての責任を果たすべく最後まで艦にとどまり、
通信機から聞こえるわが子の産声に笑みを浮かべつつ、
木っ端微塵に破壊されるケルヴィンで、わずか12分間の艦長職を終えるカーク。
そして新しい生命は……
ジェイムズ・T・カークと名付けられたその子は、
親譲りの無鉄砲で子供のときから損ばかりしている……かどうかは知らんけど、
どうやら向こう見ずで怖いもの知らずで、
自暴自棄的な振る舞いの目立つ青年へと成長したようで、
アイオワの田舎で車やバイクを好き勝手に乗り回す問題児でありながら、
しかし広大な畑の向こうにそびえ立つ、建造中の艦が気にかかるようで……
ある日、酒場にふらりとやってきた彼はひとりの女性に目をつけ、
何とかお近づきになろうとあれこれ話しかけるけど、
まったく話にならないわって感じで軽くあしらうその彼女の名は、ウフーラ。
この辺はなんか、若き日のカークというよりも、
ウィリアム・シャトナーの実録ドキュメントかいなって気もしたりなんかして。
で、艦隊士官候補生のウフーラにちょっかい出してるってんで、
他の候補生たちが現れて乱闘騒ぎになって、
最初のうちは優勢かと思えたけど、さすがに多人数で寄ってかかられちゃあ、
コテンパンにのされてしまうカーク。
そこへ止めに入り、候補生たちを追い出して、
カークに士官学校入りを勧めるのはなんと、クリストファー・パイク。
なんや、カークも彼のお世話になってたんかいな。
それやったらスポックもちゃんと事情を説明してタロス星へ連れて行ったろす。
やがて士官学校入りしたカークがその初っ端から知り合ったのが、
「私は医者だ!」と叫ぶマッコイ。
ああ、これが長年にわたる腐れ縁の始まりなんやなあ。
このときのマッコイは飛行恐怖症って言ってたけど、
転送の恐怖によってそれを克服したんですかねえ?
それはともかく、候補生としてのカークは順調に女癖の悪さを発揮しつつ、
やがて難関・コバヤシマルのテストに。
我々にとってはお馴染みの手口でそれをパスした彼は、
しかし厳しく問い詰められることに……ああ、
「カーンの逆襲」のちょっとしたエピソードがこんな大ごととして描かれるとは、
感慨無量というべきかなんというべきか。
ここでそのテストの開発者としてカークの前に現れるのが、そう、
ご存知スポック。
このシーンの前にも彼の少年時代からのエピソードがちょこっと描かれていて、
そんな複雑な内面を抱え持った彼の、深遠な意味をも含んだ課題であるコバヤシマル・テストを、
なんとも楽天的に解決するカーク。
このまったく相反する2人がどうやって信頼を築きあうものなのやら。
そうこうしてる間に緊急事態勃発。
候補生たちもそれぞれの艦に配属され、大挙出動することに。
しかしテストで不正を働いたカークは謹慎中の身。
そこをマッコイの機転で乗艦したのは……
2人が乗ったシャトルから見えるその艦の堂々たる威容……!
ああ、再び大スクリーンにその姿を現すUSSエンタープライズ!
NCC-1701(無印)!
地上の建造現場からどうやってこのスペース・ドックまで運んできたのかも気になるけど、
とにかくブリッジにはスールー(昔の吹き替えではミスター・加藤)も、
ロシア語訛りのきつすぎるチェコフも、
そしてウフーラも、スポックも……しかし、
この新鋭艦エンタープライズの指揮を執るのはあのパイク……って、
彼は初代艦長ではなかったはずなんやけどなあ……ま、
再構築、再構築。
細かいことは気にしないでエンタープライズ発進……と、
ところがエンスト・ぷっすん、ぷっすん。
スールーのこの手際の悪さは後のエクセルシオールを暗示してるんだかどうなんだか、
ここはスポックの指摘でどこだかをいじって無事発進、
他の艦隊に遅れてエンタープライズが向かう先はヴァルカン。
なにやら異常な現象が観測されてるということやけど、
そこにカークは自分の父が殉職したときのケースを読み取り、
密航の身でありながらパイク艦長に進言。
やがてヴァルカンに着くと、艦隊は既に壊滅。
カークのおかげで戦闘体勢を整えていたエンタープライズは早速敵と応戦、
そしてパイクは敵艦に赴くことになり……と、
冒頭のケルヴィンと同じような展開を見せながらしかし異なるのは、
敵艦に向かうシャトルから、カークとスールーともうひとりがなんと、
スカイダイヴィング……いや、あれはスペースダイヴィング?
なんせ、大気圏外からヴァルカン目指して飛んでいくんですよ、
宇宙服着ただけの格好で。
摩擦とか大丈夫なんやろかねえ?
まあこっちの心配はよそに、無事ヴァルカンの大気圏内に突入する3人、
彼らの目的は敵艦からヴァルカンの地表目指して突き進んでいく巨大なドリルを破壊すること。
このドリルというのがちょうど、前にニュースになった宇宙エレベーターってやつ、
あんな感じで長ぁ~いのがうねうねと宇宙から降りてきおるわけですよ。
で、その先端部分に飛び移ろうとする3人、
まずは我々に馴染みのない者が、これが失敗して命を落としてしまうという、
まさに「ギャラクシー・クエスト」的展開。
続くカークとスールーは何とかしがみついて、これを破壊はしたものの、
しかしなんやかんやで結局はヴァルカン星、崩壊。
両親たちを助けに行ったスポックの、
その彼の目の前でお母ちゃん、絶命。
あとでエンド・クレジットを見てわかったけど、
このスポックの母役はウィノナ・ライダーやったんですねえ。
でも出番はちょっとで、やっぱり万引きした代償は大きかったですねえ。
というわけでヴァルカンは跡形もなくなるわ、パイクは捕らえられてしまうわ、
そして敵艦は今度は地球を目指すわの散々な有様……そうそう、
この敵というのが、多分そうやろなあって思ってたけど、
ロミュラン人やってのがこの辺で明らかにされるわけで、
でもロミュランといえば映画の前作「ネメシス」で和解したところやのになあ、
それがこんな風に使われるとはなあ。
ヴァルカンもあないなってしもたらそれこそ、
TVシリーズや映画で描かれた数々のエピソードも成立しないわけやし、
ホンマ再構築も楽やないですなあ……と、しかし、
実はずーっと気になってたのが冒頭のケルヴィンのところで、
このロミュラン人が「スポック大使は?」とか言ってたの。
スポック大使……?
新スター・トレックでスポックはヴァルカンの大使として、
ロミュランとの和平工作に当たってたけど、
それは再構築しないでそのまんま残しとくのん……?
さて、まずは残った艦隊に合流しようとするスポックと、
単独でロミュラン艦を追って地球へ向かうべきと主張するカーク。
この場では当然、上官であるスポックの意見が通り、
反抗し続けるカークは艦外追放、
極寒の惑星に置いてきぼり。
北西に14キロメートルの地点に基地があるってんで、
そこを目指してとぼとぼと歩くカークに様々な生物が襲いかかり、
やがて洞窟に逃げ込んだ彼を助けてくれたのは……
助けてくれたのは……そう、
助けてくれたその人はスポック!
スポックと言っても再構築されたほうじゃなくって、元祖スポック!
そう、レナード・ニモイ演ずるオリジナルのスポック!
しかも自己紹介の文句は「アイ・アム・スポック」!
……でもって、ここで彼の口から語られる経緯が、
これがねえ。
ロミュラン星の危機を救おうとしたスポックは、
しかしそれに失敗して星をブラックホール化させてしまうという、
こうやって文字で書くとあまりにもマヌケすぎる失態を仕出かしてしまい、
彼と、わずかに残ったロミュラン人たちはそれに飲み込まれて……と、
ここまでは「ネメシス」の後のエピソードってことでいいんですかねえ?
そしてホールから出てきた先は百数十年過去である現在、
つまり本作の冒頭部分。
で、そこから歴史が変わったってことなんですね。
つまり再構築とはタイムスリップによる歴史の改ざんで、
決して旧シリーズはなかったことにするんじゃないんですね。
もしかしたらそうなっていたかもしれない、もうひとつの歴史なんですね。
だからエンタープライズの初代艦長はパイクで、
ヴァルカン星は崩壊してしまって、
スポックのお母ちゃんは万引き常習犯……いや、それは関係ないけど、
とにかくそれらはそれらとして、
コバヤシマルやらスールーがフェンシング好きやらの、
長年のファンをニヤリとさせてくれる要素と両立を図ってるわけなんですね。
さすがというかなんというか、
これはやられたというか、そこまでやるかというか、
いやそれ以前にニモイ=スポックを登場させた時点でもう、
納得せんわけにはいきませんよねえ、トレッキーとしては。
「必殺仕事人2009」の藤田まこと並みの……いや、
それ以上の貫禄、存在感ですもんねえ。
そんな先達に導かれてスポックという個性、さらには任務への理解を深める若輩カーク。
さらにこの惑星の基地で、いつ出てくるのかと気をもんでいたスコッティ(チャーリー)とも出会い、
彼と共にエンタープライズに戻ることになるカーク、
「未来のために過去を変えてもいいのか?」と問う彼に、
老スポック曰く「友人のおかげでそう思うようになったよ」
そう、かつては未来を救うために、
20世紀という過去のサンフランシスコにタイムトラベルしてクジラを連れて行ったりしたもんなあ。
ついでに21世紀初頭の和歌山の内之浦湾のクジラもどこかへ連れて行ってあげられへんかなあ。
もう2週間以上も迷い込んだままなんやねんで。
いや、それはともかく。
まあそんなこんなで、
この後もいろいろと展開があって、最後はメデタシメデタシになるわけですけども、
でもこれってSTにまったく馴染みのない、
いままでまったく何も見たことのない人が見て、
面白いもんなんでしょうかねえ?
日本では「なぜ挑むのか」なんてコピーをつけたりして、
若者の冒険譚、成長譚的な売り方をしてるみたいやけど、
でもこれって、結局カークは成長したんでしょうかねえ?
クライマックスでロミュラン側に救いの手を差し伸べようと申し出るのも、
和解の精神からではなくあくまでも駆け引きとしてのものやって言ってたし、
まああの和解よりも制裁やの一点張りのどこぞの政府よりはまだ、
交渉術を身につけてると言えるのかも知れんけども、
でもかつてのTVシリーズにあった、好戦的な態度をより高度な文明の者から諌められるような、
そういうエピソードを経てこそ成長というものは見出せるもんやろうに、
それで、結局ロミュラン人は絶滅してしまうわけでしょ。
これでええんやろか?
オリジナルシリーズで宿敵として登場したクリンゴンとロミュラン、
そのクリンゴンとは旧シリーズ映画版の完結編で、
そしてロミュランとは新シリーズ映画版完結編で和解を見るという、
そういうところがSTの真髄やと思うんですけど、
そのうちのロミュランをこうもあっけなく葬ってしまうとは……。
しかし一方では、もう「宿敵」でもないやろっていう気もしてねえ。
DS9なんか、宿敵ばっかりで戦記物みたいになってしもてたし、
いっそそういうのをチャラにして再構築と、
そこまで考えて作られてるんでしょうか、本作は?
まあそれは今後どうなるのか、
続編が作られるのかもまだわからないけど、
本作だけを見てみれば、これは確かに出発点として及第の出来ではありますねえ。
出発点といえば30年前の映画版第1作、
あれのデッカーをカークに置き換えたようなもんなんですよねえ、
全体の構成としては。
そう、キャラクターたちの背景はきっちり描きこまれてる、
だからこそカークの成長をもっと丁寧に描いて欲しかったですかねえ。
そりゃ活躍したとはいえ、あれでいきなりエンタープライズの艦長に就任ってのも、
それはキャリアが浅すぎるやろって感じで、
いやだからこそ今後の続編でもっともっと成長していく彼の姿が見られるんやろか?
って、ついついそんな期待ばっかりしてしまいますけど、
いやでも、むしろスポックのほうがとても興味深く描かれてましたかねえ。
ヴァルカンで孤独に成長し、しかもその故郷を失った彼が、
ここで初めて地球人と心を通い合わせたようなもんですからねえ。
彼に関してはかつてのどの作品よりも深く深く掘り下げられてたといえるでしょうか。
でもなんでウフーラと……?
この辺は大いなる疑問と好奇心と野次馬的興味がわいてきたりして。
あ、それからクリスティン・チャペルはどうしたんやろ?
マッコイが彼女を呼ぶセリフはあったと思うけど、
画面には姿を見せてなかったですかねえ?
でもまあクリストファー・パイクもどうやらタロス星へ行かなくてもすんだろす?
と、なんやかんやで楽しめてしまうんやからねえ、
やっぱりいいわあ、スター・トレックの世界は。
ラストはカーク艦長の指揮下で発進するエンタープライズ、
ナレーションは、あの声はニモイなんでしょうねえ。
To boldly go where no one has gone before……そして、
そして音楽が!
本作の音楽を担当してるのはマイケル・ジアッチーノというお人で、
ピクサーの「Mr.インクレディブル」や「レミーのおいしいレストラン」なんかを担当してて、
なかなか耳に残るメロディを奏でてくれる人やなあとは思ってましたけど、
こういうSF大作は向いてるんかなあって、それがちょっと気がかりではありましたかねえ。
そして実際に聴いてみると、繰り返し流れるちょっとヒロイックなフレーズ、
これはまあ若きカークの活躍にマッチはしてましたけど、
でもさすがにジェリー・ゴールドスミスのような風格はないなあって思ってたんですよねえ。
そして何より、アレクサンダー・クーリッジのあのテーマ曲が一切流れてこない、
ああやはり再構築やなあって思ってたんですよねえ。
そしたらそしたら、そしたらこの最後に来て、
ニモイのナレーションの後、あの音楽が!
♪パッパパー、パーパパパパー……って、
このイントロのフレーズはこれまでの映画版各作品で流れてましたけどね、
しかしその後の、
♪ラーラー、ラーララララー……の部分、
ここは確か1作目と、そして4作目だけで、
それも少しだけしか流れなかったはずなんですよ。
それが本作では流れて、さらに、
♪ラー、ラーラーラーララララー、ラー……って、
フルに聴かせてくれるんですよ、
それもオリジナルシリーズのオープニングのに近いアレンジで、
おもいっきり高らかに、たっぷりと!
そしてクレジットの最後にはジーン・ロッデンベリーだけでなく、
メイジェル・バレット・ロッデンベリーへの謝辞も出るし……
いや、なかなかにしたたかな再構築でしたよ。
実にチャレンジングで、そして見事に成功を収めたといっていい、
とにかく意欲的な作品でしたよ。
長年のファンにちゃんと配慮しつつ、これからも新しいことに取り組んでもらいたい、
それがどんなに変貌を遂げようとも、スター・トレックの精神は変わらないであろう、
そんな大いなる期待を抱かせてくれる、とにかく嬉しくってたまらない、
2009年版「スター・トレック」でした。
……それでさあ、
歴史が変わったのはケルヴィンが遭遇する、あの時点からなんでしょ?
じゃあデータの頭部はいまもサンフランシスコの地下に埋まってるんでしょ?
次はひとつそれを何とかお願いできませんかねえ……。