昔、TBSで「8時の空」という10分くらいの番組があった。タイトルのようにお天気番組だったのだが、ちょっと変わっているところは、田中星児さんがギターを抱えて司会をしていて、リクエストに2曲くらい応えて歌い、その日誕生日だという視聴者を紹介してお祝いをするという構成だったように記憶している。少年だった僕には、この番組を見て「いってらっしゃーい」というラストのMCと共に家を出て学校に行く、という言わば時計代わりの番組だった。当時田中星児さんは「ビューティフル・サンデー」が大ヒット中で人気者。そして、その田中星児さんの相棒として一緒に並んでギターを弾き歌っていたのが水越恵子さんだった。
水越恵子さんは最近TVではお見かけしないが、お元気で活動されているらしい(→HP)。当時は知らなかったのだが彼女は「スター誕生」出身で、「姫だるま」というデュオでデビューした。曲はフォーク系だったようだがしばらくして解散、「しあわせをありがとう」でソロとしてデビュー。番組をやっていたのはその頃だった。
透明感があり少しハスキーなヴォーカルで、大人を感じさせる声だった。同様に外見も実に大人っぽい人で、こんなふうに書いていいのかわからないがとても色っぽく、少年の僕は朝から結構ドキドキすることもあったりした。子供ですな。
そのうちに、「ほほにキスして」「めぐり逢いすれ違い」などがヒットして歌番組にも顔を見せてくれるようにもなった。けれども、番組も終わったのかその後水越恵子さんに出逢うことはなくなりしばらく経った。アルバムを買うほどハマったわけでもなくそのままになっていた。
再び水越恵子さんに出逢うのは、「Too far away」という曲である。
この曲は伊藤薫さんの曲で(水越恵子は伊藤薫の曲を数多く歌っている。前記「ほほに~」等も彼の曲)、もちろん伊藤薫さん自身も歌っている。これはこれでもちろんいい。またこの曲は競作になっていて、一番有名なのは谷村新司御大だろうか。記憶だと、あの異常に歌が上手いやしきたかじんや、香坂みゆきなんかも歌っている。今検索をかけたら、なんと韓国ドラマで採用されハングルバージョンもあるらしい。韓流ファンにもおなじみなのだろうか。
しかし、僕は圧倒的に水越恵子さんのヴォーカルに想い出が濃い。
こんなに遠く離れていても 夜毎心は空を駆けてゆく
また昔の話、こことかここで書いた話になってしまうのだが、当時僕が好きだった人は離れて住んでいる人だった。あるひととき、深く濃密な時間を共有したことはあったのだが、ただ僕が未熟だったゆえにその想いを封印した。かと言って友だちにもなれずさりとて忘れ去れるわけでもなく、住んでいるところが遠いことがまだしも救いのような気さえしていた。解決方法を知らず逃げていたのだろう。しかしそういうことしか僕たちには…いや僕には出来なかった。ただ時間の経過を頼みにしていた。
そんなあるとき、彼女から手紙が届いた。
その手紙には、綺麗で優しい彼女がやっぱりいた。僕の耳元でささやきかけるように手紙の文字は刻まれていた。
手紙は、彼女の近況を伝えていた。少し体調を壊したこと、思い切って転職したこと、リフレッシュのために旅に出たこと、僕と出逢った旅とは違った感動があったこと、今は元気で仕事をしていること…などが綴られていた。
それを読んで、僕はもう彼女が違う世界、僕の知らない世界に生きていることを知った。少しづつでも時は流れている。否応なしに時は想い出を過去に押し流す作業を怠っていないことに気が付いた。
手紙には一本のカセットテープが入っていた。「私の今の好きな曲です」。
松任谷由美「青い船で」から始まるそのテープを聴きながら、僕はしばらくぼんやりしていた。ラストには、「Too far away 水越恵子」と書かれた曲が入っていた。
君を風に変えて空に飾りたい 僕は星になって君を守りたい
僕は、ようやくその「想い」を「想い出」に転化させる作業をそのとき開始できたように思う。時は確実に流れているのだ。自分の心の中で「昇華」という命題を解決することが可能かもしれないとそのとき思った。
Too far away 愛への道はfar away だけどかすかに光見えればそれでいい…
水越恵子さんの「Too far away」を聴くと、自分の心の奥底にしまった「たからもの」のような想い出が甦る。けれども、あくまでそれは想い出なのだ。大切な、とても大切なものには違いないけれども。
☆
水越恵子さんは最近TVではお見かけしないが、お元気で活動されているらしい(→HP)。当時は知らなかったのだが彼女は「スター誕生」出身で、「姫だるま」というデュオでデビューした。曲はフォーク系だったようだがしばらくして解散、「しあわせをありがとう」でソロとしてデビュー。番組をやっていたのはその頃だった。
透明感があり少しハスキーなヴォーカルで、大人を感じさせる声だった。同様に外見も実に大人っぽい人で、こんなふうに書いていいのかわからないがとても色っぽく、少年の僕は朝から結構ドキドキすることもあったりした。子供ですな。
そのうちに、「ほほにキスして」「めぐり逢いすれ違い」などがヒットして歌番組にも顔を見せてくれるようにもなった。けれども、番組も終わったのかその後水越恵子さんに出逢うことはなくなりしばらく経った。アルバムを買うほどハマったわけでもなくそのままになっていた。
再び水越恵子さんに出逢うのは、「Too far away」という曲である。
この曲は伊藤薫さんの曲で(水越恵子は伊藤薫の曲を数多く歌っている。前記「ほほに~」等も彼の曲)、もちろん伊藤薫さん自身も歌っている。これはこれでもちろんいい。またこの曲は競作になっていて、一番有名なのは谷村新司御大だろうか。記憶だと、あの異常に歌が上手いやしきたかじんや、香坂みゆきなんかも歌っている。今検索をかけたら、なんと韓国ドラマで採用されハングルバージョンもあるらしい。韓流ファンにもおなじみなのだろうか。
しかし、僕は圧倒的に水越恵子さんのヴォーカルに想い出が濃い。
こんなに遠く離れていても 夜毎心は空を駆けてゆく
また昔の話、こことかここで書いた話になってしまうのだが、当時僕が好きだった人は離れて住んでいる人だった。あるひととき、深く濃密な時間を共有したことはあったのだが、ただ僕が未熟だったゆえにその想いを封印した。かと言って友だちにもなれずさりとて忘れ去れるわけでもなく、住んでいるところが遠いことがまだしも救いのような気さえしていた。解決方法を知らず逃げていたのだろう。しかしそういうことしか僕たちには…いや僕には出来なかった。ただ時間の経過を頼みにしていた。
そんなあるとき、彼女から手紙が届いた。
その手紙には、綺麗で優しい彼女がやっぱりいた。僕の耳元でささやきかけるように手紙の文字は刻まれていた。
手紙は、彼女の近況を伝えていた。少し体調を壊したこと、思い切って転職したこと、リフレッシュのために旅に出たこと、僕と出逢った旅とは違った感動があったこと、今は元気で仕事をしていること…などが綴られていた。
それを読んで、僕はもう彼女が違う世界、僕の知らない世界に生きていることを知った。少しづつでも時は流れている。否応なしに時は想い出を過去に押し流す作業を怠っていないことに気が付いた。
手紙には一本のカセットテープが入っていた。「私の今の好きな曲です」。
松任谷由美「青い船で」から始まるそのテープを聴きながら、僕はしばらくぼんやりしていた。ラストには、「Too far away 水越恵子」と書かれた曲が入っていた。
君を風に変えて空に飾りたい 僕は星になって君を守りたい
僕は、ようやくその「想い」を「想い出」に転化させる作業をそのとき開始できたように思う。時は確実に流れているのだ。自分の心の中で「昇華」という命題を解決することが可能かもしれないとそのとき思った。
Too far away 愛への道はfar away だけどかすかに光見えればそれでいい…
水越恵子さんの「Too far away」を聴くと、自分の心の奥底にしまった「たからもの」のような想い出が甦る。けれども、あくまでそれは想い出なのだ。大切な、とても大切なものには違いないけれども。
☆
「思い出」と言ってしまえばそれまでですが
その過去のお蔭で今日の自分が在るとおもっています。
僕の好きな寺山修司の言葉にこんなものがあります。
「思い出さないでほしいのです。思い出されるためには 忘れられなければならないのが いやなのです」
時の流れというものは、優しいんだか残酷なんだかよくわかりませんね。
ジョーさんの贈って下さった寺山修司さんの詩にはしばし佇んでしまいますが、いや引き戻されそうになってしまいますが、やはり寺山修司のように全てを受け止める度量のない僕には「忘れる(記憶の奥に沈める)」という作業が必要になってくる。過去形になんとかしたいとあがかなければどうしようもないという自分に気づいていました。寺山修司と比べて己の小ささを思い知らされますが(汗)。
そういう自分であるので、時の流れというものは、残酷だけれども優しい側面もあるのですね。
ありがとうございました。
"Too far away"聴きました。
いいですねぇ。
うん、色んな人が唄っているけど、
この曲は水越恵子さん一番かも。
凛太郎さんにとっては想い出とともに
その想い、増幅してるでしょうね。
しかし、いろんな人の別バージョンを聴くにつけ、歌がこんなにも変わるのかと感慨はあります。僕は「いい日旅立ち」や「花梨」は圧倒的に谷村さんのが好きですね。
いい事言う、凛太郎さん。
反応してしまいました。
私の携帯に
決してもう鳴ることのない着メロがあります。
たった一人の人からの着信とメールにだけ流れる曲
それが♪Far away です。
ベーやんのソロ曲(演歌になる前)とアリスをこよなく
愛した人でした。
行延さんと一緒によく、お店でも歌っていました。
2年の壮絶な闘病生活を送り、空へ還ったのが
2003年、享年42歳。
時はよどむことなく流れ、今年は3周忌です。
湿っぽい話でごめんなさい。
でも、最近想うんです。
きっと、彼は星になって、私を守ってくれていると…。
「想い」を「想い出」に転化してくれたのは
やはり、時の流れなのかもしれません。
P.S
今年、ベーやんの歌う♪Far awayを聞きました。
優しく包まれるような歌い方。
チンペイさんとはまた違った味わいでうれしかったです。
時間が経っていくということは、時の流れとはどういうことなのか…。しばしば佇んで考えてしまいますが、無情にも見えるこの流れも時として優しさをも内包していることがあると最近気が付いたところです。帰らぬものではありますけれども、時間は確実に過去を保存もしてくれますし。思い出に変わる頃には、その大切なワンシーンは他からは決して消せない宝石にしてくれることもあるのですね。そして自分さえしっかりしていれば決して思い出は色褪せてゆくことはありませんし。
なんだか少し生意気なことを書いてしまったようですね。ごめんなさい。僕はまだ惑いながら生きていますので、またいろいろとお話を聞かせてください。
空へ還られた方にもよろしくとお伝え下さい。
P.S. べーやんのFar awayも聴いてみたいですね。(^-^)
お通夜もお葬式にも出なかった
…生前の彼との約束でした。
最期の顔よりもええ男の顔を覚えといてや~
今、時が経っても
浮かぶのは歌っているときの顔と歌声
鳴るはずのない着メロが鳴りそうな気がする時があります。
彼の最後の思いやりと自尊心だったのかもしれません。
私が最期の顔を思い出して、つらくならないように…。
短い時間に刻まれた思い出の輪郭は、時が流れるほどに
深くなるような気がします。
彼の話をするとき、つらいというよりも、誇らしくうれしい気持ちです。
話の中で、彼はここにいるから…。
私も、まだまだ惑いの中に生きています。
プラスとマイナスの波の中で揺らいでいます。
でも、その揺らぎさえも、大切なものとして、今は生きて行こうと思います。
これからも、いろんなお話をさせてください。
信じられる人、また信じるに値する人、人の心がわかる人、限りない優しさをもつ人、想い出を刻んでゆく人、けれども哀しい思いをさせないように努力する人。
そんななかなか出逢えない人に逢えたということ。それは、僭越な言い方かもしれませんけれども、やはりひとつのかけがえのない財産ではないでしょうか。心の中でいつまでも光り輝く一等星のような。
思い出って、いつもなんだろうなと考えるのですが、結局のところ人生が終わるときに一番大切なもの、それが思い出なのではないかとも思ったりします。極論すれば、死ぬときに莞爾として人生を終われるかどうかは、自分の中にめぐる美しい記憶があるかないかではないでしょうか? 僕はそう思っています。だからこそ、記憶を刻印し積み重ねていくことに意味を見出せる。だから忘れてしまいたいことがたくさんあるほど辛い。
話すときに誇らしく嬉しい気持ちになれる人と出逢えて本当によかったですね。忘れる必要のない思い出にしてくれたその人の優しさを本当に感じます。