昔の望遠鏡で見ています

望遠鏡は時を超える

 実家に昔、脚の付いた家具調のステレオがあった。床の間に置いてあったせいか低音が反響し、およそ原音再生とは程遠いものであったが、洋曲の ’ ルート66 ’ や五木ひろしの ’ 夜空 ’ を、兄達が聴いていたのを憶えている。自分が初めて買った ’ エーゲ海の真珠 ’ を、胸をときめかせて掛けたのもこのステレオだ。あの頃のステレオは真空管方式だったので、裏から見ると真空管が赤い炎のように見えていたのが懐かしい。もう一度あの音を聴きたいのだが、もし手元にあったとしても、補修部品が無いために鳴らすことは難しいだろう。

 星に興味を持つと、欲しくなるのが望遠鏡だ。親には直ぐに飽きると思われたようだが、ボロボロになるまで読んでる天文雑誌を見て、本気なのだと気付いたのか、念願だったT社の65S機を買ってもらうことが出来た。初めて組み立てた時に、黒い赤道儀に載った白い鏡筒を格好良いと思ったことは、今でも忘れない。三脚の組み立てが面倒になり木製のピラーを自作したりして、庭から星を眺めていた。友人と太陽投影をする際に、いかに高温になっているかを確かめるために、レンズの後方にセロハンをかざしたところ、すぐにメラメラと燃えあがり、その燃えかすが接眼鏡にくっつき慌てた事もあった。こするとポロポロと取れ、接眼レンズが無事だと判った時は、安心したものだ。この望遠鏡は、一時期手放した時もあったが、どうしても気になり、再び中古品を入手し現在も愛用している。

 共に約半世紀前の製品であるが、ステレオは鳴らすことは出来ないが、望遠鏡は支障なく覗くことが出来る。望遠鏡の主要な構成材料が、ガラスと金属ということは、保管とメンテナンスをしっかり行ってさえいれば、古くとも立派に機能するということだ。この事は、古スコ愛好家にとっては幸いな事であるが、別の視点から言えば、古スコがガラスと金属からできているからこそ、古スコ愛好家は古スコを好きになるのかもしれない。なぜなら、透きとおったガラスと光り輝く金属は、我々にある種の永遠を感じさせるからだ。

 昔の鏡筒に、オリジナルの接眼鏡を取り付けて見え方の追体験を行うのもよいし、最新鋭の接眼鏡を差し込んで対物レンズの性能を一層引き出して楽しむのもよいと思う。これからも、時を超えて存在する望遠鏡を、楽しんでいこう。

 65S機と同時代のT社の5cm鏡筒を、紹介する。


 口径50mm、焦点距離700mmである。鏡筒の塗装が剥がれているが、そのほかに損傷している個所は無いようだ。





 特徴の一つが、対物部の蓋がねじ込みになっている事である。しっかり蓋がされ、少々手荒に扱っても、ゴミが入らない構造になっている。実際に昔の友人の一人は、この鏡筒をリュックに入れて山に登ったと言っていた。



 対物レンズの飾り環に入っている会社のマークが、小さくて可愛い。



 接眼筒は、122mm程度伸縮する。滑らかな動きには、感心させられる。
 

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