たしたりひいたり

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の店主が綴る日々の出来事、コラム

梅次郎と春子 その4

2006年06月15日 | たしたりひいたり
「それでは、宜しくお願い致します。」

春子がクライアントとの打ち合わせを終えたのは、予定より40分も
遅い時間だった。随分かかってしまった・・・時計を見ながらひとり
つぶやき、駅に戻る道を歩きながら徐々に鼓動が早くなっていく。
疲れて息切れがするのではないことは判っている。
こんなにドキドキすることは随分久しぶりで、我知らず困惑する。

行きは東口から出たにもかかわらず、わざわざ遠回りをして西口へと向かう。
コンビニでお茶を買っていこう。

梅次郎がUターンして来てくれるとも限らない。
もし、来てくれたとしても改札を抜けるとも限らない。
改札を抜けても、伝言板に気付くことなど・・・

東口側にある伝言板を見ずに通り過ぎようという気持ちが働いたのか、
西口から改札へ向かったのだが、一口お茶を飲み、心を落ち着けた。
改札を横目に伝言板の方角へ。
枠からはみ出さないように気は使ったが、その分「梅ちゃん」という
字だけは太く濃くした。少しでも気付いて欲しい、との気持ちで。
随分太字にしたな・・・梅という字が目立っていて苦笑する。
伝言板の前まで後ほんの2メートル。
春子は立ち止まった。
春子の書いた伝言に矢印が付けられ、スペースの関係で小さいが太く
「春子へ」の文字。その下に「了解! 梅」

梅ちゃん・・・来たんだ、気付いたんだ。返事までくれたんだ。

しかし、誰かの心無いイタズラではないだろうか。
面白半分で「梅ちゃん」になりすまし、返事を書くのは簡単なことだ。
自分の指定した場所と時間は不特定多数の人間が目にしている可能性がある。
当日は少し離れた所で様子を伺うことにしよう。
そう決めて、切符を買いホームで電車を待ちながら、不安な気持ちを
抱えつつもなぜかしら浮き立つ気分で考えた。

この日は何を着ていこう?



つづく


コメント
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