シリウス日記

そうだ、本当のことを言おう。

その20・飯山市の皿川氾濫に見る問題点の検討

2020-01-10 16:26:08 | 日記

「流域雨量指数による洪水警報・注意報の改善」という気象庁の解説記事がある。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/sokkou/75/vol75p035.pdf

それを参考にして話を始めよう。
PDF全34ページ中20ページ目下段イラストに3つの水害のパターンが示されている。

それによれば
『河川の周辺の地域の内水が,河川の水位が高くなったため排水できずに発生する現象を 「湛水(たんすい)型内水」』
と呼ぶ氾濫形式と示されている。
そして皿川で問題になるのは主にこれである。

皿川上流に降った雨が流れ下り千曲川に流れ込む。
千曲川の水位が低ければ何の問題もなく皿川の水は千曲川に流れ込む。

問題は「千曲川の水位が上昇した時」に発生する。
しかも今回明らかになった事は「千曲川水位が8mを越えるとバックウオーター現象が発生し、樋門が開いていて、皿川の水位が千曲川よりも高くても皿川の水が千曲川に流れ込まない」という事実である。

その結果は皿川側に水が溜まりついには越水し氾濫する、という事になった。

それでは「どうしたらいいのか」といえば、千曲川の水位が8mを越えたあたりから危険な領域に入りこむのであるから、皿川水位に注意しながらいつでもゲートをおろして樋門を閉めれるようにして待機し、樋門をしめたらすぐに排水ポンプ車で排水作業を行う、という「基本動作に戻る事が必要」という事になる。

以下過去の災害例を以上の観点からレビューしておく。
(但し以下の飯山の水位は全て飯山水位観測所の値である。)
事例1
H16(2004年) 10月21日 台風23号
立ヶ花ピーク 21日 9時 10.31m
飯山ピーク 21日 9m越え (12時頃)

立ヶ花から飯山まで3時間でピークが到達するとすると12時ころに飯山がピークになったものと思われる。
この時の飯山の雨の降り方は20日の21時にピーク値の一時間当たり13ミリ、その日の24時間雨量は103ミリであった。

そうして文頭にあげた資料の18ページを見るとわかるのだが、降水量のピークから水位のピークまではだいたい4時間の遅れが生じている事が分かる。
そうするとこの時皿川の流水量のピークは21日の1時という事になる。(注2)

さてこの頃は真面目に樋門を閉じて排水ポンプ車で即時排水をしていたと思われる。
そうして千曲川水位が8mで樋門を閉じた、としようか。

その時刻は千曲川水位データから9時頃である事がわかる。
さてそれで何が言いたいか、といえば、9時というのは皿川流量ピークから8時間後であり、なるほど24時間雨量は今回の台風19号なみではあったが、皿川の流量はすでにピークの値の半分以下になっていた、という事が計算で示せるのである。(注1)

そういうわけでこの時は「樋門を閉じて排水ポンプ車で排水して無事終了となった」のであった。

事例2
H18( 2006年) 7月19日 梅雨
立ヶ花ピーク 19日 15時 10.67m(10m越え12時~18時)
飯山ピーク 19日 10m近い (18時頃)

24時間雨量     一時間雨量最大値
18日 49ミリ  22時と24時に6ミリ
19日 44ミリ  2時に9ミリ(11時から晴れ)

以上より皿川水量ピークは19日の6時ころであり、他方で飯山の千曲川ピークは18時頃、8mを越えたのは11時頃である事が分かります。
11時に樋門を閉めた、としてその時は皿川流量ピークより5時間後であって、流量はピーク値の68%程度になっていた事がわかります。(注3)

しかもそのピーク値は24時間雨量でもわかります様に事例1の半分程度であると思われますので、この場合も「樋門を閉じて排水ポンプ車で排水して無事終了となった」のでありました。

事例3
2017年 10月23日 台風21号
立ヶ花水位ピーク 8.22m 15時
飯山ピークは 8m  18時頃
24時間降水量 119.5ミリ(3時13ミリ 9時10ミリのダブルピーク)

皿川水量ピークは7時と13時、千曲川水位ピークは18時、ここでも千曲川水位ピークは皿川流量ピークの5時間後であって、なおかつ千曲川水位が最大値8mであったため、「樋門は開けっぱなし」でもバックウオーターは発生せず、皿川の水は千曲川に自然流下したのでありました。

こうしてこの場合はここ10年間やってきた方法、「皿川樋門開けっ放し対応」でぎりぎりセーフであった、という幸運な事例でした。

事例4
2019年 10月13日 台風19号
立ヶ花水位ピーク 12.44m 4時
飯山ピークは 11.17m  7時
24時間降水量 
12日 98ミリ (最大17時10ミリ)
13日 31ミリ

皿川流量ピークは12日21時、千曲川水位ピークは13日7時、8m越え時刻は13日1時、この時刻は皿川流量ピークから4時間後であって皿川流量は71%程度になっていました。(注4)
しかし千曲川水位が8mを越えたためにバックウオーターが発生し、排水ポンプ車による排水作業は行われませんでしたから、皿川堤防内は満水となり、やがて越水し氾濫しました。

今回も「樋門は開いたままとする」という水防計画でしたから皿川には排水ポンプ車の事前待機がありませんでした。
しかしこの時点で少なくとも本当に樋門を閉じていたならばその後に発生した千曲川からの逆流は防ぐことが出来たでしょう。
しかしそのようにはできませんでした。

そうして皿川堤防の弱点部分であった右岸の飯山線接続部分が決壊したのは越水から2時間後の4時15分でした。
この時刻でもまだ千曲川の水位は上昇し続けていましたから千曲川からの逆流が発生し、決壊部分から千曲川の泥水が市内にあふれ出しました。

こうしてここ10年ほどは「何事もなくやり過ごせてきた皿川樋門開きっぱなし対応という手抜き方法」は終わりを迎える事になったのであります。

さてこの時、もし仮に千曲川水位が8mで止まっていてくれたら、皿川上流域に「観測史上最大の降水量があた」としても、何事もなく過ぎた事でありましょう。
しかしながら、自然はそれほど甘くはなく、「基本を逸脱した樋門操作とポンプ車の配置」には「相応の報いが待っていた」という事になりました。

そうして気に入らないのは「市役所と河川事務所のみが報いを受けるだけだけならば良いのですが、飯山市民を巻き込んでしまっている事」が、そうしてそのくせ「俺たちは何も悪い事はやってない」とシラを切る態度がどうにも我慢が出来ないのであります。

なぜシラを切れるのでしょうか?
都合の悪い情報は一切公開せず、関係者の中だけで秘密にしておくことが可能であるからです。

注1
この計算についてはページを改めて記述します。

「その25-3」の計算によればピークの8時間後では流量は8割程度までしか減少していない。
雨の降り方にもよるが、5割以下という事はなさそうである。
そうであれば「事例1」の例によれば「8割程度まで減少していればポンプ車の排水で対応可能であった」と言うように理解しておくのが妥当であろう。

注2
皿川樋門の皿川側に水位標が立っているが、そこで読み取れる値は皿川の水位というよりは、皿川ダム湖の水位と言う方が今回の様な状況の場合は正確な表現となる。
それでは皿川の水位はどこで計ったらいいのか、といえば、踏切から上流にある2番目の橋のあたりが妥当であろう、という事になる。

2番目の橋・英岩寺に渡るための橋
http://archive.md/VyYz6

注3
「その25-3」の計算によれば「68%」ではなく「86%」となりますが、事例2の結論には影響せず「問題はなかった」という事になります。

注4
「その25-3」の計算によれば
『皿川流量ピークは12日21時、千曲川水位ピークは13日7時、8m越え時刻は13日1時、この時刻は皿川流量ピークから4時間後であって皿川流量は71%程度になっていました。』

「皿川流量ピークは13日0時~1時、千曲川水位ピークは13日7時、8m越え時刻は13日1時、この時刻は皿川流量ピークと同時刻であって皿川流量は100%でした。
と訂正される事になります。
これはつまり「今回は最悪の条件でした」という事になります。

追伸
飯山市街地にとっては皿川と言う川は今後もアキレス腱として存在し続ける事になります。
そうして地球温暖化に伴う台風の大型化と降水量の増加という状況がますます皿川を「ハイリスクの川」にしてゆく事になります。

そうであれば「皿川樋門開けっ放し」で「何もしない、ほかりっぱなし皿川対応」という事はもはや許される状況にはありません。
飯山市役所と千曲川河川事務所は以上の事を本当に反省し、今後に生かす事が必要であります。

飯山市の皿川氾濫に見る問題点の検討・一覧