世にある日々

現世(うつしよ)は 愛おしくもあり 疎ましくもあり・・・・

椎の葉に盛る

2014-03-16 | かってに万葉











家にあれば 笥に盛る飯を 草枕 
                                       旅にしあれば 椎の葉に盛る                    142  巻第二


     いえにあれば けにもるいひを くさまくら
              たびにしあれば しひのはにもる



私訳  (椎の葉に盛られたご飯をうつろな目をしてみながら)
        なにやってんだろ  オレ ・・・・・・・・・・・



なにもふざけて訳をしているわけではありませんが
私には  この歌はこれしかないと思うのです

この歌の作者は有馬皇子です
斉明4年  天皇の行幸中  蘇我赤兄(そがのあかえ)が失政をあげて
有馬皇子に謀反を勧めたとき  謀議を終えたところで逮捕されました
そして  この歌は護送中に詠まれた歌です
この後  有馬皇子は処刑されました

この歌を読むと  少し弱々しくさみしさを感じるけど
有馬皇子は正義感が強く純粋な若者だったんじゃないかなと思う
蘇我赤兄の口にのり ついつい自らの理想に走り
口がすぎてしまったのかもしれない
若さからくる正義感 理想を追い求める情熱は
少しばかり 軽率な行動を取ってしまったのだろう

護送されるとき、皇子はどんなことを思っていただろうか?
今まで皇子として育ってきた身の上
そして  自分の自己実現の夢
そんな人生の途上で起きた信じられない出来事

「 まさか  こんなことになるなんて ・・・・
 なんで  こんなことになったんだろ ・・・・
 あのとき  赤兄の口車に乗らなかったら ・・・・ 」

悔やんでも悔やみきれない思いが
心の中に次々と現れて消えていく ・・・・

しかし  ある時
心の中の嵐がピタリと治まり
静けさが心を支配する

椎の葉に盛られたご飯を見ながら
もうひとりの自分は
この世の無常に翻弄されている自分を見て
呆然としている

「 人生ってこんなもんだろうか ・・・・ 」

この歌を読んでいると
その  もうひとりの自分のつぶやきが聞こえてくる





 
「なにやっているんだろ、オレ」
って  死別してからしばらくはそう思う時があった
ぼーっとして気がつくとそう思っているのだ

今まで  きちんと家庭があって
仕事から帰ってくると 妻が夕食を作ってくれていて
「おかえりなさい」と迎えてくれる
自分の心の中では
それが当たり前になってしまい
まだ  それが引き続いていると
心のどこかで思いこんでいる
今  妻がいなくなって
なにもかも自分でやらなければならない状況が
自分で受け入れられないのだ
しかし  現実の辛い生活が目の前にある

まさに  椎の葉に盛られたご飯を
ぼーっと見ている状態と一緒だ

置かれている状況は違うけど
心情は同じものかなと思う

人生  こんなときがあるんだね