絵じゃないかおじさん

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あ@仮想はてな物語(逸話) 芋峠の不思議  1/9

2019-02-05 08:06:07 | 仮想はてな物語 

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 * 芋峠の不思議(054)


さわやかな夏の朝だった。
私は4時半に眼が醒めた。
休みの日は何となく早く起きてしまう。
これは別に、私が意識しているのではないが、
身体のヤツが勝手に反応するのだ。

私の知らない部分で
細胞のヤツラが談合しているのかも知れない。


{今日は早く起きて
オッさんを酷使しても休みだから、
少々の無理はきくゾ}などと、
日頃の欝憤晴らしを、
私にさせようと挑発しているのだろうか? 



つづく





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きっと、外に連れ出してくれと催促しているのだろう。
私は、素直にヤツラの勧めに応じるタイプだ。
その前に、新聞をパラパラとめくる。
大見出しだけを追う。


中身はほとんど読まない。
ただ、大見出しぐらい見ておかないと、
会社で人の話についていけないことが、
たまにあるから、そんな時に備えて
眺める習慣だけはつけている。


会社員であるからには、
それぐらいはしておく必要があるのだろう。
また、見出しを見ておくだけで、
重大な話は、人が問わず語りしてくれるから、
もうそれだけで十分であるのだ。
2分とはかからない。




つづく





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私は、ふと芋峠を走ってみたくなった。
早朝の峠はきっと気持がいいぞ。
私は、素早くツーリング用の服装で身を固める。

夏といえども、
最近では、革ジャン、革ズボン、ロングブーツの
3点セットを身に着ける。

小さな事故を起こして怪我をして以来、
特に神経が過敏になっている。だから、
転倒することを前提にしてサヤカに跨がるのだ。

いくら、不思議な能力を持つサヤカとは言え、
マシンの100%の支配は出来てはいない。
バイクに乗る時には、私とサヤカとマシンの、
調和のとれた協力関係が必要なのである。



団地のはずれまで、バイクを押して歩く。
休みの朝早く、
バイクのエンジンの始動音は近所迷惑になるから、
気を使っているのだ。

風がサッと流れて行く。
そんな服装でも外に出ると暑くは感じられない。
夜通しで空気がよどんだムンとした室内では、
ため息つくほど気持悪いのだが、
夏の朝の戸外はからりとしていて、
まだ冷え冷えとする感じさえ受ける。


つづく





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早朝の信号機が黄色や赤のまま、点滅している。
交通量も、そう多くないので、
3色に変える必要がないのだろう。

香久山、石舞台、カヤの森から、芋峠へと向かう。
すがすがしい空気が歓迎してくれる。

緑が猛々しい。
道端に生えた山草が、腕やヘルメットや脚を打つ。
道幅が狭くて、走りづらい。
所々、刈り取られた道の端に出会うと、
むさくるしい頭を散髪したようで、
スカッとして気持がいい。



つづく





あ@仮想はてな物語 芋峠の不思議  5/9
  


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いつもは石舞台の冬野川にかかる都橋から吉野の千股まで、
10kmあまりを30分ぐらいで走っている。

その山道の中ほどの所に役の行者の石の像がある。
その数100m前後が、この峠の難所だ。
あたりは、昼間でも薄暗く、急カーブになっている。

冬場などは凍結していて、
何度も恐ろしい目を味わっている。

この道は前にも書いたように、
私の練習用の山道である。
暇を見つけては、やってきている。


役の行者は石に浮き彫りにされていて、
右手に杖を持ち座り込んだポーズをとっている。

目をドカッと見開き、
すんなりと伸びたあごヒゲが印象深い。
額の皺に何とも言えぬ共感を覚える。
痩せているのが、またいい。
肥満は地球の資源の浪費につながっているからだ。
そうは言うものの、ガソリンを浪費する自分自身の行動には甘い。

きっと小さい頃、砂糖に飢えた精神が甘さをたっぷりと貯え、
身体の隅々で過飽和状態になっているからだろう。



つづく





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この道を夜遅く通る時には、
あの見開いた目の眼が光っているような気がするので、
絶対に彼の姿を見ないように素通りしている。

だが、今日は早朝なので、
傍で一休みして煙草でも吸おうと思った。


あれっ!

役行者がいない。
右よしの山上、左ざいみちと書いた、
のっぺりとした石が、ひっそりと佇んでいるだけである。

私は、不思議に感じたが、きっと痛んだので石工が取り外し、
修理でもしているのだろうと思った。

サヤカを止め、
山川の瀬の音を聞きながら、
黒いヘルメットを脱ぎ煙草を取り出した。


キエーッ!



つづく





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奇妙な声。
鳥の声かと思ったが、数分おきに聞こえてくる。

どうも人の声のような気がしたので、
その声の出場所を突き止めようと歩いて行った。
ダボハゼ精神がメラメラと湧き起こる。
メットを被り、サヤカのエンジンをかけ低速にしておく。

すぐに逃げられるよう最善の準備をしておいた。
こんな山中で人災に遭うのはかなわないと思ったからである。

しかしながら、早起きする悪人は居ないだろうという
常識が安堵感を与えてくれる。



ざいみちである旧道を数分登ってゆくと、
声の出場所がわかった。

ヨレヨレの薄汚れた着物を着たジィさんが、
道から少し上がった木々の間に見えた。

私は、咄嗟に木の陰に隠れ、
恐る恐る覗いてみた。

あの役の行者だった。
身体は拡大コピーされていて、
普通の人並みの大きさに膨れあがっている。



つづく





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ジィさんは、木を杖で叩いたり、
足で蹴ったりしていた。

あの奇妙な声は、足を使った時に発していたのだ。
叩いたり、蹴ったりするたびに
木から白い花粉が舞っている。

その瞬間を捕らえて、
ジィさんは、素早く口をパクパクと動かしている。

ああ、霞を食っているというのは、
この事だったのかと一人納得する。



つづく





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ジィさんの朝食はこれだったのだ!

私は、すぐさま彼にエンジーと名付けてやった。
その場をこっそりと離れてサヤカの所へと引き返した。
すぐにエンジンを切り、ニュートラルにして、
元来た道を下った。

エンジーの隠しごとを覗いたようなので、
彼に悪いような気がしたのだ。
坂道を下りきった所でエンジンをかけた。


エンジーのあの足を振り上げる様子、
飢えたようにぱくつく口の動き。
仙人の域に達しているというのに、
中々人間味があって、好感を持てた。

しかし、あれで花粉症によくかからないものだ。
いつもは澄まし切って山道を見守るエンジー。
彼にも、あんな秘密があった。

ああ、おもろいモン見た。

早起きも、時にはしてみるもんだなあ。


 きぇぇーっと 掛け声渡る 朝木立
  役の行者の 朝餉にござる
                     ち ふ

                                 
                               
  おわり






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