goo blog サービス終了のお知らせ 

origenesの日記

読書感想文を淡々と書いていきます。

菊地成孔・大谷能生『憂鬱と官能を教えた学校』(河出書房新社)

2008-02-03 01:18:27 | Weblog
17世紀に生まれ、J・S・バッハ『平均律クラヴィーア』以降、西洋音楽の中で広まっていった平均律。これは長調・短調合わせた24の音階を用いた理論であり、17世紀以降、作曲家たちに浸透していった。ナディア・ブーランジェを祖母とし、ヨーゼフ・シリンガーを父とするバークリー・メソッドは20世紀アメリカで生まれた、商業音楽のための平均律であり、ビバッブを始めとするジャズやロックの音楽理論として受け入れられてきた。菊地はバークリー・メソッドを本格的に学んだジャズ・プレイヤーであり、クラシック・ジャズ・ロック・民族音楽を横断しながら、その背景にある音楽理論を鋭く解析していく。バッハ以降新ウィーン学派まで「ろくなことはなかった」とまで言う菊地は、音の構造と音響に注目し、音楽史を分析しているようだ。
バークレー・メソッドにおいては、コードは記号として捉えられる。C major、D minorというコードやGという音そのものには何ら意味がない。「この調はバッカスのような酩酊した響きがあり…」「リディア旋法は柔和な旋法であり…」などという考え方もない。バークレー・メソッドにおいては、各コードは、トニック・サブドミナント・ドミナントという記号であり、ゆえにソシュールの言語学や構造主義と相似性を持っている。音の本質論から音の関係論へ。20世紀のバークレー・メソッドによって西洋音楽史は新たな局面を迎えたとも言ってよい。
著者はブルースにも注目し、20世紀商業音楽史をブルースの輸入という観点から考えてもいるらしい。著者のブルース論については『東京大学のアルバート・アイラー』を読む必要があるのだろう。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。