おしょうしな日記 Thanks 101

科学・技術をわかりやすい言葉で解説。「おしょうしな」とは、山形おきたま弁で「ありがとう」の意味。

符号分割多重 聖徳太子の出現 -CDMAの原理(3)-

2007-07-11 22:22:02 | 科学・技術
聖徳太子は、10人が同時に話すのを聞き分けられたという。
凡人には無理なので、時分割で話してもらうしかないが・・

時分割多重
会議や、ミーティング、ホームルームなどで、当てられた人が順番に発言するようなもの。

周波数分割多重
女性と男性では、声の高さ、つまり周波数が異なるから聞き分けやすい。

方言分割多重
「ありがとう」と3人の人から同時に言われたら、聞き分けは、難しいが、「おしょうしな」、「ありがとう」、「おーきに」なら聞き分けられそうである。
山形弁、共通語、大阪弁が、符号分割多重の符号のようなものである。
置賜弁と庄内弁でも「〇〇だズ」と「△△でがんす」と、聞き分けはやさしい。
(わからない人は、スウィングガールズ、たそがれ清兵衛、隠し剣 鬼の爪などを見てほしい。)

日本語と、他の外国語の場合も、他の外国語は、雑音、ノイズにしか聞こえないが、日本語だけが、明瞭に聞き取れる。
逆に、外国人には、母国語が明瞭に聞き取れ、日本語はノイズであろう。これなど、まさに符号分割多重(CDMA)、スペクトラム拡散といったところである。

実は、携帯電話は、デジタル信号を聞き分ける現代の聖徳太子なのであった。

携帯電話では、基地局から送られてくる信号は、エリア内(特定の圏内、セル内)の複数人が、まったく同じ信号を受ける。
しかし、各人が異なる拡散コードで逆拡散するため、自分宛のメッセージ、メールや音声をあぶりだすことができるのである。

たとえば、携帯電話で、
+2, 0,-2, 0, 0,+2
を受信した、おつうさんと、亀ハメハ大王の二人は、まったく、異なるメッセージを読み取るのである。
おつうさんは、+1,-1,-1 と、読み取り、亀ハメハ大王は、+1,-1,-1 と読み取るのである。

その原理は、と言うと、

直交鶴亀変換表を思い出してほしい。
x, y
[+1,+1] a
[+1,-1] b

鶴太郎が,おつうさんへ,送るメッセージを
+1,-1,+1

亀次郎が,亀ハメハ大王へ,送るメッセージを
+1,-1,-1
とする。(それぞれ、3回、頭の数信号を送るとする。)

鶴太郎の拡散コードは、[+1,+1] 、亀次郎の拡散コードは、[+1,-1] である。
(上記鶴亀変換表の x 列、と y 列 を縦に読んだもの。)

この拡散コードを掛けるということは、
鶴太郎が +1 を送る際は、+1,+1 を、,-1 を送る際は、-1,-1 に変換することを意味し、
+1,-1,+1 は、+1,+1 -1,-1 +1,+1 に変換(拡散)される。

亀次郎が +1 を送る際は、+1,-1 を、,-1 を送る際は、-1,+1 に変換することを意味し、
+1,-1,-1 は、+1,-1 -1,+1 -1,+1 に変換(拡散)される。

そして、上記拡散後の信号を足すことによって、信号 a,b となる。
+1,+1 -1,-1 +1,+1 と
+1,-1 -1,+1 -1,+1 を足して、
+2, 0,-2, 0, 0,+2 となる。 (これは、頭、足、頭、足、頭、足に相当する。)

この頭足信号が電波となって送信される。

そして、鶴のおつうさんと、亀ハメハ大王は、それぞれ、+2, 0,-2, 0, 0,+2 を受信する。

おつうさん は、鶴太郎の拡散コード、[+1,+1] を受信信号に掛け算する。頭、足の組が3つ送られてきたので、3回かける。
この場合は、+1,+1 を掛けているので、
+2, 0,-2, 0, 0,+2 は、
+2, 0,-2, 0, 0,+2 のままで、そして、頭、足の組ごと、つまり2つずつの信号を足し算して、

+2,-2,+2 を得る。これを2で割って、鶴太郎が送った、頭、頭、頭信号である +1,-1,+1 を受信するのである。

亀ハメハ大王は、
+2, 0,-2, 0, 0,+2 に,亀次郎の逆拡散コード +1,-1 を、頭、足の組み合わせに掛けて、つまり、
+1,-1 +1,-1 +1,-1 をかけ算して,

+2, 0,-2, 0, 0,-2 を得る、そして、頭、足の組、つまり2つの信号ごとに,加算して,
+2,-2,-2 を得る。これを2で割って、
+1,-1,-1 が得られるのある。

鶴亀多重 -CDMAの原理(1)-
直交鶴亀算 -CDMAの原理(2)-

参考文献
「エレクトロニクスライフ」1994年1月号 NHK出版(ディジタル変調,デジタル変調,符号分割多重方式,CDM,アダマール変換、デジタル多重放送の原理)

「物理数学の直観的方法」 長沼伸一郎 著(フーリエ級数・フーリエ変換、直交)
「携帯電話はなぜつながるのか」 中嶋信生、有田武美 著 日経BP社 (CDMA,聖徳太子、方言、東北弁)


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9 コメント

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アナロジー (mkonomi)
2007-07-11 23:04:16
CDMAの原理(1)(2)(3)でのいろいろなアナロジーを駆使しての説明、とても面白いですね。
この分野に詳しくない方もよく理解できるのではないでしょうか。
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アナロジー (nori)
2007-07-16 16:15:32
おしょうしなっし。(ありがとうございます。)
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判別の原理がよく分かりました (蓬莱の島通信ブログ別館)
2007-07-24 21:22:59
携帯電話の相手の識別はもちろん、私達が聞いていることばでの相手の識別にもさまざまな原理が働いていることがよく分かります。どれも基本的には、2値でできているようなデータが使われているのもおもしろいですね。
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更に勉強するには? (gamow)
2008-05-06 16:44:41
CDMA興味を持ちました。この原理を更に、詳しく例えば行列等を使って、解り易く説明している本、HPがありましたら教えて下さい。
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分かりやすい本 (nori)
2008-05-11 14:30:25
上記の本文中にも書きましたが、下記の2冊が分かりやすいです。

「エレクトロニクスライフ」1994年1月号 NHK出版 
(これは、月刊誌ですが、既に廃刊になったので、図書館でみるしかないと思います。)

「携帯電話はなぜつながるのか」 中嶋信生、有田武美 著 日経BP社 
(この本は、書店で手に入ります。)
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確認 (knob)
2008-06-19 20:03:49
下記部分で、亀次郎と鶴太郎は逆ではないでしょうか??

*************************
亀次郎が +1 を送る際は、+1,+1 を、,-1 を送る際は、-1,-1 に変換することを意味し、
+1,-1,+1 は、+1,+1 -1,-1 +1,+1 に変換(拡散)される。

鶴太郎が +1 を送る際は、+1,-1 を、,-1 を送る際は、-1,+1 に変換することを意味し、
+1,-1,-1 は、+1,-1 -1,+1 -1,+1 に変換(拡散)される。
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Re:確認 (nori)
2008-08-27 22:36:26
ご指摘いただきおしょうしな(ありがとうございました)。

ご指摘のとおり「亀次郎」と「鶴太郎」の記載が逆ですので、
修正いたしました。
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感謝 (chochan)
2009-06-30 14:39:10
非常に判りやすい解説に感謝します。
目から鱗が落ちた思いです。
以下に誤記と思われるところありました。
ご確認下さい。
CDMAの原理(3)の中で、「たとえば、携帯電話で・・・おつうさんは+1,-1,-1と読み取り・・・」と記述されていますが、+1,-1,+1と思われます。
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CDMA (nori)
2009-12-05 01:07:20
chochanさんへ

ご指摘いただきおしょうしな。ありがとうございます。

自分で書いておきながら、すぐには思い出せないので、後ほど確認してみます。
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