<読書会> おもしろ☆本棚

毎月都内で読書会を開いています。参加者絶賛募集中!
お問合せは omohon.renraku@gmail.com まで

11月の課題本 山川方夫『夏の葬列』

2015-11-03 20:30:22 | ・例会レポ

山川方夫『夏の葬列』
集英社文庫 1991年
(他に、創元推理文庫『山川方夫ミステリ傑作選 親しい友人たち』2015年
 筑摩書房『山川方夫全集4 -愛のごとく』2000年 にも収録)

太平洋戦争末期の夏の日、海岸の小さな町が空襲された。あわてて逃げる少年をかばった少女は、銃撃されてしまう。少年は成長し、再びその思い出の地を訪れるが…。人生の残酷さと悲しさを鋭く描いた表題作 (集英社文庫『夏の葬列』 Amazon 内容紹介より) 


=例会レポート=

女性13名、男性5名の参加者の大部分の人が、山川方夫の作品を初めて読んだという今回の例会。
しかしフタを開けてみると、山川方夫とは奇妙なかかわりを持っていた方が何人もおられました。

今回の課題本『夏の葬列』は、いわゆるショートショートに分類される短い作品だったせいか、作品それ自体への感想は、ドンデン返し的な構成の妙、「死」と「夏」(あるいは「生」)の対比の見事さ、そして作家の戦争体験が作品に与えている陰影の深さといった点に集中しました。
「短編の面白さに気付かされた」という感想があったように、普段は短編をあまり好まないという会員にも好意的に読まれたようです。

この作品は、いくつかのアンソロジーに収録されているわけですが、同時に読んだ中では『海岸公園』『煙突』『待っている女』といった作品の評価が高かったようです。
8月の課題本『スクラップ・アンド・ビルド』の推薦人からは、作者の羽田圭介も、山川の『海岸公園』を読んでいるのでは?という指摘がありました。

また、山川の作品を国語の教科書で読んだ記憶のある方も何名かおられました。
教材としてどうなの?という意見も多かったですが、短い中にさまざまな問いかけがあり、答えは読者それぞれが感性に応じて考えるしかない物語は、多感な少年少女たちが読むのにむしろ相応しいのではないかな、と私は思いました。

面白かったのは、会員それぞれの、この本や作者との出会い方。
ある方は、ショートショート作家の田丸雅智が、又吉直樹との対談で山川方夫を褒めていたのを聞いて手に取り、
またある方は、SF作家・瀬名秀明の編んだ『贈る物語 Wonder』に収録されていたのをかつて読んで気に入り、
そして永遠のSF少年を自称する方は、『世界SF全集』の日本作家短編集で読んで、SFショートショートの先駆というイメージをずっと持っていた、と仰います。
著者は昭和40年に弱冠34歳で交通事故で亡くなっており、今ではほぼ忘れられた作家といえるかもしれませんが、実はどっこい、知る人ぞ知る、いえ、確かな目を持つ人には時代を経てもしっかり評価されている、そんな作家だと云えそうです。
長生きしていたら、優れた作品をもっと残してくれただろうに、残念!という声がたくさんあがりました。

ここで、男性会員Iさんがご開陳くださった仰天エピソードをご紹介しましょう。
今を去ること35年、忘れもしない渋谷東急文化会館の三省堂書店で、当時中学2年だったI少年は、その表紙に惹かれてか、新潮文庫の『海岸公園』を購めたそうです。
あれから幾星霜。
その『海岸公園』は、進学、引越し、大掃除などのさまざまなハードルを、神の見えざる手によってか幾度も突破しながら、しかし全く読まれる気配のないまま、今日に至るまで持ち主の本棚の片隅で奇跡的なサバイバルを続けてきたそうです。
この度の課題本に決まった際に、うむ、山川方夫?確か手元にあったような??と思い、引っ張り出してきてページをめくるも、肝心の『夏の葬列』は、収録されていない!ガーーーン!!
しかたなく、『夏の葬列』が入っているという出版文芸社の単行本『歪んだ窓』を入手してみたところ、そのおどろおどろしい表紙たるや、『海岸公園』を買った動機にもなった美しい表紙とは似ても似つかないぢゃないですか!
・・・というわけで、Iさんの中2病は、35年を経て、ここにめでたく大団円を迎えましたとさ。
Iさん、その本、もう墓場まで持っていくしかないですね!
いや~、読書って、ほんっとに素晴らしいですね。


・・・おっと、講師の講評を書き忘れるところでした。
先生も、実は山川方夫には縁があるというお話でした。
先生が大学2年の頃、高校時代の恩師だった後の文芸評論家・上総英郎氏に、「三田文学」の編集の手伝いに駆り出されたことがあったそうです。
「三田文学」の名編集者だったのが山川方夫で、彼の突然の死により、遠藤周作にその職責が回ってきたものの、売れっ子作家の遠藤は多忙につきとても用が足せず、上総英郎氏が手伝うことになったのだとか。
ちなみに上総英郎氏は、先生の結婚式の媒酌人も務められたそうです。

山川方夫の作風は、『安南の王子』『煙突』に代表される初期の短編から、凝った作り込みのショートショートへ、そして最後は「家と血縁」を、それまでと違う手法で描く方向へと変わっていきました。
家と血縁、個人と社会、そして個人と組織へと関心が移ってゆくのは、明治以降そして太平洋戦争を経た作家たちの大きな流れだそうです。
山川方夫はこの『夏の葬列』で、疎開学童が戦争をどう見ていたかと、その戦争体験が内面化した形を小説に書いてみせたものといえるようです。

さて、次回2016年最初の課題本は、見事中2病を克服されたIさん推薦の、三浦哲郎『白夜を旅する人々』に決まりました。
東北を舞台にした、真冬に読むに相応しい作品です。
おたのしみに!

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿