origenesの日記

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阿部謹也『ハーメルンの笛吹き男』(ちくま文庫)

2008-12-24 22:49:28 | Weblog
中世ドイツに伝わるハーメルンの笛吹き男の民話。ライプニッツも興味を示したというこの民話が、近代ドイツでどのように解釈されたかを叙述した、歴史家・阿部謹也の代表作である。
ハーメルンの町から子どもを連れ去った笛吹き男の伝説。この物語はグリム童話やロバート・ブラウニングの詩で有名になったが、歴史的な事実をもとにしているという。なぜ突然、子どもたちが忽然として姿を消してしまったのか。それについては様々な説があった。少年十字軍として組織するために連れ去られたのだという説。ユダヤ教の謎の儀式に参加させるために連れ去ったのだという反セミニズム的な説。ペスト患者を隔離するために連れ去ったのだという説。ハーメルンの笛吹き男はヴォータンの化身だとするロマン主義的な奇説(ユングもこの説を採っている)。昔読んだ『マスターキートン』というマンガでは、笛吹き男はペストにかかった子どもたちを連れて、人々にペストの免疫をつけさせたのだという説を採用していた。
著者はどれか一つの説を主張するのではなく、様々な学者の考察を客観的に紹介している。著者の主張が弱く、冷静に論がまとめられているところは、この本の長所であり短所でもあると言えよう。
ハーメルンという言葉を聞いて、『ハーメルンのバイオリン弾き』というマンガを思い出した。

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