さて次は「洪水警報の危険度分布」を参照しながら当時の千曲川の状況をレビューしてみましょう。
第一章 避難勧告の発令
令和元年 10 月 12 日洪水(台風 19 号)に関する・・・[第8報]
http://www.hrr.mlit.go.jp/chikuma/bousai/shussui/20191012kouzui/191012%20kisyahapyou08.pdf
『・・・
4.河川管理施設等の被害状況(10 月 13 日 07 時 00 分現在)
千曲川:上田市国分地区にて堤防越水(12 日 20 時 10 分)
長野市篠ノ井横田地区にて堤防越水(12 日 20 時 23 分)
長野市篠ノ井塩崎庄ノ宮地区にて堤防越水(12 日 21 時 27 分)
千曲市雨宮地区にて堤防越水(12 日 21 時 43 分)
長野市松代柴地区にて堤防越水(12 日 23 時 18 分)
長野市篠ノ井小森地区にて堤防越水(12 日 22 時 15 分)
千曲市雨宮地先にて堤防裏法面の欠損延長約 15m を発見(13 日 00 時 35 分)
長野市穂保地区にて堤防越水(13 日 00 時 55 分)<--やがて決壊に至る
須坂市北相之島地区及び小布施町飯田地区にて堤防越水(13 日 01 時 45 分)
(飯山市静間バイパス地区にて越水 13日2時:この部分河川事務所の報告に挿入、追記)
小布施町山王島地区にて堤防越水(13 日 02 時 58 分)
中野市立ヶ花及び栗林地区にて堤防越水(13 日 03 時 25 分)』
(飯山市今井地区にて越水 13日5時41分:この部分河川事務所の報告に挿入、追記)(注6)
この報告から分かります様に飯山に近い所では「篠ノ井で12日20時23分に堤防越水」しています。
そうして「洪水警報の危険度分布」では20時30分にそれまで赤色だったものが黒に変わりました。
(20時での千曲川の状況)
この30分後に「赤」ーー>「黒」に変わりました。(注1)
「黒」というのは気象庁によれば
『流域雨量指数の実況値が過去の重大な洪水害発生時に匹敵する値にすでに到達。
重大な洪水害がすでに発生しているおそれが高い極めて危険な状況。』
となっています。
それまでのカラーパターンの表示は3時間後の状況の予測値で「オレンジ」-->「赤」でしたがここで「現在の計算値で」「黒判定」となったのです。
そうしてこの時に千曲川の長野県流域のほとんどが黒になりました。
この黒表示は篠ノ井での状況を正確に把握していた、という事になります。
しかしこの時の飯山の水位は4.5m程でした。
これは「この時の飯山の状況はうまく計算できていなかった」という事であります。
しかし時間が経過し飯山でも今後も水位の上昇が続く事は予想でき、しかもそれが危険水準に達するであろう、と言う判断はこの時点で可能でした。(注2)
それでこの時点での飯山市の対応は次の様でした。
台風19号に関する被害状況等(令和元年10月13日 10:00現在)
↓
10月12日 20:45 木島地区、常盤地区に避難勧告発令
木島地区は城南中学校または木島平村若者センターへ避難してください。
常盤地区は城北中学校へ避難してください。
この対応は「洪水警報の危険度分布」の「千曲川に黒色出現」という観点から見ても、そうしてまた「深夜にならずに早いうちに避難を完了する」と言う観点からみても「妥当なものであった」という事ができそうです。
しかしながら残念な事にこの時の避難勧告は「飯山市全域に発令される事はなかった」のでした。
第二章 具体例の検証
・静間バイパス沿い 千曲川水位上昇による浸水
http://archive.md/sqUda
・その2
http://archive.md/5xdyd
・その3
http://archive.md/9NALB
最初の写真の左側の写真はヤマダ電機の位置、そうして右側の写真が今回対象とするエリアの写真になります。
なおページに示されている日時はサンフランシスコ時間であり、日本時間に換算すると最初のは13日の午前11時52分、水位観測所では9.68mの水位、二枚目は12時17分、三枚目は7時31分、千曲川水位は11.07mのほぼピーク水位での撮影でした。
この場所には静間簡易郵便局がありこの区域が浸水がひどかった模様です。
この場所の地図は「静間簡易郵便局」でググってもらえればヒットします。
航空写真はこちらです。
http://archive.md/p05Ek
右下に千曲川があり、この区域は堤防はなく、山から続く自然の斜面になっています。
そうして右下から左上に簡易郵便局の横を通る道沿いに水が上がってきたものと思われます。
それで最初の写真の右側に写っているのは「Sキューブバイパス店とその駐車場」です。
但し飯山市発令の避難勧告の中にはこのエリアを対象としたものは見当たりません。
↓
『10月13日 2:30 大深区の一部に避難勧告発令
2:50 伍位野区の一部、中山根区の一部、上組区の一部に避難勧告発令
伍位野区は秋津地区活性化センター、中山根区、上組区は各集落センターへ避難してください。
3:20 北町区に避難勧告発令 市公民館へ避難してください。
4:00 有尾区の一部に避難勧告発令
4:00 秋津地区大久保区の一部(国道117号バイパス沿い)に避難勧告発令・・・』
それでこの静間バイパス区間に割と近いのは
『 4:00 秋津地区大久保区の一部(国道117号バイパス沿い)に避難勧告発令』
になります。
さてそれで、地図データからこの場所の標高は318.8mであり、水位標高がそれをこえると浸水が始まる事が分かります。(注3)
そしてこの場所は水位観測所の上流2.79kmに位置している為、千曲川河床勾配が1/1000である事を考慮すると水位観測所の水位標高に2.8mをプラスすればこの場所の水位標高になる事になります。
それから逆算しますと飯山水位観測所(標高307.1m)で8.9mの水位を越えるとこの場所での浸水が始まる事になり、その時刻は13日の午前2時であることが分かります。
さてそういう訳で、4時に発令された避難勧告にこのエリアが対象として含まれていたとしても、避難勧告発令時にはすでに浸水が始まっておりその水位は1.3mに達していた事が分かるのです。
さらに付け加えますれば、このエリアでの浸水限界水位は事前に上記の様にして計算可能である事は市役所の知るところでありました。
しかしながら市役所はその情報をこのエリアの方々に伝えた形跡はありません。
そうであればここでは「水害を未然に防止するにはどうしたら良いのか、という事に対する市役所の配慮の無さ、熱意の無さ」を指摘しておきます。
ちなみに限界水位が8.9mである、という事が事前に分かっていれば、立ヶ花観測所での水位が8.9mを超えた時点でこの場所の関係者の方々は対応策を取り始める事が可能でした。
と言いますのも、ほぼ立ヶ花観測所の水位が2~3時間ほど後で飯山水位観測所で再現される事になっているからです。(注5)
そうして立ヶ花で8.9mの水位を越えたのは、13日の午前0時でした。
追伸
上記エリア(区画)の南側にあるパチンコ屋さんの駐車場から千曲川を撮った写真を以下に示します。
http://archive.fo/6avcY
http://archive.fo/u3TFZ
右側が千曲川上流となり、向う岸の山の手前に見えるのは北陸新幹線の高架レールです。
追伸の2:この静間バイパス地区で自衛手段としての水防活動に有効活用できる水位計についての記事を書きました。それにつきましては以下のページをご参照願います。
・その後の状況報告・2
第三章
避難勧告の解除
出した避難勧告は今度は解除しなくてはいけません。
上述した飯山市のHPからその部分を引用します。
『13日 9:15 木島地区全域、冠水地域を除く常盤地区、伍位野区、上組区、中山根区、戸那子区、中組区、富田区の避難勧告解除を発令』
さて9時の千曲川の水位は10.7m、10時の水位は10.4m、そうして堤防の計画高水位は10.4m。
どうして飯山市は水位が計画高水位を下回った事を確認してから避難勧告を解除しないのでしょうか?(注4)
基準がなくただ単に「そろそろいいだろう」という事で解除したのですか?
それとも解除基準が計画高水位以上でも解除可能になっているのですか?
この件、飯山市に「どのようにして避難勧告解除の時刻を決めたのか」説明を求めたいと思います。
注1
台風19号での「洪水警報の危険度分布」詳細にはこちらから入れます。
https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/meshjirei/jirei03/suigaimesh/flood.html
注2
このように相当早く飯山での千曲川の「洪水警報の危険度分布」に「赤色」や「黒色」が現れるという傾向はこれからも続くものと思われます。
そうして飯山市はその事を理解している必要があります。
注3
飯山地図+標高読み
http://maps.gsi.go.jp/#15/36.835782/138.359525/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1
センターにある十字クロスの位置の標高が左下に表示される。
注4
飯山水位観測所での計画高水位10.42mと避難勧告水位9.4mの関係について。
計画高水位については以下のページを参照願います。
計画高水位
http://archive.md/uw7k
実際の河川水位が計画高水位を多少越えただけなら、堤防の高さには余裕があるのですぐに堤防からあふれ出すことはありません。
しかし「計画高水位はその堤防が継続して耐えられる水位」であって「この水位を超えた場合はすぐに決壊する」という事ではありませんが「決壊の危険性が発生する」という事にはなります。
従って「決壊にそなえて避難している事が必要」となります。
それで飯山水位観測所の計画高水位は
飯山水位観測所
http://archive.md/2wyfk
より10.42mである事が分かります。
そうでありますから、避難勧告発令の水位は計画高水位よりは1mほど低い所に「飯山市によって設定された」のです。
そうしてこの設定はまずまずは妥当なものであろうかと思われます。
といいますのも、この場所での堤防の天端は12mであって、越水が発生するのはその値を水位を越えた時となるからであり、そう考えますと越水までは避難勧告発令から2.5m程の余裕がある、という事になるからです。
注5
立ヶ花水位観測所
http://www.river.go.jp/kawabou/ipSuiiKobetu.do?obsrvId=2154500400004&gamenId=01-1003&stgGrpKind=survForeKjExpl&fldCtlParty=no&fvrt=yes
このページから過去の立ヶ花水位データにもアクセス可能です。
「過去一週間のデータ」から 「水文水質データベース」にアクセスとなります。
注6
飯山市報に今回の水害の場所についての報告があります。
https://www.city.iiyama.nagano.jp/assets/files/kikakuzaisei/koho/r01.11/2-11.pdf
pdf2ページ目の下段に「千曲川水位上昇による浸水箇所」として
・大久保区
・静間バイパス沿い
・関沢区
・今井区(常郷:ときさと この場所は「今井」ではなく「常郷」ではないのか?)
が上げられています。
その中で「・静間バイパス沿い」については上記内容の様に検証できました。
それで上記中「・今井区」とされている場所の千曲川氾濫映像はネット上にアップされています。
・今井区
http://archive.md/l6UhR
撮影時刻は13日の5時41分。
その部分の動画は下記URLの上から4つ目の映像にあります。
撮影時刻は13日7時06分。
https://matomedane.jp/page/39432
動画のコメントには「今まで、ここまで増水した事はない。多分、過去50年で最大」と記されています。
こうしてなるほど「洪水警報の危険度分布の黒表示は伊達ではない」という事が確認できるのです。
地図上の場所はここ。
http://archive.md/iHXEw
拡大表示はこちら。
http://archive.md/QGz9q
いずれの映像も表示されている十字クロスの位置から道の東側にある建物を含めて千曲川を撮影したもの。
その場所の航空写真はこれ。
http://archive.md/95HXI
2つの建物の間にある火の見やぐらによって場所の同定が可能になりました。
ちなみに「・今井区」とされているこの辺りの場所にも避難勧告は発令されていない模様です。
追伸
この話の続きは「その24」および「その25-1~5」となります。
↓
飯山市の皿川氾濫に見る問題点の検討・一覧