伯父の戦記_25_まえがき

　前回の稿で予告した「伯父の戦記」の再開です。
　伯父が書いた手記は２８編があると書きましたが、その他に「前書き」もありました。この前書きは２８編に記された内容を類推できるものにもなっているようです。そして、文末には伯父が自分の文章を書いた意味合いも記されています。
　私のブログでは、伯父の戦記の各編とも文章量が多いため、一編を数回に分割して掲載していましたが、今回は全文を掲載します。
　このブログを初めてご覧になった方、もしくは「伯父の戦記」を初めてご覧になった方は、よろしければ下記のリンクページ、又は左のモジュールにあるカテゴリー欄の「伯父の戦記」をクリックしていただき、過去に掲載した編もご覧いただければ幸いです。
　リンクページ→「伯父の戦記」過去掲載分

********************************************************

　まえがき

　私は今時大戦（第二次世界大戦）中、昭和17年1月10日から終戦の翌年21年5月末日までの国家存亡の折りに、弱冠20才～25才の青春時代を忠誠心に燃え、一兵士として激斗続く太平洋を北から南にと広範囲に行動し、ミッドウェイ作戦、アリューシャン作戦、第二次ソロモン海戦、南太平洋海戦、そして17年11月13～14日にはあの有名なる島、ガダルカナル島の湾口において、世界海戦史上類をみない敵味方艦艇相入り乱れての舷々相撃つ激烈なる海戦（肉薄戦）、すなわち第三次ソロモン海戦を経験し、近代海戦の恐ろしさを痛烈な思いで体験した。

　又あの時は灼熱の南の島において数多くの苛烈にして悲愴なる戦斗に参加、戦爆連合100機以上の敵機との対空戦斗の数々に始まり、大型機50機からなる連日連夜、正に九死に一生の戦斗の毎日を、中でも19年3月には敵機動部隊（戦艦4隻、駆逐艦9隻）からなる艦砲射撃3時間45分と云う長時間に渡る猛砲撃を受け、これがために我が駐屯地カビエンの地形は大きく変貌した。この時は本当に玉砕とも覚悟したものであった。

　19年に入る頃には制海制空権共に敵の手中となり、補給ルートも完全に断たれ孤立の島となり、食料弾薬そして医薬品迄が欠乏し、昼尚暗いジャングルの中で人間としての生かされる限界を超越した、精も根もつきた壮絶悲惨とも云うべき生活、飢餓と病魔に悩まされる苦しみが終戦まで強いられたのである。
　そこに見る惨状は明けても暮れても地獄図である。食糧もなく薬もない現況では重症患者の殆どは哀れにも日増しに痩せ衰え、骨と皮ばかりとなり狂い死にし、又或る者は生命の限界を知り自ら死を選び、ジャングルの奥深く一人淋しく姿を消して行く。こうした私達の防備するカビエン地区は日毎に地獄の島と化していった。
　もしこの戦争があと1年或いは半年も続いていたならば、我々はもちろんのこと、南方前線の数万と云う日本軍は戦わずしてジャングルの奥深く追われ、飢餓と病魔にもがき苦しみ、あの夢にまで見た祖国日本（父母兄弟）に帰る事も出来ず、この地獄の島において哀れにも淋しく草むす屍となり、蛆虫共の餌食となり白骨化となっていたであろう。

　私がこの度こうした戦争体験記を綴るに当たり苦労した事と云えば、40数年前の記憶を辿りペンを手にしたものの文才のない私が綴る文章は、何かまとまりがなく支離滅裂になってしまい、何時も中途で挫折の繰り返しでした。しかしあるとき私は、私は私なりに文章の上手下手は問題にせず、大切な事はあく迄も真実の体験を飾ることなく正直に書けば良いという結論に達したからである。

　私は戦争を好む者ではありません。唯々戦争の恐ろしさ、醜さ、残酷にして悲惨な戦いの一端をここに紹介し、戦争を知らない世代の人々に良く御理解頂き二度と再び無意味な戦争をなくし、一日も早く平和な世界が到来するよう努力して頂く事が目的であり、又心から祈念するからです。
　今日のこの輝かしい日本の発展と平和が存在しているのも、顧みればこの激動の時代、国の安泰を祈りつつ各地に於いて雄々しく戦い散っていった数多くの尊い犠牲があった事を忘れないで欲しいからです。
　今尚遠く海に島に空に散華し、水漬く屍、草むす屍と化し、国の安泰を気遣い散って行かれた英霊に対し、私達日本民族は心から御冥福を祈りたいと思います。

　戦後さまざまな戦史戦記ものが出版されておりますが、ここに綴る体験記はあくまでも私の身辺に起きた数々の生と死の記録です。従って文章にも題名こそあれ、繋がりはなく断片的に綴られた点御諒承頂ければ幸いです。

******************************************************************