世にある日々

現世(うつしよ)は 愛おしくもあり 疎ましくもあり・・・・

吉野への道

2014-03-22 | かってに万葉




       み吉野の 耳我の嶺に 時なくそ 雪は降りける
       間なくそ 雨は零ける
       その雪の 時なきが如 その雨の 間なきが如
       隈もおちず 思ひつつぞ来し
       その山道を
                                                                25
                                         
                                                                      巻第一



       みよしのの みみがのみねに ときなくそ ゆきはふりける
       まなくそ あめはふりける
       そのゆきの ときなきがごと そのあめの まなきがごと
       くまもおちず おもいつつぞこし
       そのやまみちを


私訳    吉野の耳我の嶺は 
       時しれず 雪が降り
       間なく 雨が降るという
       その雪の 絶え間なく降るように
       その雨の 止まないように
       吉野への道を曲がるごとに
       物思いを続けながら来たものだ
       吉野への山道を・・・・・・・・・




天智天皇が病になられ、弟の大海人皇子 ( おおあまみのみこ 天武天皇 ) を病床に呼ばれた。
天智天皇にお会いするとき、信頼する天智天皇のお付きの者が
「気をつけて、お答えください。」と、ひとこと言う。
そのひとことで、大海人皇子は陰謀があることを知る。

天智天皇は、天皇の位を譲りたいと大海人皇子に言うが
大海人皇子は
「私は病の身で、国政を司ることのできる身体ではない。
 願わくは、皇后に皇位を継ぎ、大友皇子を皇太子として下さい。  
 そして、国の安泰を祈念するために出家させてほしい。」
と願い出て、天皇即位を辞退する。
そして、出家して国の安泰を祈願するため吉野に向かう。

天智天皇の側近のものは、
「虎に翼をつけて、放つのに等しいこと・・・・・」
と言いながら、大海人皇子を見送る。
やがて天智天皇は崩御され、大友皇子が即位されることとなる
その時、吉野で大海人皇子は、大友皇子側が吉野に兵を送ってくる情報を受ける。
大海人皇子はその情報の真偽を確かめると、本当の情報だった。
そこで、大海人皇子は戦いを決意する。

人々の野望のなかで国政を正し、
この国を、神の国たらしめようと決起する気持ち。
でも、それは悲しく辛い戦い。 
国を二分する戦いなどしたくない。 
出来れば、吉野の地で
国の安泰を祈念し続けたかった。
しかし、時は自分に違うことを要請してきた。

何度この道をたどって吉野に来たことだろう。
しかし、晴れた気持ちでこの道を来たことなど一度もなかった・・・・






暗く重い歌
これを 天智・天武・額田王の三角関係で
恋を失った男の哀愁の歌と解釈するには
あまりにも おめでたい解釈だ
といいたい

男は責任のとれる範囲が
その男の大きさだと思う
一国の責任をとれる男は大きな男だ
でも その男の心の中は日々孤独と闘っている

大海人皇子は天皇の位に就かれ
天武天皇となられてから
つぎつぎと政策を実行し仏教の興隆にも努められた

天智天皇が情熱的な人ならば
天武天皇は静の人だったかもしれない
しかし いったん行動する時は知略を持って
大胆に動く人だろう
でなければ
壬申の乱で勝利することができなかったと思う

でも それまでの道程は辛い道程だったのだろう
天智天皇を兄とし 理想を同じくして
ともに大化の改新を断行して戦ってきたきた日々
それが天智天皇の皇子と戦をしなければならない
情勢になってきたときの苦しみと辛さ

この歌を読むとき
そんな大海人皇子の心の声が伝わってくる