origenesの日記

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シェイマス・ヒーニー『創作の場所』(国文社)

2008-05-24 21:37:56 | Weblog
アイルランド文学の研究者として有名なリチャード・エルマンの記念講演で、ヒーニーが話した内容を纏めたものである。後期のイェイツ『塔』から始まり、パトリック・カヴァナー、ルイス・マックニース、トマス・キンセラ、デレク・マホン、ポール・マルデューンといったアイルランドの詩人たちについて論じられている。
イェイツが生きた時代は、アイルランドのプロテスタント層が没落していた時代であったという。アングロ・アイリッシュのインテリ層の代わりに、カトリックのインテリ層が台頭してくる。イェイツ亡き後の1940年代に人気を博したオースティン・クラークやカヴァナーはカトリックの詩人であり、前者はUCD出身の宗教教育を受けた知識人として、後者は農家の実情を知った者として詩を書いた。
カヴァナーとヒーニーを繋ぐ詩人としては、カトリックのトマス・キンセラがいる。50年代後半から活躍し「血の日曜日事件」などの暴力的な出来事を詩という芸術へと昇華させるができるキンセラの才能は、ヒーニーに影響を与えた。アイルランド紛争について詠んだ初期のヒーニーの詩は、キンセラの影を宿していると言えるだろう。
その他、ヒーニーの弟子でもあるポール・マルデューンの詩を論じている。マルデューンの詩の注釈で、ヒーニーがキリストの十字架上での死は野獣のような死であったに違いないと言っているのが印象的だった。
ジョイス~カヴァナー~キンセラ~ヒーニーというカトリックの伝統とイェイツ~ベケット~マホンというプロテスタントの伝統があるのかも。

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