origenesの日記

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須賀敦子『ユルスナールの靴』(河出書房新社)

2008-10-23 19:33:49 | Weblog
ベルギー生まれのフランス語作家マルグリット・ユルスナールは子どものような皮の靴を履いていた……。
ユルスナールの人生とその作品を描いた、須賀敦子のエッセイである。ユルスナールを描きながらも、著者はその過程で自らの半生を省みる。優れた文学者が優れた文学者を描くとはどういうことなのか、この作品はそれを端的に伝えてくれる。
ユルスナールの代表作『ハドリアヌス帝の回想』の内容に、著者が肉薄していく箇所が圧巻である。ローマの皇帝ハドリアヌス帝の生き様を空想するユルスナールとユルスナールの生き様を空想する著者。生きた時代も国も全く違うハドリアヌス・ユルスナール・著者を結ぶ空想上の糸が浮き彫りにされていく。ユルスナール歴史小説『黒の過程』では、16世紀のフランドル地方を生きた錬金術師ゼノン(パラケルスス、カンパネッラ、ブルーノをモデルにする)が主人公であるが、ここでもユルスナールの16世紀フランス・ルネッサンスへの想像力が、著者によって美しくなぞられる。これこそが、文学者が文学作品を読むということだろう。
著者はカトリック信者だが、若い頃アンドレ・ジッドの『狭き門』をシスターたちから隠れるようにして読んだという。ジッドの小説がプロテスタント的な内容だからだ。しかし、あまりジッドの世界観に耽溺することはなかったようだ。『狭き門』のヒロイン・アリスは当時の文学青年に人気があったみたいだけど……。

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