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plainriver music: yuichi hirakawa, drummer in new york city

ニューヨークで暮らすドラマー、Yuichi Hirakawaのブログ

an innovative trombone player has gone

2005年08月04日 | 音楽
もう先週の事になってしまったが、ドイツのジャズトロンボーン奏者、Albert Mangelsdorff氏が亡くなった。

ヨーロッパのジャズマンとしてはいち早くロックやアヴァンガードの要素を取り入れた。また、本来なら単音しか出ないトロンボーンで複数の音を出す奏法をあみ出した。僕が初めて彼の演奏を聴いたのは、70年代の寄せ集めビッグバンドJazz Galaとのものだった。

コード一発の部分が多いその曲でのソロは未だ忘れられない。音色は淡々としているが、もの静かでは無い。一つ一つの音は確信に満ちている。凄く「余裕」で吹いているように聴こえた。冗談と本気、浮遊感と不動感、空飛ぶ鳥と地に根を張る木。そんな相反した要素でできたような音色でのそのソロを聴いた時、何か音楽以外の独特のイメージが伝わってきた。それは強いインパクトを持った映画の一シーンを観た時に得るものに近いかもしれない。「匂い」とでも言ったらいいのだろうか。

浮遊を感じたのは、タイミング的にすこ~し遅れ気味で吹くセンスの良いフレーズが出た時。そのフレーズの終わりの音が上の方にクゥィーンと行きつつフェイドアウトされた時、なにかが宙に浮かんでは消えた、ような気がした。

不動を感じたのは、複数のフレーズ間で、終わり方にある規則みたいなものが分かった時。ランダムなものはステディーなものと比較すると際立つ。

トロンボーンは長く伸びた二重の管をスライドさせて音階を吹く。ピアノの白鍵と黒鍵やギターのフレットのように音を区切るものが無いから無段階に音が出る。区切りがないからドレミファソラシド、と正しく区切って吹けるようになるには相当練習しないといけない。でも上手くこの特性を使えば、独特の音使いができる。ギターでのチョーキングやスライドと同様、一気に幾つのも音階を駆け抜ける音にはインパクトがある。ただしやり過ぎると激しくダサくなる。

その後彼の2枚組CDを買って聴いた。ベースがJaco Pastorius、ドラムがAlphonse Mousonのトリオのライブ盤だった。サウンドはジャコのフレットレスベースと初期のウェザーリポートのドラマーだったムゾーンがリズムセクションだ。彼らは70年代から80年代にとても流行ったフュージョンの立役者だったから、前の時代の音という感じは拭いきれない。けれども内容は独創的だし、一つ一つの音に気合いが入っていて、カッコいい。何せベーシストとして一つの時代を創ったと言って過言ではないジャコが入ったコードレストリオである。個性のぶつかり合いとはこういうのを言うのだろう。一発聴いただけで、誰だかすぐ分かる音のコンビネーションだ。聴くのに相当のエネルギーがいるが、ハマると凄いことになる。

コロンビア大学のFM局で追悼の意味で(だろうと思う)、彼の作品を時系列に沿って流していた。その時、初めてこの独創的トロンボーン奏者がとてもトラディショナルなジャズ、誰が聴いてもジャズ、を演奏しているのを聴いた。当然、しっかりと「ジャズ」の音になっていた。フリージャズやアヴァンガードジャズは、僕にとってそれほど慣れ親しんでいるとは言えないスタイルだ。でも一つだけ言いたい。このスタイルで凄い人は必ず伝統的なジャズをしっかり聴きまくり、相当上手く演奏出来る。人によっては期間限定で先人の誰かにソックリというケースもある。でもそれは良いのだ。人のコピーはするなら徹底してやらないと実りは少ない。こういうことが出来ないのにフリージャズだとしてやっている奴はイカサマだ。

誰にでもユニークなことってできるけれど、人にインパクトを与えるには自分が取り組んでいるものの歴史を踏まえつつ、その凄さに押し潰されずに自分の感性を表現できなければダメだ。いつもはったりばかりでやっている音には深みは無い。

God bless Mr. Mangelsdorff.