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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
平成はじめのころです。
* 智頭落葉の口づけ (008)
その日は、西名阪・近畿自動車道・中国自動車道(佐用)・373号
を通って、53号に入り、鳥取砂丘にゆく予定であった。
秋も終わりに近い。
山のなかの紅葉は、南斜面と北斜面とでは、大分違っている。
だが綾なすという言葉がぴったりしているのはたしかだ。
小雨がときおりパラついていた。
走っていると、冬の寒さが襲ってくる。
風を防ぐために、上下青色のレインウェアを羽織っていた。
妻のOさんが、通信販売で買ってくれたシャレたものだ。
だが、背丈が低く、ぶ格好な私は何を着ても似合わないと
アキラメている。
私をぴったり表現するものを作ってみろと
半分居直ってもいるのだ。
防寒にも役に立つから、私は、いつもこのレインウェアを
持ってゆく。
それに遠出をすると、天候がどう変わるかわからないからだ。
特に、山の中が好きな私は、途中でよくコースを変える。
山の中は天候もよく変わる。
コースと言えば、私はろくに地図は見ない。
知っているからではなく、知らないから見ても覚えきれないのだ。
道を知らなければ聞くことができる。
人と話ができる。
ささやかなふれ合い。
人の持つ上ずみの澄みきった部分に出会うことが出来るのが
嬉しい。
たまには、わざと変な道を教える輩もいないではないが、
そんなこといちいち気にしていたら、人の良い部分には
出会えないのだ。
道を教えてくれる人は、概して親切だ。
実にいい顔をしてくれる。
私は、その顔々がたまらなく好きだ。
どう見ても悪人には見えない。
土地の言葉も聞ける。
そんな楽しみ方もあるのだ。
今日は、どんな顔に会えるかなと思いながら、智頭から53号に
入るつもりで気持よく走っていた。
小雨も上がってきた。
右手前方には、大きな銀杏の木が見えていた。
道路には、銀杏の葉が散っている。
その傍に近づいた時、急に竜巻のような風が吹いた。
その瞬間、
道路に散らばっていた銀杏の葉っぱが、アッという間に
若い女の姿になり、何と私に口づけをしてくれたのだ。
なぜ、女で、その上若いのか?
よくわからなかったが、雰囲気でそう思った。
私とサヤカを包むようにして、確かにヘルメットごしに2~3回
口づけをしてくれたのだ。
一瞬、ハンドルが揺れたが、そう大したことはなかった。
ちょっと過ぎ去ってから、後をふりかえると銀杏の落葉は
何事もなかったように道路に重なって散らばっていた。
Oさん、鼻の下長くしてゴメン!
枯れ落葉 若き女の 姿借り
淡き口づけ 晩秋恋路
ち ふ
この項おわり