凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

飯島真理「セシールの雨傘」

2006年06月20日 | 好きな歌・心に残る歌
 梅雨どきになると思い出す歌がある。飯島真理の「セシールの雨傘」。

 飯島真理さんはもう日本を離れてアメリカに渡ってずいぶん長くなる。僕よりも年上のはずだがいまだに若い。→HP 素敵だなと感嘆する。
 飯島真理さんと言えば、アニメファンなら「超時空要塞マクロス」のリン・ミンメイ役で有名。僕も飯島真理さんを最初に知ったのはマクロスだった。ただ、折に触れて聴いていると心惹かれるものがあり、アルバム「ROSE」「blanche」「Midori」と聴き及んだ。コンサートにも出かけたことがある。
 余談だが、僕は当時学生だったけれども、コンサートに出かけるときは必ず一張羅のスーツを着ることにしていた。アーティストに対するリスペクトのつもりで。時としてこの格好は浮くが、なーにかまわぬと押し通していた。この時もネクタイを締めて出かけたが、その格好で本当によかったと思った。何故かと言えば、周りの観客はみんな「ヲタク」風ファッションで埋まっていたからである。飯島真理さんといえば当時「愛・おぼえていますか」がヒット中で、観客はみんなアニメのヒロインを見るつもりであるかのように見えた。なので、埋没は免れた。
 一部の人に絶大な人気を誇った飯島真理さんも、その後しばらくして渡米。今もロスを中心に活動を展開されている。時々日本でも活動をされておられる由。

 「愛・おぼえていますか」はベスト10入りしたが、その後は爆発的なヒットはない。いい曲はリリースしているのだが、「アニメ声優」としてのイメージが少し引っかかってしまったのではないか。ミュージシャンとして先鋭的に活動すればするほど、ファン層との乖離があったのかもしれない。いい曲作る人なのだけれども。

 「セシールの雨傘」は「愛・おぼえていますか」の翌年リリースだが、評価は高かったもののビッグヒットとまではいかなかった。この曲は松本隆氏の作詞で、詞の中身はほぼ「ルビーの指輪」をなぞっている。哀しい別れと再会の歌だ。シングルバージョンよりも、アルバム「KIMONO STEREO」収録のアレンジの方が好き。
 この「セシール」という言葉の意味がわからなくて、僕は当時好きだった人に尋ねたことがある。

 「セシールって人の名前なの?」
 「えーっとね、人の名前は名前なんだけど…"悲しみよこんにちは"は知っているでしょ」

 フランソワーズ・サガンの小説「悲しみよこんにちは」。僕も当時は青春を引き摺っていた頃で、何年か前に読んでいた。主人公は18歳の小悪魔セシル。

 「あのセシルが"セシール"なのか」
 「映画化されたときにね、セシルを演じた女優さんの髪型が流行ったの。それで"セシル・カット"と言うのよ。前髪の短いショートね」

 そんな会話をした記憶がある。その好きだった人とは、ほんの短い時間で終わった。学生から社会人になる頃の、揺れていた心に貼りついて離れない追憶となった。

 社会人になった僕は、急に多忙な日々を送ることとなった。
 研修を終えてのち、5月、6月と休みらしい休みがなかった。こんなはずじゃなかった、もう辞めてしまいたいと何度も思いながら、辞表を書く暇もなかった。若かったから切り抜けられたのだろう。身体だけは丈夫だったのが幸いした。好きだった人のことは、忙しさに紛れさせて過去という想い出のエリアに移動させるチャンスだったのだが、そんなに簡単にもいかずまだ心の中で葛藤を続けていた。

 ある雨の日。僕はようやくひと段落ついて、夜まで仕事をしなくてもよくなり、夕方明るいうちに帰宅出来た。早く帰って寝るのが常道だが、精神が疲れていたのだろう。ふらふらと書店に入って雑誌の立ち読みなんかをしていた。
 何故かわからないが、僕はバイク雑誌の棚の前にいた。僕はバイクには乗らないしサイクリストでずっと通してきたのだけれど、ちょうど夏手前ということで、バイク雑誌が北海道ツーリングの特集を軒並み組んでいたからだろう。大好きな北の大地の写真を見ながら、僕はしばらくぼんやりとページを捲っていた。

 無意識にページを繰り、バイク雑誌は北海道特集から、街で出会ったバイク好き女の子、といったコーナーに移っていた。ただぼんやりと見ていた僕だったのだが、そこに、好きだった彼女の写真を見つけたときは驚いた。普段バイク雑誌など手に取ることはないのに。頭の中では「セシールの雨傘」が響いていた。

  雨の街で不意に君を見かけたのさ
  目が合ったのに知らん顔のセシール

 僕は雑誌を凝視していた。振り向きざまの可憐な表情は間違いなく彼女だ。名前も偽名ではなかった。ただ年齢は21歳って書いてある。二つも誤魔化してるな。
 ひとつ違ったところは、セミロングだった彼女は髪を切っていた。ショートヘアの彼女は初めてだ。ちょっと前髪が短い。これがセシル・カットなのかな。だとしたら、なんだかこの出逢いは出来すぎのような気がした。
 もしかして僕に見せようと思ったのか、と一瞬思って、その浅はかな考えに我ながら呆れた。僕がバイク雑誌など見ることはないと彼女はよく知っているはず。

 そのとき僕はようやく気が付いた。馬鹿だな僕は。彼女も、以前はバイクに興味などなかったじゃないか。

  花柄の傘はあの頃と同じ 寄り添う影が僕じゃないだけ
  新しい彼は優しそうだね 少し安心したよ

 一言コメントに「早く私も免許を取りたいです」と書かれていた。そうだよな。時は確実に流れている。僕は何故こんなに愚図愚図しているのだろう。本当に馬鹿だな。想い出にしようと決めたのはもうずいぶん前じゃないか。

  花柄の傘とすれ違うたびに 君じゃないかと覗き込むのさ
  短く揃えた栗色の髪 それが僕のセシール

 しばらくして、梅雨が明け夏がやってきた。それまであまりにも忙しく過ごしていた僕は、夏に休暇を普通より多く取ることが出来た。迷わず僕は自転車を担いで北海道へ行くことに決めた。彼女と出逢った北海道へまた行くことによって、僕のセシールを最終的に過去たらしめようと思った。あれはもう想い出なんだ。決して忘れることなどないけれども、上書きなどしないけれども、今度の旅は辿る旅にはするまい。そんな一人の感傷など北海道は凌駕させてくれるに違いない。旅を信じろ。

 そうして僕は、手間はかかったがようやく想いを昇華させることが出来たのではないか。彼女のことが本当に大好きだった。だから素直に、幸せに歩んで欲しいと思える。いつまでも忘れない。僕の宝石として大事にしまっておくに値する想い出。僕もまた自分の道を行く。いつでも胸を張れるように。
 その旅はまた、楽しい、忘れられない旅になった。広がる大地の風景。どこまでも高い空の青。吹き抜ける風。そしてまた、幾人もの得難い友人達と出逢った。
 そして、その旅で出逢った得難い友人の一人と、僕は後に結婚することになる。


 読んでくださってありがとうございました。


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24 コメント

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雨音さえ (アラレ)
2006-06-22 02:35:29
窓の外の雨音さえ

甘いメロディを奏でるような

胸がきゅんとなる思い出ですね。



キーワードが北海道

それもまた、縁というものなのでしょう。



好きになった人のことを

ずっと忘れないのは男の人の方が

多いと聞きます。



お金では決して購うことの出来ない

思い出…

時折、箱の中からとりだして見つめてみるのも

いいかもしれませんね。



誰もが寝静まった真夜中

窓の外に響く

雨音を聞きながら…



映画のワンシーンのような思い出

聞けてよかったです。



現在では、あの頃のような

淡いけれどピュアな想いを抱けるとは

思わないけど、あの頃の想いだけは

鮮やかに浮かぶのは、幸せなことですよね。
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>アラレさん (凛太郎)
2006-06-22 20:53:20
とにかく、長い自己満足の話を最後まで読んでいただいてありがとうございました。読んでくださっただけで感謝の極みです。



だいたい男の方が未練たらしいというのは定説ですが(笑)、僕もご多分にもれず古い古い話をこうやって文章化しています。でも書きたかったのですね。僕にとってブログは、以前にも書きましたが一種の「自分史」なので、この時の「想い」は何らかの形で残したかった。本当は一年くらい前から書こうと思っていて管理画面にはタイトルだけ打って残しておいたものなんですが(笑)、梅雨の時期を迎えてようやく書きました。僕にとっては松山隆弘さんの歌以来足掛け3年の完結編です。



繰り返しますが、本当に読んでくださってありがとうございました。
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若き日の思い出‥ (jasmintea)
2006-06-22 22:43:36
勝手にイメージを追ってしまうとタクローの世界みたいだな♪と。



「書く」って良いことだなぁ、表現できる言葉を持っているっていいことだなぁと思いました。



ステキな記事をありがとう
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>jasminteaさん (凛太郎)
2006-06-23 06:51:36
ともかくも、読んでくださってありがとうございました。長い話なんですが、また続き物なので分かりにくい話でもあるのですが、書きたかったのです。

書ける場を持てたことは幸せなことでした。同人誌を立ち上げたりしなくても書ける。いい時代になったなと思います。
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Unknown (NAO)
2006-06-23 15:35:29
思い出の美しさじゃなく、そのときの思いを大切にして、それが奥様との出会いにもつながって、また新たな思いが育っていく・・・



読んでこころがほわんと暖かくなりました

ありがとうございます
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>NAOさん (凛太郎)
2006-06-23 22:40:09
こちらこそ本当にありがとうございます。自己満足だけなんですけれども、そう言って下さると書いてよかったのかなと思えます。

ただ嬉しいです。
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偶然は繰り返す・・? (ヒロリン)
2006-06-25 21:37:48
 ・・・というより、やはり年代なのでしょうが(笑)。



 私も「マクロス」から飯島真理さんを知り、「ROSE」「blanche」「Midori」「KIMONO STEREO」と聞き込んだくちです。ただ、それが北海道であったこととコンサートには行かなかったことを除けば・・。



 いい曲はあったんですけど(1枚目は坂本龍一、2枚目は吉田美奈子とアレンジも良かったですね・・・)、アニメオタクとアニメ声優のイメージがつきまとってしまったのが不幸だったかも知れません・・・。



 もう、LPは処分したのですが、当時のテープがどっかにあったはずなので、探して聞いてみようかな・・・。

 



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年代でしょうね(笑)。 (凛太郎)
2006-06-25 22:21:40
僕がブログで好きな歌として書くのは、やっぱり深夜ラジオを聴き出した少年の頃から、大学を卒業するまでの青春時代の頃がどうしても核になってしまいます。もちろんそれ以降20年も経ったわけで、いい歌との出逢いも当然あったわけですけれども、思い出にリンクしてこないのですね。だから記事としては書けない。

したがって、70年代後半から80年代後半までになりますね。自分で言うのもなんですが感受性の濃かった時代(笑)。ヒロリンさんの青春の頃とも重なるのではないでしょうか。



飯島真理さん、よかったですよね。マクロスは置いておいて、「Midori」は今でも好きなアルバムです。ヒロリンさんも、思い入れが深い北海道で聴いておられたと思うと少し嬉しくなります。

ありがとうございました。
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一話の恋 (今日のジョー)
2006-07-28 18:48:31
この記事がずっと気になっていました。

一話完結というのが凛太郎さんらしいですね。

過ごした時間の長さではなく、一瞬の風のような言葉が印象的です。

引きずっているほど愚かではなく、思い出にするほど昔話ではない。その距離感は永遠に縮まりも離れもしないでしょう。大切な話しをありがとうございます。
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でも続く想い (凛太郎)
2006-07-28 23:15:18
追憶を甦らせるもの。それは一曲のうたであったり一本の映画であったりしますが、季節が巡るたびに思い出す追憶というものもありますね。毎年記憶を更新していくわけですが、その作業に胸が疼いていた時を過ぎ、それこそ風のような柔らかさを感じるまでになるとは、当時は思ってもいませんでしたね。これは否応なしに薄れてしまったのか、それとも箱にしまえるまでに成長したのか、それとも…。

こんな話でも、書いている本人は結構感傷的になっていたりします(笑)。そんな話にお付き合いくださって本当にありがとうございました。



P.S. でも「1979年 夏」も大好きですよ。それが80年代を迎えても♪
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