origenesの日記

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D・P・ウォーカー『古代神学 15-18世紀のキリスト教プラトン主義研究』(平凡社)

2008-05-30 22:20:38 | Weblog
著者はイギリスの歴史学者。フランシス・イェイツの友人でもある。
モーセ、オルフェウス、プラトン、彼らの先行者としてのヘルメス・トリスメギストス……。ルネサンス時代にはこれらのものを「古代神学」として扱い、キリスト教神学の先行的思想として見なすような風潮が強まったという(後に孔子もこれに加わる)。彼らが模範としたのが3~5世紀のプロティノスやオリゲネスを始めとする新プラトン主義者たちであり、オルフェウスやプラトンのキリスト教がその目標であった。そして3~5世紀の新プラトン主義者がそうであったように、ルネサンスの新プラトン主義者も得てして魔術的な要素を持つことが多かったという。
その好例が、著者の研究対象でもあるマルシリオ・フィチーノである。彼は『プラトン神学』によって、プラトンをキリスト教に先行する神学者へと押し上げた人物だったが、同時に魔術的な要素を持った思想家であり、系譜的にはブルーノや薔薇十字に連なる存在である。『ヘルメス主義』という錬金術に関する著作も書いている。彼の友人であるピコ・デラ・ミランデラも当時の代表的な新プラトン主義者であり、彼も魔術的な傾向を持つ思想家であったことが知られている。
しかし、当時においてフィチーノやピコに対する反対勢力も少なくなかった。特にエラスムス主義者とカルヴァン派はプラトンをキリスト教化することに強く反対したようであり、またカルヴァン派以外でもプロテスタントは全体的な傾向としては反プラトン主義的・反魔術的であったという。
また、16世紀のハーバート卿に始まる理神論も、反プラトン主義的な傾向の強い思想であった。理神論的なスピノザやライプニッツはやがてはカントやヘーゲルへと繋がり近代哲学への道を開いていったが、一方で新プラトン主義も根強く近代へと続いていった。
本書の終わりはニュートンの友人であるアンドルー・マイケル・ラムゼーの思想で締められている。ニュートンは晩年になってエーテルの要素を取り入れたというが、ラムゼーは友人であるニュートンを古代神学的な宇宙観に連なる存在として見ている。ギリシアの宇宙観を体現した存在こそがニュートンだと言うのだ。これは私たちの近代科学時代の象徴としてのニュートンというイメージとは正反対である。

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