3月14日(木)Windhoek to Namib desert
アフリカでどの国に行ったか、という話をするときに「ナミビア」という国名を出すと、一体何がナミビアにあるんだかまったくイメージできない、という人が多い。
自分も直前までその1人だった。
でもこの旅でどうしても欠かせなかったのがナミビア。
スケジュールを決めるときにかなり悩んだのだけれど(帰任直前にあまり長いこと会社を休みたくなかったので)、ここにどうしても行きたいがために、予定を2泊追加したのだ。
そんなナミビアの最大の目的地はナミブ砂漠。
日本では、2012年の紅白歌合戦でMISIAが中継で歌った場所として最近知られるようになったらしい。
世界最古の砂漠とか、300mもの砂丘は世界最大、とかいろいろ言われるけれど、初めてここの写真を見てあまりの美しさに引き込まれて以来、どうしても南部アフリカを旅するのにここを外すわけにはいかなかった。
と言っても、彼の地に着くのは簡単ではない。
首都ヴィントフックから、砂漠への基点セスリムまで約5時間のドライブ。さらにそこから砂漠の中心地ソススフレイまでさらに1時間。
ということで、舗装もされていない、見るべき景色もない道のりを延々車で行くという結構な苦行を経ないと、絶景には辿り着けないのだ。
覚悟を決めて、ガイドの運転する車に乗り込んだ。
この旅全般を通して各地で5人のガイドと行動を共にしたのだけれど、ナミビアのガイドPatrickとはものすごくしゃべり倒したな。そりゃそうか、砂漠への往復だけでも12時間の間2人でドライブだったんだから。
あまりにも景色が変わらないので、「音楽聞こうよ」と提案して、手持ちのiPodを車のダッシュボード上にしばらく置いていたら、砂利道を走る振動でiPodケースがボロボロに傷ついてしまった。
道理で乗り心地が悪いわけだ。
行けども行けども同じ景色のループの果てに、ようやく着いたのが休憩地点のSolitaire。
パソコンのカードゲームか!笑
道中でランチボックスを食べたり休憩を挟んだりで6時間近くかけてのドライブの果てに、ようやく景色が変わってきた。
ここが今夜泊まるロッジ、「NAMIB DESERT LODGE」(ってそのまんまの名前笑)。
まるで砂漠の中のオアシスみたい。
荷物を置いてすぐにソススフレイに出発。
午前中の気温は40度を超えていたらしい。今日の気温はまだいい方、午後から夕方にかけてはマシになるよ、38度くらいかな、というガイドの言葉に、喜んでいいんだかなんだかわからない。
ロッジから1時間半ほどかけて、ソススフレイの入り口に着いた。
入り口は舗装された道路があるし、まだそんなに砂漠って感じでもない。
そこからさらに内部に入っていくと、荒涼とした大地にダチョウの群れがいたりして、なんか気分が盛り上がってきた!
そしてついに・・・見えてきたー!
Duneがまさに山の峰みたいに連なっている。
一番高いDuneで300mを超えるという。
赤い砂の色と真っ青な空のコントラストが美しすぎる(写真はクリックして拡大してどうぞ)。
でも遠目に見るだけじゃつまらない。
ここからが砂漠の旅の本番だ。
車をいったん止めて、砂漠の砂の上を爆走できるジープの荷台に乗り込んで、さらなる砂漠の深部に連れて行ってもらった。
出発直後。ガイドに「飛べ!」と言われて張り切って飛ぶ私。
この時点ではそんな余裕がまだあったのだが。
ジープを降りた先はガイドと2人で砂の上をひたすら歩く。ただひたすら。
ただの砂の平地を歩くのがこんなにつらいことだと思わなかった。
ましてや上り坂になっているところのつらさときたら。
足が砂にとられてうまく前に進めない。まるで足枷を両足に括り付けたままドロドロの沼地を歩いているような気分。
立ち止まって休憩しようものなら、陽の光を浴びて熱を帯びた砂の上にじっとしていることが耐えられず、そうそう長くも立ち止まれない。
なんとかひと山越えた先に下り坂があって、その先がまた上り坂になっているのを見ると、思わず「なんで下るの!また上らなきゃならないじゃない!」と文句の一つも言ってしまう。
目的地に向かう途中、ちょうど10数名の団体が戻ってくるのとすれ違った。
私があまりにも息を切らして休憩しているのを見て、笑いながら「Don't give up!」と声をかけてきた彼らに、切れ切れの声で一言応えるのが精一杯だった。
そんな苦労の果てに辿り着いたのが、ここDeadvlei。
赤い砂漠の中に唐突に浮かぶ白い空間。
ここにはかつて川が流れていたのだけれど、数百年前に干上がってしまい、そのとき枯れた木がこうやってまるで沼地から生える木のように名残を残しているのだそうだ。
なんて不思議な光景。
こんな灼熱の砂地にこんな小さな虫が生きてるというんだから、自然ってすごい。
ようやくジープのピックアップポイントまで戻って、しばし一息つきながらも車窓の風景に目を奪われた。
それにしてもなんて美しい流線型をしてるんだろう。
よく見ると、風が吹いて山稜の曲線が刻一刻と変化しているのがわかる。
自然が作った芸術ということか。
一つのDuneが視界を通り過ぎたかと思うと、すぐに次のDuneが眼前に広がる。
こんな光景が次々に流れては消えていく。
砂地の悪路をスピードを上げて進むジープの荷台はかなりbumpyで、決して座り心地のよいものじゃなかったけれど、眼前の光景に目を奪われて、そんなことを気にしてる場合じゃない。
ジープを降りた私に、ガイドが心配そうに尋ねた。
これからDune45に行くけれど、登れそうか、と。
平地+ちょっとした丘を上り下りするだけで相当息切れしていた私を見て心配になったのだろう。
Dune45は、ナミブ砂漠の中でも最も有名な、最も美しい砂丘。
まさかよもや、ここまで来て行かないわけにはいかない。
これがDune45!!
ついに来た!来てもうた!!
Dune45の高さは約100mちょい。
さっきの苦労を思い出すと、これに登るという挑戦が自分にとって無謀なことなんじゃないかとさえ思えてくる。
でも後悔したくないの一念だけで最初の一歩を踏み出した。
・・・が、ほんの3m歩いただけで、「Wait...これちょっとマジきつい」と立ち止まってしまった。
(日頃運動不足の自分には)想像を絶するきつさ。
それは、強風に煽られることでさらにハードルが上がっていた。
徐々に本当に歩けなくなる。1m上っては立ち止まり。
時折座って休もうとすると、強風で舞い上がる砂が顔を直撃して目を開けることもできない。
そのうち3歩歩いて休んで、水を飲んで、3歩歩いて立ち止まって、というペースが限界になってきた。
だんだん英語さえしゃべれなくなってきて、ガイドに対してなぜか日本語で話しかけてしまう始末。
何度も「もう下りる?」と聞かれたのだけれど、「もうちょっと」と言って聞かない私に業を煮やしたのか、ガイドが肩を貸してくれた。
もう病人か怪我人か、ってくらいのフラフラ感で、ガイドの肩に支えられながらようやくここまで上がってきた!
もうね、こんな感じの傾斜のてっぺんを歩いてるのよ。しかも風に煽られながら。
そりゃもう怖いでしょうよ。
写真を撮るために座ったはいいけれど、目は開けられないし、笑おうとすると口の中に砂が入ってくるし、髪はぐしゃぐしゃだし、帽子はどっかに飛んでいくし(ガイドが砂丘を半分くらい駆け下りて取ってきてくれた・・・なんて強靭な脚力なんだ)。
もう最低。
でもでもでも最高の気分。
ナミビアなんて、地理でもろくに学んだ記憶のないアフリカの南西の国に来て、一人で(正確にはガイドと2人で)この絶景を独り占めしてる。
来てよかった。本当に。
行きはあんなに苦労したのに、帰りは一瞬。
なんとこの斜面(正面から撮った写真を見ると、左側の影になっている方)を駆け下りるのだ。
駆け下りるなんて言っても、足がズボズボ砂にはまるし、ブーツの中も砂でいっぱいだし、実際にはかなりゆっくりなのだけれど、行きの苦労を思えば帰りはなんとも爽快!
無事に下まで降りてくると、日はもう沈みかけていた。
夕日に照らされるDune45を撮影しようと三脚を立ててスタンバイしている人たちがちらほら。
名残惜しみつつ、私たちはDune45を後にした。
また1時間半かけてロッジへと戻る道すがら、夕日が砂漠の彼方に落ちていった。
ロッジに戻ってシャワーを浴び、つま先から耳の穴まで砂まみれになった体を洗って、ようやく夕食の時間。
その日のロッジのお客さんは私以外全員ドイツ人らしい。元々ドイツの植民地だったので、今もドイツからの観光客が多いのだそう。
唯一のアジア人女性が1人で現地ガイドと一緒にディナーを食べている姿って、どう見られてるのかな、とどうでもいいことを考えていたら、疲れのせいで酔いが回ってきて早々に撤退することにした。
最高の1日を記憶に刻みながら、あっという間に眠りについた。