浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

チーム0・F・INF 助走 エピローグ

2015-11-20 02:07:09 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 「おいーす」
 玉ちゃんが手を振る。通りを、有田君が歩いてくる。その隣には、女の子がいる。
 俺たちに気付いたのだろう。女の子は急に足を止めた。有田君はすぐに振り返り、彼女の手を自然に引いた。
 女の子は、見るからに恥ずかしげに、それでも引っ張られるままにこちらへとやってくる。俺と玉ちゃんは互いに互いの横顔を窺い見ながら、互いにニヤニヤするんじゃねえぞ、と脳量子波を送りあった。
「おはようございます」
「おはよう」
 女の子も、つづけて小さく、おはようございます、と言いながら、有田君の影に隠れる。えーと、誰?と有田君へ向けて、小さく囁く。
「あれ?乾、知らなかったっけ?」
 おい、呼び捨て来たぞ。有田君は俺を示す。
「相馬さんと玉田さん。僕のチームメイト」
「ういっす」
「乾さんっていうんだ。一度会ったよね。池郷模型店の前で」
 え?と女の子は驚き、それからぶんぶんと首を振る。あー、この子、ホントに覚えてないなあ、と俺はほっこりにやにやする。
「荷物、後ろに乗せなよ」
 玉ちゃんは、SUVの後ろ扉を開く。俺と玉ちゃんの機体は、もう積み込んである。詰み込んであるって言ったって、箱一つずつだけどな。これから、西東京地方大会予選だ。
「彼女?」
 俺はニヤニヤと有田君へ聞いた。
「ちがいますっ!」
 真っ赤になって応えたのは乾さんのほうで、そんなんじゃありません!と強く打ち消す。
「じゃあ、何?同級生?」
「中学まで一緒でした。でも、こいつ、女子高行っちゃったんで」
「哲ちゃんが頭良すぎるんだもん」
「そんなこと無いって」
 哲ちゃんときたよこれ。幼馴染属性だよこれ。
「えー、じゃあ、いつもは池郷模型店で待ち合わせ?」
「そんなことしてません」
 有田君は言うけれど、乾さんは真っ赤だ。かわいいなあ。乙女心だよ。っていうか、有田君、あんだけ頭いいのに、まるで気付いてないとか、どこのラブコメだよ。その有田君は、荷物を車に乗せる。
「店長はまだですか」
「え?店長じゃないよ」
 玉ちゃんが応じる。
「理恵子さん」
「聞いてないよ」
 俺はホントに聞いてない。玉ちゃんは言う。だって昨日、電話あったんだもん。
「なんて?」
「いや、それだけ。あたし行くからって、それだけ」
 なんだそれは。俺は首をひねり、有田君はなぜかそっぽ向く。
「おっはよー!」
 やたら元気な声は、その理恵子さんだ。振り返り、俺はちょっと驚いた。理恵子さん、わりとキメてきてる。まあ、これはこれで良いものだ。うん。
「あら、美佳ちゃんも来るの?」
「ちがいます、ちがいます」
 乾さんはぶんぶん首を振る。けれど有田君は、あ、そう、帰るのか、見たいなことを言う。やっぱ高校生だな。ここは大人が後押ししてやらにゃいかん。
「いいじゃん。来なよ。この車、6人乗りだろ、玉ちゃん」
「7人。乾さん一人くらい、ぜんぜん軽い軽い」
「重いかもしれませんよ」
 有田君が軽口を叩く。もう、ばかっ!と乾さんは有田君の背を叩く。これだ、これだよ。うん。玉ちゃんもうんうんとうなずいている。
「お家大丈夫なら、ホントに来ていいのよ」
 ナイス発言、理恵子さん。乾さんは、えー、とか、いいんですか、とか言いながらもじもじしてる。
「いいよな、有田君」
「ええ、まあ」
 この程よい鈍さ、わざとじゃないところが謎だ。乾さんは、え、でも、とかいいながら、家に電話してみます、などと車の陰に回る。うん、もしもし、あたし。うん。あのね、今からね、ちょっと出かけて来ようと思って。哲ちゃんたちとだけど、池郷さんちの理恵子さん一緒なの。
 おおう、理恵子さん、信頼有るじゃないか。俺は理恵子さんを見る。理恵子さんの横顔は何やらニヤニヤしている。俺はこっそり聞いた。
「中学くらいから?」
「そうそう」
 その笑みのまま、理恵子さんはうなずく。
「もう、もどかしくって」
「まあねえ、大人的にはねえ」
「あの、何時くらいまでかかりますか?」
 乾さんが車の陰から振り返る。すぐに有田君が応える。閉会式が15時半。だから、玉田さんどうですか?と。玉ちゃんは一本指を立てる。
「普通なら一時間。でも会場出たあと混んでるだろうから、プラス三十分」
「じゃあ五時半くらいかな」
「六時前には帰れると思う」
 乾さんは電話にそう話す。おいおい、30分鯖読んでるのは、あれか?二人の時間か、と俺は思う。
「うん。わかった。寄り道しないで帰るから」
 乾さんは俺たちへ振り向く。おかあさん、良いって。
「それじゃ、乗っちゃって」
 玉ちゃんが車の天井を叩く。
「乾、酔うだろ?」
「もう、小学生じゃないよ」
 ちくしょう、なんだ、この致死性のほのぼのは。俺は死ぬ前に、後ろのドアを開けた。
「理恵子さん、どうぞ」
「ありがと」
 微妙な笑みで、理恵子さんは、それでもすっとシートにつく。俺は助手席だ。乗り込み扉を閉めたところで、玉ちゃんが言う。
「シートベルト、な」
「へい了解」
「言っておくけど、超安全運転だからな、俺」
「ユーハブコントロール」
 俺は振り返る。
「アテンションプリーズ、皆様、シートベルトをお締めください。確認終了次第、当車は出撃いたします。機長はおなじみ玉田。ロードアテンダントは相馬が担当いたします」
 俺は続ける。
「なお、戦術予報士兼チームリーダーは有田となっております。有田君、よろしいでしょうか」
「よろしいです」
「そうじゃないっしょ、有田君」
 バックミラーを覗き込みながら玉ちゃんが言い出す。
「理恵子さん、いつもの、行っちゃって」
「あら、あたし?」
「どぞどぞ」
 それじゃ、と理恵子さんは、小さく咳払いする。
「それじゃ、ガンダムファイト!」
 皆、すぐに気付いた。声が合わさる。
「「レディー!ゴー!」」
 笑い声が広がる。そうして、俺たちは出発したんだ。

チーム0・F・INF 助走13

2015-11-19 22:48:53 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 はっとして、俺は飛び起きた。
 いや、ぼんやりした記憶はあるんだ。慌てた店長に助け起こされたこと、どこかの部屋に運び込まれて、その畳の上に横たえられたこと。
 そして飛び起きた今、額に当てられていた濡れタオルが、胸に落ちた。
「大丈夫ですか?」
 覗き込んでくるのは、理恵子さんだ。店長の娘さん。っていうか、顔、近いって。理恵子さんは気にした風もなく、俺の胸元に落ちた濡れタオルを取り上げる。
「急に倒れるからびっくりして」
「いや、すいません。立ちくらみっす。昨夜徹夜で」
「徹夜でガンダム?」
「ガキっぽくて面目ない」
 理恵子さんはくすくす笑う。まあ、ウチは商売なんで、お客さんは大事にしますけれどね、と。
「あの、みんなは?」
「もうゲームは終わったみたいよ?」
 俺は額を押さえる。やべえ、と思っていた。俺、間違いなく、池内さんのあのシナンジュをぶっ壊してる。あのがっちゃーんて音は、確実に何かを割っている。シナンジュをフィールドから押し出したのは、俺だし。
「相馬さん、大丈夫?」
「いや、俺は大丈夫っすよ」
 問題はシナンジュだ。理恵子さんは、お水持ってこようか、とか、もう少し横になった方がいいんじゃない?とか。
 いえ、大丈夫っす、と俺は強がりを言いながら、ふらつかないように立ち上がった。
「パパ、相馬さんがそっちへ行くって」
 理恵子さんがパパ、とか言うと、なんかちょっとえっちく感じる。それはいいものだ。大丈夫かい?などと店長の応じる声もする。俺は畳からバトルマシンのある部屋へと降りた。皆は、ガキどもが順番待ちする席に座ったり、椅子を引っ張り出したりして、楽しく話していた風だった。
「池内さんすみません!」
 俺はもう、これいじょうないっつーくらいの勢いで頭を下げた。もう立位体前屈モードだ。
「いや、いや、相馬君、頭上げて。いいんだよ」
「そういうわけには行きませんっ!」
「いや、ほんとうに」
 池内さんは困ったように言う。有田君、止めてよ、と。有田君も困っている風だったけれど、玉ちゃんが俺の背を叩く。
「相馬ちゃん、いまさ、俺らは判りあえてたんだよ」
 店長が笑う。上手いことを言うね、と。続いて池内さんが言う。
「僕ら的には、業が打ち壊された、っていうか、ね」
「破壊による創造っすよ」
 玉ちゃんが言う。俺にはさっぱりわからないが、皆は楽しげに笑う。
「相馬君、だから、頭上げてよ」
 俺はそっと顔を上げた。
 池内さんは言う。あれは、壊されて構わないものだったんだ。僕の気持ちの中でも、ね、と。実際、シナンジュは壊れていた。粉々と言っても良かった。あれほど磨き上げられた表面も、ぱっくりクラックが入っていた。自作パーツも折れて、破片が無くなってしまったものもあるらしい。でも、池内さんは笑っている。
「まあ、僕ら的に言えば、あるべき形の業の行方、ってやつだよ」
 池内さんたちは、皆で笑う。
「いや、それより、相馬君、君、すごいよ。すごい操縦だった」
「相馬ちゃん、これでも始めて三か月も経ってないんすよ」
「三か月?そりゃすごい」
 相馬さんのチームの加藤さんと敏野さんも笑う。俺らさっぱりだめだったねえ。だめだねえ、と。もう、若い人の時代だね、と。まあまあ、相馬君、座って座って、と俺にも席が勧められる。俺的には床に正座したいくらいの気分だった。それとは別に、話は盛り上がる。池内君も、あれだけ追いつめられたのは、珍しいんじゃないか?いや、あるにはあるけど、久々にホントに追い詰められたねえ、と。
「いや、池内さん、ホントに上手かったっす。もう、最後は、あれしか手がなくて」
 すみませんすみません、俺はもう何度も言っていた。皆は笑う。
「あの判断力は、すごかったと、僕も思います」
 有田君は言う。両方とも、武装をロストしたところで、相馬さんの役割は完全に達成されてました、と。でも、その上で、あの判断をですから、とも。
「うわあああ」
 俺は頭を抱えた。そう言われれば、池内さんのシナンジュを壊してしまう必要なんかなかったんだ!
「いやいや、いいんだよ。あれは壊されるべきだった」
 池内さんは言い、加藤さん敏野さん、それに店長もうなずく。有田君は少し居心地悪そうだ。
「破壊による創造っすよ」
 玉ちゃんが、これ以上ないドヤ顔で言う。玉ちゃんにイラっと来たのは、これが初めてだ。
「天然系の相馬ちゃんだからこそ、やれたんだ。よかったんだよ、あれで」
「天然系言うな」
「じゃあ、脊髄反射系?」
「反射来たら思考と融合させようよ」
「思考してなかったっしょ」
「うん」
 皆が笑う。池内さんが言う。
「君ら、良いチームだよ」
「それは判ってます」
 玉ちゃんはドヤ顔だ。なあ、有田君、とうなずきかける。
「はい」
 有田君は、うなずく。玉ちゃんは俺の背中を叩く。
「どうよ、相馬ちゃん」
「うん」
「相馬ちゃんに思考が足りなくても、有田君がやってくれるから。これこそ反射と思考の融合だよ」
「足りない言うな」
 店長たちが笑う。いや、笑い過ぎだから。
「バトルに呼んでくれたことに、ホントに感謝してるんだよ」
 池内さんは言う。加藤さんと敏野さんも深くうなずく。
「僕ら的にも、いろいろ決着ついたし」
「すみません」
 有田君が頭を下げる。
「ありがとうございます」
「いや、君が謝る必要なんかない。相馬君もだからね」
 池内さんは言う。もちろん、俺にだって少しは判っていた。以前に、この店であったという、ちょっとした出来事って奴だ。何があったのかも、少しは察していた。でも、知りたいとは思わない。
 皆、笑って忘れようとしている。それでいいじゃないか、と俺にも思えていた。

チーム0・F・INF 助走12

2015-11-18 22:35:46 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 ビームサーベルで、斬り結ぶ。
 光の衝撃波が広がり、粒子が散って打ち付ける。
 赤く輝く粒子を放ちながら飛ぶ俺のキュリオスと、同じく赤く、輝くサイコフレームを露わにして飛ぶシナンジュカスタムが、斬り結んでは離れ、しかし離れきることは互いに許さず、ふたたび宙を蹴るようにして、詰め寄り切り結ぶ。目の前の敵しか、もう見えない。俺は、こいつを、みんなのところへ行かせるわけにはゆかないんだ。
 俺のホロモニターは橙色を過ぎて、さらに赤みを増しつつある。機体のプラフスキー粒子が尽きつつある。尽き果てれば、機体は完全にコントロールできなくなる。今なら、そのまま撃破される。ライトボールを圧し、機体を踏み込ませ、ビームサーベルを振るわせる。奴のサーベルと打ち合い、粒子が飛び散る。
 奴が身を翻す。しまった、と思ったときには、蹴りとばされていた。
 思わず、俺までのけぞる。マジで蹴られたようだ。蹴られ突き放されたなら、すぐに次が来る。キュリオスの身をひねらせる。片脚を失って機体が安定しない。そこに射撃が叩きつけてくる。
 奴の、バルカン砲だ。俺の掲げたシールドに、次々と着弾する。一部は機体にもあたっている。それで撃破はされないが、奴自身がサーベルを振りかざしながら迫る。応じる俺は、わずかに遅れる。左腕一本で、シールドとサーベルを同じ腕に持っているからだ。それでも、受けた。
 粒子が飛び散る。さらに押し込まれる。受けながら、こんどは俺の側が身を翻す。蹴るためじゃない。蹴りをあらかじめ避けるためだ。体を入れ替えた拍子に、開いた間合いに、俺はサーベルを振るう。
「・・・・・・っ!」
 確かに奴の機体に斬り込んではいた。奴の肩をかすめて、左のバックパックだ。しかしやつは、斬りつけられながらも、身をかがめる。俺のサーベルが、奴の背をえぐる。そこに取り付けられた、アームドアーマーにも食い込む。
 奴の背が光る。爆発じゃない。
 その背につけたアームドアームが飛んだ。俺に向かって。噴射の尾を引いて、ぶつかってくる。キュリオスが大きく態勢を崩す。俺もリアルに衝撃を受けたようにのけぞる。
「!」
 俺は、わけのわからない声を上げて、そのアームドアームを斬り払った。それは二つに断ち切られて、くるくると舞い、そして爆発する。炎に煽られて、さらに機体を揺らがせるキュリオスへ向かって、奴が突っ込んでくる。ビームサーベルを振るう。
 咄嗟に掲げたシールドに、奴のビームサーベルが食い込み、断ち切る。俺は姿勢を立て直せない。奴は再び、ビームサーベルを振りかぶる。受け太刀の俺に叩きつける。そのまま、俺は押し込まれる。機体の踏ん張りが効かない。奴のパワーだって、今は弱っているはずなのに、受け太刀のまま押し込まれて、肩にまで、斬り込まれる。
 押し返す。まだGNドライブの推進力は負けていない。アームドアームを失った奴を押し返し、返す刀で奴へと斬りつける。奴も、サーベルを振るった。打ち合い、切り合い、粒子が飛び散る。機体が安定しない。片足を失い、先に肩まで切りつけられたキュリオスのダメージは大きい。右腕は動くが、先のマニュピレーターを失っている。武器にはならない。それは奴も同じだ。奴の右腕は、アームドアーマーごと、俺が斬っている。互いに残された腕一本での戦いだ。奴のサーベルが下段から振り上げてくる。
「しまった!」
 機体の制御が間に合わない。受け太刀のビームサーベルも、間に合わない。
 奴のサーベルが脇をえぐったところで、ようやく、受け止める。サーベルでなく、機の左腕で。斬り飛ばされて、宙を舞う。持っていた、最後の武器のビームサーベルとともに。
「このぉ!」
 ほとんど反射的に、蹴り上げていた。奴の腕を。そのサーベルを握った手を。キュリオスの残った脚、そのブレードフィンが蹴り上げる。手ごたえがあった。サーベルと、砕かれたマニュピレーターアームが飛んでゆく。
 けれど奴は俺を見た。ツインアイが輝く。そしてバルカン砲を放った。
 機体が撃たれ、悲鳴を上げる。俺には、キュリオスには、もう、武器は無い。半ば斬り飛ばされた左腕、マニュピレーターを失った右腕で、機体を庇うのがやっとだ。
 いや、ちがう。
 まだ負けていない。俺も、キュリオスも、負けちゃいない。まだ、最後の手がある。
「!」
 気合に上げた声は、もう自分でも何を言っているかわからない。ライトボールをタップ。高速モード。背にある機首がせり上がる。身を庇っていた両腕も、高速形態の為に、両側面へもどる。そこい、容赦なく、奴のバルカン砲が撃ちあたる。
 構うものか。俺に出来る最後の手段は、突っ込む事だけだ。
 奴にまっすぐに機首を向け、そしてフルスロットルで突っ込んだ。まっすぐに奴にぶちあたる。衝撃を感じるほどホロモニタが揺れる。すでに赤く染まり、ぷらふスキー粒子はわずかしか残っていない。体当たり位でシナンジュを破壊できるとも思っていない。俺はキュリオスの変形を半解除する。劇中で、落下しようとするコロニーを支えた時の形だ。そして、腕の残った部分で、奴を抱え込む。
 そのまま最大加速に固定する。機体が安定しない。振り回されて、シナンジュから引きはがされないのがやっとだ。奴は身をよじってあらがう。残された左腕の肘を打ち付けてくる。逆進噴射もかけようとする。でもむだだ。俺を苦しめた不安定性が、いまは奴を苦しめる。振り回すようなランダムな加速に、奴の姿勢が安定しない。いける!
 このまま、二機で、バトルフィールドから飛び出す。バトルフィールドから飛び出した機は、失格になる。
 俺の役割は、シナンジュを、池内さんを、抑え込むことだ。
 不意に、モニターが暗くなった。プラフスキー粒子が尽きたのか、と思った時、嫌な音が聞こえた。
 床にプラモを落として、ぶっ壊したような音、がっちゃーん、というプラの割れる、取り返しのつかない音だ。
 今、俺のモニタには、アウト・オブ・バトルフィールドの文字が点滅している。
 場外では、プラフスキー粒子の効果が無く、当たり前のことだが、プラモが飛んだり跳ねたりはできない。放り出されれば、床に落ちる。
 いやまてよ、 バトルマシンの周囲には、一応、棚のような安全スペースがあって、フィールドから押し出されたくらいでは、床まで落ちないようになっているはずだ。ちょっとフィールドから出たくらいなら。
「・・・・・・」
 ちょっとじゃなかったよな、俺の勢い。
 あの音、俺のキュリオスだけじゃないよな。池内さんのシナンジュを、フィールドから押し出そうとしたんだもんな。
 すっげー完成度だったよな。俺のはパチ組みにデカールとクリアコート程度だけど、池内さんのシナンジュ、マジで全部のパーツに手が入ってい・・・・・・
 あたままっしろになった。
 うん、徹夜明けだし。
 間違いなく、池内さんのシナンジュ、壊したはずだし。
 たぶん、俺はそのままぶったおれたはずだ。
 よくわからん。

チーム0・F・INF 助走11

2015-11-17 18:08:53 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 だが、モニターは死んでない。
 俺のキュリオスは、まだ生きてる。ぐるんぐるん廻っている。ホロモニターの機体状況パネルが瞬いている。右足が、膝から無くなっている。
「この!」
 ライトボールをしゃにむに圧して、何とか安定を取る。機体が安定しない。すぐ目の前を、白のシナンジュカスタムが飛び去ってゆく。牙のように開いた左腕のアームドアームが、俺のキュリオスの右足を握りしめ、文字通り粉々に砕く。
 そんなもん、見送っている暇なんか無かった。はじめてアリオスに乗った時のように、機体が安定しない。キュリオスの膝の羽根は、GN粒子を制御する機能がある。それが失われれば、高機動時の安定性が落ちる。そんな設定まで、反映してなくてもいいじゃねえか。その俺へと、シナンジュカスタムはゆっくりと振り向く。
 俺は、ビームビームガンをぶっ放す。連射は、奴の右や左や斜め上を飛び去るばかりだ。
「この!」
 俺はミサイルを発射した。ビームガンが駄目なら、自分で当りに行くミサイルだ。尾を引いて伸び行き、シナンジュカスタムへと絞り込まれてゆく。しかし、ミサイルが奴へと届く前に、奴の機体が輝く。赤く。
「うそだろ・・・・・・」
 でも、俺は気付いていた。シナンジュの登場するガンダムUCに登場する、サイコフレームによる機体強化システム。NT-Dだ。
 機体をサイコフレームの赤い光につつみ、シナンジュカスタムは、あの牙を開いたような左腕を振るった。次々と爆発が起きる。ミサイルは、奴の機体に触れることもなく、破砕され、自ら吹き飛んでゆく。爆炎を振り払い、シナンジュは、右腕を、ブレード型のビームランチャーを向けてくる。
 光が走る。咄嗟に、俺はライトボールに力を込める。応えてキュリオスは大きく身を揺るがせる。間近を、光が薙ぎ払う。奴のビームだ。避けられたのはまぐれだ。
 避けたからって、奴のビームは止まらない。鞭のように振るわれる。
「くそ!」
 俺は避けるので手一杯だ。機体は思ったように動かない。勝手にふらついたり廻ったりする。その間近を、ビームが薙ぎ払う。避けられたことに、俺の方が驚いていた。というか、奴の方も驚いているらしい。
 いや、今がチャンスだ。
 俺はライトボールの使っていなかったアイコンをタップする。ホロスクリーンにSpecial functionの文字が浮かび上がる。特殊機能だ。奴の、NT-Dと同じ。
「TRANS-AM!」
 意味は無くても、そう叫ぶ。だって、トランザムの決まりだ。
 キュリオスは加速した。備蓄しているプラフスキー粒子を一気に開放して、パワーを高めるシステム。もちろん、ゴリゴリと粒子が減ってゆく。ホロスクリーンの色も、みるみる黄ばんでゆく。やがて橙色へと変わるだろう。さらに赤になり、赤黒くなり、粒子を使い尽くせば、ホロスクリーンは暗転して、機体も機能を止める。それまでに、奴を倒せばいい。奴のNT-Dだって似たようなものだ。俺は両手のビームガンを捨てた。役に立たないビームガンは、捨てるのがガンダムの流儀だ。代わりにビームサーベルを抜く。二刀流で、突っ込む。どうせ、思うように機体制御なんかできない。突っ込むしかないんだ。
 奴の姿が大きく迫る。牙の腕を、奴も振るう。俺もビームサーベルを叩きつける。すれ違いざまに、粒子が散った。キュリオスには、損傷はない。すれ違い、すり抜けて、旋回する。もう一撃、ぶち込むために。
 奴は、身を翻す。俺の相手など、している暇はないというように、逃れるように加速する。
「行かせるか!」
 俺の役目は、奴を抑え込むことだ。有田君と玉ちゃんの背を突かせるわけには行かない。逃げる奴を、追いつめる手が無い。ビームガンを捨てたら、キュリオスにはもう火器が残っていない。あるのは両腕のシールドとビームサーベルだけだ。シールドには、ニードルがあるが、サーベルよりも短い。奴の飛ぶ先、有田君と玉ちゃんとが、相手チームと戦っている。
 奴は、シナンジュカスタムはひたすらに駆ける。そここそが戦いの場である、というように、俺など、ただの邪魔者に過ぎない、というように。シナンジュが、右手のビームランチャーを構える。
「有田君!」
 俺はホロモニタの通信ウィンドウへ叫んだ。
『大丈夫です』
 彼は応じ、彼方のケルディムは俺たちを見上げる。何が大丈夫なものか、シナンジュはビームランチャーを構える。足を振り出し、宙を踏みしめるようにして、狙いを着ける。けれど、有田君は動かず、代わりにコールした。
『TRANS-AM』
 ケルディムが赤くGN粒子の渦の中に包まれる。同時に、その渦に舞い上げられるように、ケルディムガンダムの肩にあった、シールドビットが飛び立つ。その姿へ、シナンジュの奴は、ビームを放つ。
 強力なビームが、虚空を貫いて、まっすぐにまっすぐに伸びてゆく。動かず赤く輝く、有田君のケルディムへと向かって。
 だが、届かなかった。ケルディムの、ほんのわずか前で、ビームは阻まれ、水しぶきが飛び散るように、粒子を飛び散らせる。
 シールドビットだ。トランザムによって、強化されたシールドビットが、シナンジュのビームを阻んでいた。
「うぉりゃあああああ!」
 俺は叫んだ。今なら、届く。俺は加速し、ビームサーベルを振りかぶる。狙撃体制のシナンジュに打ち付ける。奴は、それでも左腕の、牙のように開いたアームドアーマーを振り向けてくる。サイコフレーム共振か何かで、何もかも粉砕する無茶設定のアームだ。
 激しく粒子が散った。信じられない。ビームサーベルの粒子すら飛び散らせて、奴の機体に届かない。俺は、奴の前をすり抜ける。飛び行き過ぎながら、俺は機体を翻す。これ以上撃たせるものか。
 奴も、俺へと振り向く。牙を開いたようなあのアームドアーマーを、再び俺へと向ける。あれを潰さなければ、手が出せない。トランザムで、俺のキュリオスの粒子は減り続けている。ホロモニターの色は、黄色を過ぎて、橙色に変わりつつある。あまり長いこともたない。しかも片足だ。機体の制御も悪い。
 俺は宙を蹴るようにして、奴へと迫る。奴のアームドアーマーの牙の真正面へだ。突きを放つ。粒子が散った。ビームの刀身すら、砕かれて撒き散らされてゆく。でも、俺にはまだシールドがある。キュリオスのシールドの閉じた切っ先を、押し込む。
 トランザムのGN粒子に守られたシールドのエッジならば、奴のアームドアーマーを押し切れるかもしれない。
 だが、共振フィールドは、容赦なくシールドを苛む。そして、荒目のヤスリでも掛けられたように斬り削られてゆく。シールドだけでなく、ビームサーベルの刀身も、それを持つキュリオスのハンドパーツも。
 まだだ!まだ終わりじゃない!俺はライトボールをタップした。半ばまで削られたシールドが開く。シールドに仕込まれたGNニードルだ。それが飛び出す。まっすぐにアームドアーマーの真ん中に突き刺さる。
 爆発が起きた。俺のシールドが吹き飛ぶ。奴のアームドアーマーの爪が引きちぎられて飛んでゆく。俺たちも、爆発に引きはがされて離れる。キュリオスの右腕はまだ残っている。でもマニュピレーターはもう動かない。ホロモニターの色はほとんど赤だ。粒子の残りも少ない。俺はビームサーベルを振りかぶる。奴へと叩きつける。
 奴は、もう一方の腕、右腕で身をかばう。その腕に装着された、アームドアーマーに、俺のサーベルが食い込む。俺はさらに斬り下げる。ふたたびの爆発が起きる。奴の右腕の先が飛ぶ。ようやく互角、いやまだ奴には両足が残っている。奴は退く。退き、けれど両脚のバーニアを吹かして、踏みとどまる。奴の右腕の先は無い。左腕は残っている。それが、ビームサーベルを引き抜く。
 奴は俺を目指して、突っ込んでくる。俺も、ビームサーベルを振りかぶる。豚角ブレードが打ち合って、粒子が激しく散った。

チーム0・F・INF 助走10

2015-11-15 20:10:14 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 「ガンプラファイト!レディーゴー!」
 コールしたのは、理恵子さんだった。そして、俺たちは、バトルをしている。
 広がる星空、瞬く残骸、暗礁空域フィールドを、キュリオスは飛ぶ。眼下で玉ちゃんのセラヴィーが、激しくビームを放っている。
 相手からの応射も来る。Ex-Sガンダムのビームスマートガンだろう。けれど、セラヴィー自慢のGNフィールドが、それをはねつける。お返しに、セラヴィーはビームを放つ。
 途中に残骸があろうが、構わずビームの連射を続ける。玉ちゃんの役目は、壁役だ。敵の攻撃を引き寄せながら、敵を攻撃し続ける。敵は玉ちゃんのセラヴィーを決して無視できない。避けて通るか、それとも打ち崩すか、どちらかだ。
 相手は、撃ちあうことを選んだ。強力で、正確なビームが、セラヴィーへ飛びくる。まっすぐな光の筋だけでなく、一度あさっての方向に飛んだ光線が、かくん、と急角度で曲がって、横合いからも叩きつけてくる。だが玉ちゃんのセラヴィーは動じない。強化されたGNフィールドが、ビームをはねつけ、はじき飛ばす。プラフスキー粒子が尽きるか、あるいはGNフィールドを物理的に貫くかでなければ、セラヴィーを倒すことなどできない。
 しかしセラヴィーの放つビームも、敵に効果を見せているわけでもない。敵は、暗礁空域の残骸の中を、長い噴射炎をひらめかせながら、敏捷に飛び回る。セラヴィーのビームがそれを追って放たれ、上手く捉えたときにも、しかし、ダメージを与えられていない。Ex-Sにも簡易ビームバリアがある。直撃しなければ、大ダメージにはならない。
 それでもこちらには勝算がある。
 今、強力なビームが、緑のGN粒子を散らしながら飛びゆく。有田君のケルディムのビームだ。さすがのEx-Sもブースタ噴射炎を伸ばして、大きく退く。有田君と玉ちゃん、二機がかりでEx-Sを叩く。それが俺らの作戦だ。一機を落とせば、次の一機にも優勢な数で戦える。相手の最後の一機、デカイ腕を持つギガンティックアームは、まだ姿を見せていない。あれには火力があるが、機動力が無い。だから今がチャンスだ。
 そして俺の役割は、二人がそのチャンスに全力を出せるように、挟み撃ちに来たシナンジュを抑えることだ。機動性と、火力との両方を備えたシナンジュが、挟み撃ちをかけてくるだろう、それが有田君の予想だった。
 その通り、白のシナンジュは、俺たちの横合いを狙って、飛び来た。噴射のひらめきが、流星のように見える。残骸の向こうを鋭く切り返しながら飛ぶ。俺もキュリオスを飛ばす。残骸を避けながら、奴の針路をふさぐ位置へ。まだ遠い。俺のキュリオスのビームガンは、速射と連射には強いけれど、遠距離射撃には向いていない。遠距離射撃が得意なのは、むしろシナンジュのほうだ。
 装備マシマシ、バンシィの装備が全部くっついているらしい。背中にアームドアーマー、両腕それぞれにもアームドアーマーがある。右腕のそれは、ビームスマートガンってやつだ。こちらに振り向け、ぶっ放してくる。白く輝くビームの筋が、俺へ向けて伸びてくる。
 俺は、ライトボールを操って、回避運動に入る。あれの厄介なのは、ただ飛びぬけるだけじゃなくて、撃ちっぱなしで斬りつけるように薙いでくることだ。俺の回避のあとを追って、ビームは横なぎに虚空を切り裂く。途中で残骸を吹き飛ばす。俺は回避しつづけるしかない、ビームが途切れるまで。
 だが、途切れたなら、俺のターンだ。ライトボールを操り、俺はキュリオスの両腕を振り上げる。両腕にはシールドと、ビームガンと、ミサイルとを取り付けた、超マシマシ武装だ。そのビームガンをぶっ放す。トリガーアイコンを圧している限り、ビームが放たれ続ける。マシンガンと同じだ。火力じゃ負けてない。
 だが流れるようなその光の中を、白いシナンジュは小刻みに機体を揺さぶりながらすり抜けてくる。ホントに上手い操縦だ。だが、こちとらビームだけじゃないぜ。俺はライトボールのセレクタをタップする。武装切り替え。照準マーカーが大きなものに変わる。自分から命中に行くミサイルは、目標を支持してやればいい。それからトリガーをタップする。
 腕の、そして膝のフィンにつけたランチャーから、ミサイルを発射する。射出されたミサイルは、噴煙の尾を引き、それぞれに弧を描いて、絞り込むようにシナンジュへ向かってゆく。
 シナンジュは、退かない。むしろ、噴射を強めて、こちらへ、ミサイルへと突っ込んでくる。そして銃火を放つ。バルカン砲だ。信じられない。か細い尾を引くバルカン砲の銃弾が、ミサイルを貫く。迎撃している。シナンジュはさらに突っ込んでくる。貫かれて爆発したミサイルの火球を、自ら押抜いて、だ。
 そしてその右手を、俺へと向ける。ビームを放つ。俺は横滑りに回避する。それを追いかけて、宙を切り裂くようにビームは追ってくる。回避を続けるしかない。そして、俺が横滑りに退いたところへ、シナンジュは突っ込んでくる。
「させるかっ!」
 まっすぐに突っ込ませるもんか。シナンジュは大きく横滑りして俺から距離を取る。それでも突っ込む勢いは変えない。俺も転進して、奴と並ぶように飛ぶ。
 俺と奴との間を、残骸が流れゆく。俺は撃つ。ビームが続けざまに飛びゆく。跳ねるように奴は回避運動に入る。それを追いかけ、トリガーアイコンを圧したまま、照準マーカーで追いかける。連なるビームの軌跡は、わずかずつ奴に遅れて、届かない。
 奴も撃ち返してくる。ビームの癖に薙ぎ払い、回避する俺を追いかけてくる。けれど、奴が撃つときは、俺にとってもチャンスだ。奴の動きが一瞬、止まる。振り抜く奴のビームとすれ違いながら、俺は撃ち続ける。
 ぱっ!と奴から光が散った。手ごたえがある。でも、まだ弱い。ぶち抜いたわけじゃない。俺は、さらにミサイルを撃つ。奴も、跳ねるように飛んだ。俺へではなく、前へ。奴が、目指す有田君と玉ちゃんの方へ。ミサイルの群れが、航跡をうねらせて、奴を追いかける。奴は、そのミサイル群をちらり見て、着いてくるのを一瞬、確かめた。
 何故だ?俺が思った瞬間、奴はさらに大きく吹かす。奴の正面に浮かぶ、大きな残骸へ向かって。モビルスーツの何倍かはある、巨大な残骸だ。コロニーの外壁みたいに、緩やかな弧を描いている。
 奴は、左腕を振りかぶる。その腕に装着された太い外装が開く。牙のように。それを、残骸へと叩きつける。
 爆発は、起きない。ただ衝撃波が広がり、奴の打ったところに、ぽっかりと穴が開く。そこを、奴はすり抜ける。すげえ操縦だ。わずかに遅れて、俺の撃ったミサイルが、残骸へと突き刺さってゆく。爆発が連なって起きる。残骸の壁を消し飛ばし、代わりに爆炎の壁が宙に現れる。奴の姿は、見えない。
 やべえ、と思った。俺との間に、爆炎の壁を置いて、奴は有田君たちのところへ突っ込むつもりだ。焦って、ライトボールを押し込んだ。キュリオスを加速させる。爆炎の中に突っ込む。赤いガスを突きぬけて、ふたたび、暗い虚空が開ける。その先で、有田君たちの撃ちあう閃光が見える。けれどシナンジュの姿は見えない。
 もういちど、やべえ、と思った。罠だ。俺が焦って突っ込むのを、奴は待っていた。でも引っかかるしかなかった。突っ込まなければ、奴は俺が案じた通り有田君たちのところへ乱入したはずだ。
 ホロモニタの端に、光が滑るように動く。噴射を切り返し、白の機体が急接近してくる。奴だ。白のシナンジュカスタム。
 俺がビームガンを向ける間にも、奴の姿は大きく迫る。間に合わないか。構うものか。俺は後ろ飛びに機体を滑らせながら、ビームを放った。奴の機体が大きく横滑りする。俺のビームをすり抜ける。照準が追い付かない。その間に、奴は急接近してくる。その左腕を振りかぶる。牙のように開いたそれを、俺に叩きつける。
 急回避は、間に合わない。それでも、俺はライトボールを思い切り引き寄せる。
 ホロモニタの視野が、大きく揺れて、衝撃にすら感じる。

チーム0・F・INF 助走9

2015-11-15 00:38:06 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 「あら、いらっしゃい」
 声に俺は少し驚いた。いつもの店じゃあ聞かない、若い女性の声だ。店のサッシの扉を開いてくれたのも、若い女の子だ。
「おはようございます、理恵子さん」
「おはよう、有田君。玉田さんも」
 ういーす、などと言いながら、玉ちゃんは普通に入ってゆく。俺は、ドモデス、とかキョドりながら玉ちゃんの後に続く。
「誰よ、アレ」
 玉ちゃんはわざとらしく、ん~ああ、しらなかったっけ~とか言いやがる。
「理恵子さん。店長の娘さん」
 その理恵子さんは、またサッシの扉を閉じる。そこにはまだ「準備中」の札がかかっている。そう、少し早く店を開けてくれたのだ。時間が遅くなると、ジャリどもが増えてくる。互いにウザいと思いながら、ぶつかるのは面倒じゃないか。店長も、そうだな、と言ってくれて、この朝のバトルとなった。
 相手の池内さんたちも、承諾してくれた。そしてすでに奥の部屋で俺たちを待っていてくれている。ガキ向けの待機席に並んで、何事か話をしている。笑い声も聞こえる。
「やあ、おはよう」
 店長が振り返る。待機席の池内さんたちも立ち上がる。
「おはようございます」
 有田君はいつも通り礼儀正しく一礼する。俺らも慌てて頭をさげる。間に立って店長は俺たち双方にうなずきかける。
「こういうことを、僕が言うのは、どうなのかな、と思っていた時期もあったんだ。でも今は思う。僕がこの商店街で、この地域で店をやっているのは、この地域が好きだからでもある」
 だから、と店長は言う。
「地域の人たち、子供も、大人も、変わりなく、僕はその橋渡しの役目を、もうすこしちゃんと考えるべきだった。君たちが、ここで、普通にガンプラバトルをしてくれるのがうれしい」
 余計なことを言ったかな、と店長は照れたように笑う。
「まず、紹介くらいしようか」
 もっとも、俺以外は互いに、顔くらいは知っているようだった。池内さんは、シナンジュを持ってきていた。シナンジュスタインという白の機体をベースに、右腕にはビームランチャーを折りたたんでいる。左腕は握りしめた巨大な拳のようだ。アームドアームという、巨大なクロウだ。その背には、シールドのようなパーツを背負っている。それもまた別の種類のアームドアームだ。アームドアームマシマシだ。
 俺は、ちょっと胸焼けしそうだ。シナンジュスタインベースにした、バンシィノルンを作ってきている。素のバンシィノルンじゃなくて、シナンジュベースですらなくて、シナンジュスタインをベースにした、バンシィノルン仕様だ。何を言ってるかわからない。俺も判らない。でもすげえ造形なんだ。
 装甲にスリットが入っていて、キラキラしたメタルの内部が見える。サイコフレームだ。どれだけ手間をかけて作ったのか、俺にはもうわからない。
 池内さんのチームの二人目は、敏野さんという、池内さんと同年代の、少し小柄な人だった。彼の機体は、EX-Sガンダムだった。でっかいブースターを背負い、ビームスマートガンという長いランチャーは、機体の前に横に携えている。でかい肩には白く丸いマーキングがある。デカールもバリバリだ。肩の上にはフィンがある。そのフィンには、爆弾のようにミサイルが装着されている。腰の後ろにあるフィンにも同じだ。これまたすげえ手間を掛けて作ってある。
 三人目は、加藤さんという。これまたすごい機体だ。ガンダムの背後から、さらに大型の腕が生えている。サイコガンダムの腕だ。ヘイズル・ギガンティックかよ、と玉ちゃんが呟く。俺にはもはや何が何だかわからない。ベースになってるガンダムもRX-78系じゃない。ヘイズルというタイプだ。さらに色々とユニットが増設され、強化されている。そのトドメがサイコガンダムの腕だ。そこには、サイコガンダム用の馬鹿デカイシールドが両手に装備されている。俺には何が何だかわからない。
 彼らの作りこんだガンプラに比べたら、俺らのは、如何にも急いで作りましたって感じだ。俺のキュリオスなんて、無塗装簡単仕上げに、デカールを貼ってあるだけだ。
「行けます」
 作戦タイムに、有田君は言う。相性のいい組み合わせです、と。
「ギガンティックアームは、パワータイプですけど、バリア系の防御じゃないです。こっちの攻撃は効きます。重要なのは、機動性が低いことです」
「じゃあ、俺が」
「いえ」
 玉ちゃんに、有田君は首を振る。
「EXーSを二人で叩きましょう」
「なぜ?」
 俺は問う。デカ腕を叩く方が良さそうに見える。有田君は言う。
「EXーSと、あのシナンジュが、あっちの主力です。二機の機動力で、相手を挟み撃ちにする気です」
「なるほどね」
「挟み撃ちにさえされなければ、なんとかなります。だから、相馬さん」
「俺はシナンジュの方を押さえればいい、ってことか」
「お願いできますか」
「任せろ。アイハブコントロール」
「池内さん、つええぞ?」
「死ぬ気で押さえる」
 わかった、と玉ちゃんはうなずき返してくる。あちらの作戦会議も終わったらしい。池内さんたちは、俺たちを見る。
「いいかい?」
「はい」
 有田君が応じる。池内さんは一歩踏み出し、手を差し出した。
「僕らも全力を尽くす」
「おねがいします」
 有田君も、池内さんの手を握り返す。強く振る。戦いのための礼儀だ。店長も見届けるようにうなずく。
「今回は、非破壊モードだ。ダメージは仮想反映されるけれど、実機には与えられない。フィールド広さは、ウチのマシンのままだ。フィールドから出れば、それで機体ロストあつかい。負けになる。その他、標準ルールで行く。もう、わかってるね」
 はい、と俺たちはうなずく。
「では、配置に」
 それ自体は、もう慣れきっているはずなのに、今日は妙に緊張する。マシンのこちらサイドの縁に、自分のバトルパネルをセットする。接続正常。データ共有。その上で、自分のガンプラをセットアップポジションへと置く。俺のキュリオスは、高速形態でだ。セットして、スキャンさせる。スキャンに基づくデータと、バトルパネルにプレイヤーが初期設定したデータとが、マシンの中で処理されて、スキャンデータ優先で整合される。だから強すぎる俺設定が機体の性能に反映されるとは限らない。
 俺は、左隣の有田君と、さらに向こうの玉ちゃんを見た。二人とも、少し緊張してるようだった。だから、俺は言った。
「チーム・ゼロフィンフ、スリー。キュリオス、介入行動準備良し」
「チーム・ゼロフィンフ、ツー」
 すぐに玉ちゃんが続ける。やっぱ玉ちゃんは良い奴だ。
「セラヴィー、目標を駆逐する」
「チーム・ゼロフィンフ・・・・・・」
 有田君は、少し迷ったようだった。けれどかぶりを振り、顔を上げる。
「ワン。出撃準備良し。チーム・ゼロフィンフ、準備良し!」

チーム0・F・INF 助走8

2015-11-13 23:30:12 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 それは、模型誌の作例かっつーくらい、綺麗に仕上げられた、ケルディムだった。
 ケルディムガンダムGNHW/R。劇中最終決戦に投入された、重武装カスタムだ。卑怯レベルで強い第二期ガンダムに、さらに卑怯なビットマシマシだ。しかもこのケルディム、オリジナル改修があちこちにある、玉ちゃんが作らないと言っていた、バトルスペシャルだ。
「その武装、どうかな」
 玉ちゃんは、そっと問う。
 有田君は、眼鏡の奥で瞬き、顔を上げて、玉ちゃんを見つめ返す。
「良いです。ありがとうございます」
 武装は、三つ又に分かれた、大型のものだった。俺ら00好きなら一発で判る。劇中、あれほど活躍した強敵、ガデッサのビームランチャーだ。三つ又の銃身兼増幅ブレードを持ち、その付け根中央にビーム発振部がある。ランチャー、というより、大砲だ。実際、そんな風に使われた。
「良かった」
 心底ほっとしたように、玉ちゃんは息をつく。ケルディムの武装って、どっちか言えば乱射タイプだろ、と。
「でも、違うんだよな。欲しいのは狙い撃つ武装なんだ。君に向いているのも、狙い撃つつ武器だと思った」
「はい」
「あとな、俺アイデアぶっこんであるんだよ」
 玉ちゃんは楽しげだ。ちょっといいかな、とケルディムを取ると、その機体背部を有田君へと向ける。尻の、尾羽のようにライフルビットがあるところだ。ケルディムガンダムには、その付け根に、動力炉の太陽炉がセットされている。
 玉ちゃんは、自慢げに、その太陽炉を動かした。
「自作関節入れてるのよ。それで、ね」
 じゃーん、と言いながら、彼はケルディムを俺たちに見せる。俺は何だかよくわからない。
「ほら、ここ」
 もどかしそうに、玉ちゃんは、ケルディムのケツと股間を指さす。
「・・・・・・何?」
「なんですか?」
「あー!もう!」
 言いながら玉ちゃんは、ケルディムをガニマタ開きにして、その股間パーツを開いて見せた。ここ、と指差す。
「アリオスの太陽炉パーツをここに仕込んでるの。股間」
「股間、股間ってでかい声で言うなよ」
「で、ケツのケルディムオリジナルの太陽炉が、こうやって・・・・・・」
 おお!と、俺と有田君は声を上げた。
「こんな仕掛けが!」
「クアンタムバーストモード!」
「どうよ?」
 クッソ自慢げに玉ちゃんは言う。二個の太陽炉の直結態勢だ。でも、これに気付けとか、ちょっと無理だろ。でも玉ちゃんは自慢げにつづけるんだ。
「ダブルオーって、どうみてもエクシアからの発展型だろ?クアンタもそうだし。でもさ、ケルディムダブルオーとか、アリオスダブルオーもあり得たと俺は思うんだよ」
「さっすが玉ちゃん」
「すごいです」
 二つの太陽炉を搭載して、暴力的なまでに主人公メカをアピールしたダブルオーは、そりゃかっこいいけど、キュリオス好きとしては、ちょっとさみしいところもあった。キュリオスダブルオーとか無理だもんね。それはたぶん、有田君も同じだ。
 だが、これは二個の太陽炉を搭載し、さらに直結して、クアンタムバーストモードになる。これでパワーマシマシだ。
「見とけよ、見とけよ~」
 玉ちゃんはノリノリだ。まだ仕掛けがあるらしい。またケルディムの股間をいじる。なんか股間ばっかだ。股間に太陽炉を入れるアリオスがアレなんだが。玉ちゃんは股間アーマー、っていうか俺らがフンドシと言ってるパーツを開く。さらに奥の太陽炉に指を伸ばし、それを引っ張り出す。
「どうよ!」
「・・・・・・」
 さすがに、俺も有田君も絶句した。声も無かった。これは、さすがに、どうなのよ?
「どうよ?」
 玉ちゃんの言葉がいぶかしげになる。なあ、どう?と不安げに。
「チ○コ?」
 俺はそっと聞いた。だって仕方ないだろ。股間の太陽炉から、その中枢パーツが伸びて前に突き出してるんだ。
「馬鹿言うなっ!」
「いや、判ってる、わかってる。クアンタムバーストモードだから、しょうがない」
 実際、劇中の刹那のクアンタも、胸の太陽炉がそうなっているんだから。でも、これは、股間だ。
「どうよ?」
 玉ちゃんは、自分の工作をほれぼれと見ている。
「いいとおもいます」
 若干不自然な響きで、有田君が言う。すごいです。さすが玉田さんです。この工作精度で、グラビカルアンテナまで開くなんて。
 そうだろ、そうだろ、と玉ちゃんは悦に入っている。もはや何も言うまい。俺は話を変えることにした。
「で、玉ちゃんの使う機体はよ?」
「忘れてたぜ」
 鞄からごそごそと、もう一つの箱を取り出す。こっちは旧作だからよ。でもまあ、いいだろ?と。それは、セラヴィーGNHW/Bだ。ケルディム同様、第二期最終決戦用に重装備したタイプだ。GNフィールド装置マシマシの上に、ビームガンもマシマシだ。背中のセラフィムは、もちろん分離可動できるようにしてある。そこは玉ちゃん、抜かりない。
 そうして、3機のガンダムが、テーブルに立つ。バトル用カスタムは、もろもろマシマシの派手派手になりがちだ。でも、俺は思うんだ。
「いいね。俺たちのガンダムだ」
「ああ、そうだな。俺たちのガンダムだ」
「不思議ですね」
 有田君が感慨深げに言う。
「僕ら、先月までは、こんな風にチームを組むとは思っていなかった」
「君、受験生だもんなあ」
「ごめんな。俺らの遊びにつきあわせて」
「いえ。だってホントに息抜きに来てるんですよ?もう忘却曲線に対抗するくらいしか、僕にはできないんで」
 この子は優秀だと思う。優秀すぎて、俺らにつき合わすのが申し訳ない。
「うん、息抜きだけには、なるように、俺らも努力するから」
「努力したら息抜きにならないですよ」
 わはは、と玉ちゃんが笑って答える。ファミレスでガンダムを並べて、へらへらしてる俺たちは、そうとう危ない集団だが、まあ、いいか。いいよな。
「いいよな」
 おう、と、はい、との返事が重なる。
 そのまま俺らは、ガンダムを眺めていた。俺たちのガンダムだ。
 そして、バトルでは、俺たちがガンダムだ。
 

チーム0・F・INF 助走7

2015-11-12 23:35:53 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 結局、日曜の朝までかかったさ。
 マジで朝さ、徹夜さ。そろそろ徹夜が厳しいお年頃さ。だが、だが、だがだがだがだがだがだがっ!完成させたさ。そうさ。アイハヴコントロール!
 待ち合わせのファミレスで、俺は、玉ちゃんの前に、どん、とキュリオスを置いたったさ。
「どうよ?」
「おお、いいねえ」
 玉ちゃんはでっかい背をかがめて、俺のキュリオスに見入ってくれる。全塗装する時間は無かった。申し訳ない。
「いや、いいんだよ」
 玉ちゃんは言う。これだけ綺麗にヤスリ当ててヒケ消して、そのあとにクリア吹いたっしょ、と。
「判ってくれる?」
「わからいでか。こちとらモデラーよ」
 徹夜明けの脳に染みるぜ。玉ちゃんは続ける。無塗装デカールって結構、ハードル高いのよ。無塗装簡単仕上げってだけで、結構軽く見られる向きあるけど、逆に手間かかるから、エアブラシ持ってるなら、サフで仕上げて塗る方が早いもん、と。
「相馬ちゃん、マーカーと水性で細部に筆入れて、クリアーで閉じてから、デカール貼って、さらに艶消しで閉じるのって、すっげー手間だったっしょ」
「おう」
「エッジも立ててきてるしね」
「おう」
 泣けるねえ。判ってくれる奴がいる。
「ゲーム対応てんこ盛り武装とはいえ、これ、いいよ」
「マジで?」
「・・・・・・」
 玉ちゃんは無言で親指を立ててくれる。生きててよかった。ガンダム握りしめたまま死んでなくてよかった。
 言われる通り、ゲーム対応てんこ盛り武装だ。両手にはシールドを一枚ずつ。さらに、腕につけるアダプターに、ライフルと、ミサイルの両方をつけている。このために、アストレアを二個買いしたようなものだ。さらに俺は、メーカーに部品請求して、ミサイルを二基追加している。それは、キュリオスの脚、膝から突き出した特徴的なフィンに取り付けられている。
「見ててくれ」
 俺は、テーブルの上のキュリオスを手に取り、コキコキと変形させる。寝そべり変形と言われるが、俺は構わないと思う。っていうか、俺はキュリオスが好きなんだ。脚をガニマタにし、先の膝のフィンに後退角を着ける。成り行き任せっぽいが、腕に着けたシールドで膝のフィンを挟むので、一応、形は決まる。そして、その状態で、腕と、足のミサイルランチャーは全て機体上面に、一方ライフルは機体下面に来るようにセットされる。
「おー、良いじゃん。戦闘機的武装フィット理解」
 このために、ピンバイスだの何だの、新規設備投資したのだ。特に足のミサイルランチャーのセットアダプターの自作に、とんでもないクソ時間がかかった。こいつのおかげで間に合わないかと思った。いや、マジで。ホントに、聞いてくれ玉ちゃん、膝の外側にランチャーが来るようにしないと、飛行形態でランチャーが上面に来ないだろ?しかもランチャーの付け根で取付け角が動かないと、フィンの後退角に対応できないんだよ、なあ、なあ、なあ。
「おう、それはわかってんだけどさ、有田君がさ・・・・・・」
「そのうち来るだろ、あの子、ちゃんとしてるし。来られなくなったら電話くらいするだろ、心配しなくていいから、俺のキュリオス見ろよ見ろよ見ろよなあなああ」
「来てるんだよ、あそこ」
 玉ちゃんは、窓の外を指さす。俺は振り返る。ちょっと驚いた。俺たちのいるファミレスへ向かってくる道を、有田君と女の子が歩いてくる。
「俺、あの女の子と、模型屋の前ですれ違ったことあるぞ?」
 すこし前だ。あの子、たしか模型屋の中を覗き込んでいて、そして、ごめんなさいごめんなさい言いながら駆け去って行った子だ。
「うん。俺も見たことある」
 その女の子が、いま、有田君と肩を並べて歩いている。楽しげに有田君を見つめて、笑っている。
「玉ちゃーん」
「相馬ちゃーん」
 俺たち二人は、顔を見合わせて、ニヤニヤ笑う。
「青春っすなあ」
「青春っすよ」
 だが、女の子は足を止めて、有田君に小さく手を振る。有田君は彼女へと振り向く。そういう何気ないしぐさが決まるのは、イケメンの特権だ。この世には、選ばれたイケメン階級があるのだとしみじみ思う。有田君は、彼女に、そうだ、彼女だ。彼女に何か言っている。彼女の方は楽しげにうんうんうなずいたり、首を振ったりする。それから彼女は、肩のところで、もう一度手を振る。
 有田君はうなずき返し、同じく肩のところで手を振り、それから振り返る。俺と玉ちゃんは、席の影にぱっと隠れた。彼は小走りに、ファミレスへと駆けてくる。ぴんぽんぴんぽんぴんぽ~ん、入店のチャイムに続いて、歩いてくる気配。
「おはようございます。すみません、遅れました」
「うん、いいんだよ。おれたち、いまきたとこだし」
「それより、このきゅりおす、みてくれよ」
「お二人とも、どうされたんですか?」
 ううん、なんでもない、と俺たち二人は声を合わせる。
「ねえ、たまちゃん」
「うん、そーまちゃん」
「何か棒読みっぽい」
「それよりさ、どりんくばー、さんにんぶんとってあるから、のみものをもってきなよ」
 あ、すみません、と有田君は頭を下げて、荷物鞄を置いて、ドリンクバーへ向かってゆく。
「ええこやのう」
「ほんにのお」
 俺たち二人は、肩を並べて、向かいの席に有田君を迎えた。有田君は何か察したらしい、神妙な顔をしている。
「あの、もう、お聞きになったかもしれませんが、僕は、池内さんの・・・・・・」
「あ、そうじゃないって」
 俺は手を振る。そんなことよりおれのきゅりおすはどうよ、みてくれよ、なあ、なあ、なあなああなあああああぐっ!、半ば発狂しかけた俺の脇を、玉ちゃんの肘がえぐる。
「相馬ちゃん徹夜で仕上げたらしいからさ」
 それより、と、玉ちゃんは自分の箱を、テーブルに乗せる。
「約束の品、間に合ったぜ」
 そう言ったときの、玉ちゃんのかっこよさと言ったら。まあ、俺は惚れないけどさ。また、玉のハゲ、開けてみてくれよ、などと言いながら、箱を有田君の前にそっと押し出すんだぜ。結婚指輪かっつーの。
「すみません」
 言って彼は箱を開く。そして、ホントに結婚指輪を見た時のように動きを止める。それから、玉ちゃんを見た。
「すみません、ホントに」
「なに言ってるんだよ。有田君は俺たちのロッコンで、ティエリアなんだぜ。俺たちの用意できる、最高の機体を使ってほしいんだ」
 きらっきらする笑顔で、玉ちゃんは言った。
 ちょっと惚れるぞ、おい。

チーム0・F・INF 助走6

2015-11-11 23:55:33 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 「池内さん・・・・・・」
 有田君が呟く。誰だそれ。俺は知らない。玉ちゃんを窺うと、少し驚いた顔をしている。店長の声が響く。
「池内君、入りなよ。ウチは、千客万来なんだ。今でもね」
「いや、ガンプラバトルのポスターを見て、久しぶりだと思っただけなんだ」
 池内、と呼ばれた男は、俺らより十は上な感じだ。アラフォーまでは行ってない。薄手のジャンパーにデニムの、どこにでもいるおっさんだ。店長は懐かしげに話しかける。
「今でも、模型、作ってるんだろう?」
「ええ。あいかわらず。昔の連中とも、つるんでます。バトルからは、ずいぶん遠ざかりましたけれど」
「やりませんか」
 思わず、俺は言っていた。
 言った俺の方が驚いていた。でも、言った後には、言うべきことを言ったんだという気がしていた。なぜかって?それは判らない。でも、俺の脳量子波がそう思ったんだよ、たぶん。
「ガンプラバトル。俺たちと。俺たち、チーム組んだばっかりなんです」
「ああ、そうっすよ、池内さん」
 やっぱ玉ちゃんは良い奴だ、と俺は思った。安心して、背中を預けられる。駄目だったら、必ず知らせてくれたはずだ。玉ちゃんもやるべきだと思ってる。
「やりましょうよ」
「いいのかい」
 池内は俺たちよりも、有田君を見ていた。有田君は、ややうつむいて、その顔はうかがえない。やがて、有田君は、そのまま言う。
「僕らでよければ」
「いいのかい」
 池内は問い返す。有田君はすぐに答える。
「はい」
「じゃあ、水曜までに連絡する。チームの友人に連絡とりあわないといけない」
「チームIDは、前と同じかい?」
 店長が問う。池内は、ええ、と応じる。今は雑談くらいしかしてないんですが、と。
「わかった。彼らのチームの新しいIDを、送っておくよ」
「おねがいします」
「また、待ってるよ」
 はい、じゃあ、また、と言って池内は、店に入りもせずに、背を向ける。そのまま通りを歩いて行った。
 店長は、彼の背中を見送っている。それから息をついた。玉ちゃんも同じだ。むしろ黙ったままの有田君の方が心配だった。店にまだいたガキどもも、黙って俺たちを見ていた。
「ごめんな、勝手なことを言って。俺の中のアレルヤさんがヒャッハーして脳量子したみたいなんだ」
「いいんです」
 小さく有田君は応じる。横で玉ちゃんがうなずく。
「いいよ。あれでよかったんだよ。ホント脳量子波バリバリだった。あれでオッケー。でもさ、有田君、嫌だったら、今からでも辞めようぜ」
「そんなこと無いですよ」
 有田君は顔を上げる。いつもの、大人びて、大人びすぎて何を考えているのかも良くわからない、落ち着いた顔だ。むしろ、何か良くない気がする。問いただすだけ、その端正な顔の奥に響かなくなってゆくような。その横顔を見ながら、玉ちゃんは、小さくうなずく。
「じゃあ、とりあえず、来週対策か」
「さっきの作戦案でいいよな」
「はい」
 有田君はうなずく。俺が突込みと攪乱、玉ちゃんが壁役、狙撃が有田君。有田君が一機を落とせれば、あとは数を頼りにする。
「でもさ、俺、今のままじゃアリオス、使いきれない気がするんだよな」
「じゃあキュリオスにしなよ。そこにあるし」
 玉ちゃんが棚を指さす。俺は、キュリオスではなく、さらに隣の箱を手に取る。
「・・・・・・なるほど、武装か」
 俺の取った箱を見ながら、玉ちゃんはつぶやく。キュリオスではなくアストレアFだ。ボックスアートも武装てんこ盛りだ。そう。特徴は同梱の大量の武装パーツだ。シリーズ初期に出たキュリオスは、初期設定の武器しかない。それじゃ足りない。実はキュリオスの弱点は、武装がビームガンしかないことなんだ。連射が効くし、パワーもそこそこだけど、そこそこでしかないんだ。でも放映の途中で一度だけハンドミサイルを使っている。それが一基だけ、アストレアFに同梱されている。
「二個必要でしょ。もう一個買っちゃえよ」
「いいよ。買っていって」
 店長までが言って、はい、と二個目の箱を乗せる。 
「・・・・・いいけどさ。俺、アストレア嫌いじゃないし」
「キュリオスも好きだろ」
 重なった二箱の上に、玉ちゃんはさらにキュリオスを乗せる。
「ライフル二丁に、シールドも二個に出来る」
「おおう」
「機首のクリアパーツを二面にして、グラビカルアンテナも増やせば、プラフスキー粒子の出力量と、コントロール性が良くなるはずですし」
「ああ」
「アストレアの肩ランチャー、一つ、分けてもらってもいいですか」
 有田君の言葉に、俺はうなずくばかりだ。アストレアには、機体の肩に直接接合するタイプのランチャーも同梱されている。デカイ武器は、それだけパワーがあるのが、ガンプラバトルのルールだ。けれど、玉田が有田君を覗き込むように言う。
「俺、さ。ちょっとさ、案があるんだよ。有田君の機体、俺に作らせてくれないかな」
「いいんですか?」
「うまくゆくかどうか、わかんないから、来週になっちゃうんだけど。うまくいったら、俺が新機を持ってくる。有田君、この店にディナメス、預けてあるでしょ。だから俺が作れなくても最悪、そのデュナメスで」
 有田君は、玉ちゃんを静かに見つめている。それから少し俯いて答える。
「わかりました。玉田さんにお願いします」
「ありがと。ちょっと頑張ってみるわ」
「玉ちゃんが無理して倒れたら意味ないんだぜ?」
「そりゃ相馬ちゃんもいっしょだろ。相馬ちゃんは、キュリオスないとバトルができないんだぜ?」
「さ、最悪アリオスがあるし」
「アリオスだとバトルになんないかもしれないんじゃね?」
「お、おう。頑張るわ、俺」
「頼むわ。相馬ちゃんがいるから、俺たちはチームなんだ。それは有田君も同じだ」
「玉ちゃんもな。三人そろって、チームゼロフィンフだ」
「そうさ」
 玉ちゃんは言う。
「俺たちが、ガンダムだ」
 

チーム0・F・INF 助走5

2015-11-10 20:50:20 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 「いいですよ」
 有田君は、驚くほどあっさりとうなずいてくれた。
 地方大会のことだ。3人一組のチームで、店舗代表になって出場する、アレだ。いや、俺はそれ以外のことをほとんど知らなかったんだが。
「いいの?受験、あるでしょ」
 玉田が案じ顔で問う。有田君は答える。
「いまさら勉強したって、たかが知れてます。焦っても仕方ない時期です。だからストレス貯めすぎないようにしたいだけです」
 大人だ。ガキに交じってガンプラバトルに夢中になった挙句、地方大会に興味が出た俺は、うなだれるしかない。
「でも、ガンプラ、止められてるんでしょ?」
「ちがいます。止めてるんです。僕は意志が弱いから、逃避でなんとなく作ってしまわないように」
 大人だ。ものすごい大人だ。俺と玉田ちゃんで二人して、しゅんとしてしまうくらいだ。
「でも、なんで?受験も近いのに、俺らの遊びに付き合ってくれるなんて」
 俺がそう問い重ねると、有田君は、すこしはにかんだような笑みを浮かべた。
「だって、順番待ちの子のために、わざわざこんなところで時間つぶしをするなんて、いい人たちだから。だから、同じチームで、やれる気がして」
 なんという出来た子だろう。俺は心からウルウルし、人目と通報の危険さえなければ、有田君を抱きしめてしまいそうだった。まあ、そんなことをしたら玉田ちゃんに色々とネタにされそうだが、玉田ちゃんのほうも、俺と同じくらいウルウルした顔をしていた。
「ええこやな」
「ほんまええこや」
「僕、帰りますよ?」
「いや、待ってくれ」
 俺は引き止める。
「店長にエントリーフィーを提出してからにしてくれ」
 その店長の方は、少し驚き、続いて「そうか、じゃあ、僕も動かないとな」と言い出した。店の奥からクリアファイルを取り出してくる。
「紙申請なの?」
「いや、申請はこっちの端末でやってもらうんだけど」
 店長がクリアファイルから取り出して見せたのは、地方大会のポスターだった。RX-78、元祖のガンダムがシード撃ちしてる。
「おお」
 西東京地区連合主催、GPバトル西東京地方大会。
「ウチの店から、誰か出るって言い出したら、いちおう、公平のために貼っておかないとね」
 集まるガキどもは、すげー、かっちょえー、とか言っている。
「店の代表、一チームしか出られないんすか?」
「たぶん、大丈夫のはず。ただ推薦模型店みたいな形で、ウチの名前がくっついてゆくんだと思う。チーム何々、飯郷模型店推薦、みたいな」
 入口のサッシ窓にぺたぺたとポスターを貼った店長は、振り返って俺たちを見た。
「で、どうするの?チーム名」
「ソレスタルビーイング」
「駄目なんだよ」
「駄目です」
 店長と有田君の声が二つ重なる。作品系の頻出単語オンリーだと区別がつかなくなる。その場合は店の名前が後ろに強制的にくっつけられちゃうという。
「ソレスタルビーイング飯郷模型店」
「うう、なんか人類に平和が来たあと、暇になったライルがいそうだ」
「ライルの模型店。なんか、俺、その名前、激しく良い気がしてきた」
「お二人が良いなら、いいですよ」
 有田君がうなずく。
「駄目だ」
 俺は強くかぶりを振った。
「ロマンが無い」
「飯郷模型店にはロマンがあるだろう」
 珍しく店長が抗う。だが俺はかぶりを振る。
「必要なのは、俺の、俺たちのロマンです。俺たちのガンダムなんです」
「そうか。俺たちのガンダムか」
「そうだよ玉ちゃん。ゼロから始まる俺たちのガンダム」
「刹那から始まり聖永に至る」
 横目に見える店長は呆れ顔だ。けれど、有田君は違った。
「やりましょう。0からインフィニティへ」
「それだっ!0・F・infだ」
 刹那の名と同じだ。ゼロ・フロム・インフィニティ、
「決まった」
 おー、俺たちは盛り上がり、ガキどもが店内でぱちぱちと手を叩く。有田君は苦笑交じりの息をつく。文法的には全然違うんですが、と。それだと無限からのゼロなんですが、と。それでも有田君には、俺たちの気持ちが通じているらしい。見返してきて、笑みを見せる。
「だが、いいと思います。チーム・ゼロフィンフ」
「有田君、君とも気持ちが通じた気がしたよ」
「トランザムバーストだな」
「僕はちょっと自信が無いです」
 はっはっは、と店長が笑う。
「チーム戦用のガンプラだと、これまでとはちょっと仕様を変えないとね」
「お?商売人モード?売っちゃって売っちゃって。俺たち買っちゃうから」
「どんな戦術にするんです?」
 有田君が冷静に突っ込む。さすがは俺たちのチームのティエリア役だ。冷静だ。玉ちゃんが腕組みをする。
「一番信頼できるのが有田君だからな。有田君の狙撃能力を生かすチーム編成だろ」
「でも、それだと狙撃と相性の悪い敵には、手が出ません」
「狙撃に相性の悪い敵って?」
「高機動タイプ。重装甲タイプ」
「機動なら任せておけ」
 俺は胸を張る。アイハブコントロール。玉ちゃんは、ん~?それはどうかなあ、などと笑う。
「俺はセラヴィーで。これで重装甲タイプと、相馬ちゃんの高機動タイプがあるから、大抵の相手には対抗できるだろ」
「はい。それに、普通の敵なら、相馬さんが突っ込んで敵のフォーメーションを崩して、玉田さんが壁役、僕が一機削れば、残り二機の内の一機を数で囲める。勝算が立ちます」
「頭いいねえ、有田君」
「マジティエリア」
「普通じゃない敵には、玉田さんのセラヴィーのバーストモードで」
「お、メメントモリ戦だね」
「あれか。でもバトルだとトレミーが無いからな。GNアームズ、いっちゃう?」
「・・・・・・」
「むしろ俺らのジェットストリームアタックで」
「電池さん、今度は先頭で」
「・・・・・・」 
「電池言うな、電池」
「ん?どうしたの、有田君」
「・・・・・・」
 有田君は、動かずまっすぐに、店長の方を見ていた。
 正確には、店長の背後にある、さっき貼られたばかりのポスターの方だ。そこに影が差している。店長も振り返る。あ、と小さく声を上げる。
「やあ、久しぶり。元気だったかい」
 店長は言う。その先に立つ、男の影は、俺たちと、それから有田君とを見る。