<読書会> おもしろ☆本棚

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10月の課題本『黄土の奔流』レポート。

2020-11-03 12:18:42 | ・例会レポ

10月の例会は、いつもの新宿区内の会場でリアル開催!
会場に来られない会員をオンラインでつなぐ二元開催という初の試みでした。
推薦者が書いてくれた当日のレポートを掲載します。

 

2月以来、8ヵ月ぶりのリアル読書会。
久しぶりに顔を合わせた10人の会場参加者と、
オンラインでつながった5人(菊池先生を含む)による
10月のおもしろ本棚でした。コーディネートに尽力された幹事の皆さんに感謝。

課題本は生島治郎の冒険小説、『黄土の奔流』(光文社文庫、2019年)。
冒険小説好きの推薦者としては、
いつかは読んでみたかった「日本冒険小説の草分け的存在(講師)」。
今回は〈冒険小説クラシック〉として復刊されたのを機会に推薦。
初版刊行が1965年という50年以上前の作品なので、
伏線を張りめぐらした凝った構成や、派手なアクションが主流となった
現在の冒険小説に比べれば物足りなさ
(例えば徹底した悪役の不在、
一癖も二癖もあるいわくありげな登場人物の不在など)を感じました。
そのあたりは参加者の皆さんもそうだったようで、

「何かが足りない感じ。登場人物の内面の掘り下げが足りないのか」
「ご都合主義で上手くいきすぎ。もう少し盛り上がりがほしい」
「主人公の名前が格好良すぎる」
「2時間ドラマのように、一晩だけのお楽しみ」
「男の人しか読まないことを前提にした昭和の小説だという感じ」

といった感想が聞こえました。こうした「古さ」に対して、

「話がシンプルで読みやすい」
「50年以上前に書かれた作品なのに古さを感じない」
「予定調和ではあるけれど面白く読めた。当時の中国の風俗などが描かれている」
「中国エキゾチックなスペクタクル。ありえない話だけれど、
面白く読めればそれで良い。楽しい時間を過ごせた」
「007シリーズを手本に、
日本の冒険小説とはかくあるべきという思いで書かれた原点では?」
「筋立ても、絶対に失敗しない主人公は面白かった」

という好意的な感想が多かったです。

特筆すべきは、何人かの女性参加者から、
作者の別作品『片翼だけの天使』シリーズへの言及があったこと
(「女性に対する上から目線の嫌な奴だというイメージを持っていた」
「片翼シリーズの作者という先入観が強すぎる」など)でした。

そして、冒険小説ならではの幕引きについて、

「求めるものは何一つ手に入れることはできなかった。このラストが秀逸」
「ハッピーエンドに終わらないところが良い」
「一攫千金ものがうまくいかないのは、この種の小説のお約束」

などの感想がありました。

            *

リモート参加だった講師の講師からは、1965年の初版刊行時に読んだ際に、
「カッパブックスにこの種の作品がラインナップされたことと、
作者が本格的冒険小説を志向していること」の2点に驚き、
冒険小説に必要不可欠な「ワクワク、ドキドキ感」にも驚いた
という思い出から始まり、そして、

「戦前の山中峯太郎の小説以来連綿と続いている
日本の冒険小説の草分け的存在。
1923年という戦時中ではない中国を舞台にしているため、生々しさがない。
楽しければそれでよいのが冒険小説。
冒険小説にはお約束が必要で、
安心させるために少しずつ変えていくのが作者の腕であり、
読者の成長であり、版元のマーケティング」

と、まとめてくれました。

            *

最後に、講師が〈海外冒険小説ベスト3〉の第一位に挙げてくれた
ジャック・ヒギンズ『鷲は舞い降りた』巻末の佐々木譲による解説から、
冒険小説の神髄とも言える一節を掲げてレポートを終わりにしたいと思います。

「冒険小説では、主人公たちの行為は最後の一瞬で失敗する。
本人たちの責任に帰せられぬ事情によってだ。
しかし、だからといって、目標達成のために
主人公たちが為した行為の美しさは、否定しえない。
冒険小説における目標とはシンボリックなものであり、
冒険者たちが最後に得るものは内的な価値しか持たぬものである」


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