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2023年4月の課題本『少女は卒業しない』

2023-05-23 20:19:26 | ・例会レポ

久しぶりに集まったのは、ちょっと寂しい男性3名、女性3名の6人の会員と女性見学者1人。ゴールデンウイーク前の平日の夜だったせいでしょうか?

以下、推薦者の個人的感想をベースに皆さんの感想、意見を加えると、今回の課題本『少女は卒業しない』(朝井リョウ、集英社、2012年)は、

① 文章がうまい
② 設定や構成力が優れている
③ 登場する少女一人一人の描写がすばらしい
④ 伏線回収が巧み

という誉め言葉中心のものになってしまいそうです(もちろんそれだけではないのですが)。

① については、「違和感なくスラスラと読みやすかった」「うまい表現が随所にあった」に対して、「文章がすんなり入ってこないところもあった」という感想もありました。
② ですが、本作は、「廃校となり校舎が取り壊されてしまう卒業式前後の高校を舞台にした、7人の少女が一人称で語る7つの物語」を集めた連作短編集です。7つの物語はそれ自体が一つの物語として完結していながら、それぞれが少しずつオーバーラップしたり関係を持ったりして、全体として彼女たちが織り成す群像劇を形成してくという凝った作りになっています。この多重構造については、「登場人物が入り乱れてわかりづらかった」という声も聞かれました。
菊池先生は、それぞれの日々を描きつつやがて一つにまとめていく手法には、作者の大学時代のゼミの恩師で、前に課題本として取り上げた『雪沼とその周辺』の作者、堀江敏幸の影響があると看破しています。
③ が圧巻です。発表当時21歳くらいだった作者、それも男性がなぜこれほどまでに女子高校生の心情をつかみ、心の機微に思いをいたすことができるのか。心理描写のたくみさには舌を巻きます。ただそれは、あくまでも「男から見た女子高生像でもある」と菊池先生は釘を刺しますが。
④ いくつかの挿話にさりげなく登場する「東棟屋上の幽霊」「東棟外壁の壁画」「ビートルズのザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」といったネタが、実はある物語にとってはその作品の「キモ」として描かれていて、見事に伏線回収が行われるカタルシス。

「男女共学って楽しそう」「自分の青春と対極にある物語のようなので心配だったが、読んでみたら感情移入することができた」という感想や、「自分の高校時代と比べてしまうとうなずけないところもあり、作者が理想とする女の子を描いたのだろう」という元女子高生からの感想も貴重でしょう。
「みずみずしい思春期小説(高校生小説・中学生小説)を読んでみよう。日本では、1960~70年代には秋元書房から多く出版されていたし、80年代以降ではキャラクター文庫として続いている。海外モノなら『車輪の下』『アンネの日記』、日本では三田誠広『いちご同盟』、樋口有介『風少女』だね」と、菊池先生は総括されました。


最後に例会では話すことができなかった推薦者の感想というか妄想を述べさせて下さい。

巻末の初出一覧にあるように、7つの短編のうち6作は雑誌『小説すばる』2010年4月号から翌11年2月号まで、きちんと2ヶ月ごとに発表されています。最終作「夜明けの中心」を唯一の例外として。

推薦者は最終作「夜明けの中心」を読み終えて違和感とでもいうのでしょうか、それまでの6編とは明らかに異なるテイストを感じていました。そして、その違和感の正体のヒントとなったのが、最終作の発表年次でした。上記の初出一覧を見ると、最終作は『小説すばる』2011年9月号に発表されています。ローテーションからいって本来4月号に掲載されるはずの作品が、なぜ2月号から7ヶ月のブランクを経て世に出ることになったのか。その理由は何なのか、この7ヶ月間に何があったのか――?

もうみなさんお気づきでしょう。2011年3月11日に発災した東日本大震災と未曽有の被害がその間にあることに。

4月号掲載予定の作品ならば、原稿は1月いっぱいには完成していなければ間に合わないでしょう(4月号の発売は3月ですから)。ここからは推薦者の想像になってしまいますが、作者は震災の実情が明らかにされる中で、完成していた作品に大幅な手を加えたり、ひょっとしたら改稿したのでは? そしてその結果、最終作にはそれまでの作品にはなかった「死」の影が色濃く漂うことになったのではないでしょうか。

それまでにも学校伝説として「幽霊」は登場してきますが、具体的な登場人物の死は描かれていませんでした。最終作の舞台設定が、卒業式が終わったその夜=the day afterというのも、全作品のエピローグ的な位置を占めているとともに、最後の最後で訪れる「夜明け」へのアプローチであったようにも思えます。不慮の事故で亡くなった同級生を悼み、残されてしまった自分たちは何をしたら良いのかを問いかける。理不尽な「死」への悲しみからそれを受け入れるまで、そして「夜明け」に象徴される未来への希望……。それらすべてが、未曽有の大災害で亡くなった犠牲者への慰霊、鎮魂、追悼の想いのなせるものであったと思うことは、牽強付会もはなはだしいと笑われてしまうでしょうか。           

 

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