のどかなケイバ

一口馬主やってます

女神「宇宙人受難之碑」5

2017-07-29 13:48:01 | 小説
 ふもとです。滑り落ちてきた男の身体がようやく止まりました。男は完全にグロッキー状態です。顔がひどく腫れあがってます。女神隊員がその男の前に立ちはだかりました。女神隊員は右手を高く挙げました。するとその手に剣が現れました。女神隊員は両手で剣を握り、振り上げました。男の顔面に剣を突き立てる気です。
「いいぞ、ヘルメットレディ!」
「やれーっ! やっちまえーっ!」
「エイリアンなんか、ぶち殺しちまえーっ!」
 いつのまにか集まってきた人々が大声で叫んでます。それはさっきの子どもたちとは真逆な声でした。その声が気になってしまい、女神隊員は手を止めました。彼女は何か疑問を持ったようです。今私がやってる行為は、テレストリアルガードの隊員として正しい行為なのか?
「な、なんだよ! エイリアンなんか斬り刻んじまえよーっ!」
 その憎悪に満ちた言葉を聞いて、女神隊員は振り向き、その言葉を発した男をにらみつけました。ま、女神隊員はフルフェイスのヘルメットを被ってます。そのせいで外から眼がみえません。にらみつけたところで、あまり意味がないのですが。
 女神隊員は考えました。女神隊員の今日の目的は、ヘルメットを脱いで自分の顔をさらすこと。自分の顔をさらして、5000の同胞の名誉を回復させることでした。でも、こんなに憎悪に満ちたやつらに自分の素顔を見せたら、今度は自分が憎悪の対象になってしまいます。
 女神隊員はすべてを諦めました。すると剣が粒子単位で砕け散り、消失しました。次の瞬間、女神隊員の姿そのものが消えてしまいました。さっきまで声援を送ってた人々はびっくりです。
「お、おい、どこいっちまったんだよ?」

 強い夕陽の中、女神隊員が縮小・等身化して路地に降り立ちました。女神隊員は今ひどい自己嫌悪に襲われてます。今日私はみんなに顔をさらす覚悟でここに来たのに、できませんでした。やっぱり私は弱い存在なんだ・・・
 女神隊員はヘルメットを脱ぎました。そしてそのヘルメットを思いきりアスファルトに叩きつけました。あらわになったその単眼は泣いてました。思いっきり泣いてました。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
 突然のその言葉に女神隊員ははっとし、振り返りました。そこには5歳くらいの女の子が立ってました。女神隊員は何かを言いました。が、女の子の頭の上には?が浮いてます。そう、女神隊員は自動翻訳機がないとこの星の人とは会話できないのです。女神隊員は慌ててヘルメットを拾い上げ、かぶりました。
「ご、ごめんなさい」
「お姉ちゃんはヘルメットレディ?」
「うん、そうだよ」
「うわ~ かっこいい~」
「でも、私は宇宙人なんだ。見たでしょ。私の眼は1個しかないんだよ。
 あなたは宇宙人が嫌い?」
「うん、嫌い。でも、お姉ちゃんは違うよ。お姉ちゃんは私たちのために戦ってくれてるもん」
「あ、ありがと・・・」
 女神隊員はその言葉に、何か救われたような感覚を覚えました。

 ここは病室のようです。どうやら女神隊員がテレストリアルガードの隊員になったとき、最初に居室として与えられた無菌室のようです。今ベッドに1人の男が寝かされてます。女神隊員にズタボロにされた男です。今は縮小・等身化してます。男の周りにはたくさんの医療器具がおいてあります。男の左眼の下に貼られたガーゼがとても痛々しく見えます。
「う、うう・・・」
 男が意識を回復させたようです。目の前には白衣の男が立ってます。
「ん、意識が回復したな」
 白衣の男は歩き始めました。
「じゃ、あとは勝手に」
 白衣の男はドアを開け、出て行きました。患者の男はふと別の人影を感じ、今度は反対方向を見ました。その人影はフルフェイスのヘルメットをかぶった女神隊員でした。男は女神隊員を見て微笑みました。それを見て女神隊員は驚きました。この男は私を見たらきっとおじけづくと想像してたからです。
 女神隊員はヘルメットを脱ぎました。そして頭に小さなヘッドセットを装着しました。
「ごめんなさい」
 そう言うと女神隊員は頭を大きく下げました。ずーっとずーっとずーっと頭を下げてます。男は困った顔をして頭を横に振りました。「違う違う」と言ってるようです。でも、女神隊員はまだ頭を下げています。
 この部屋の一面全面にはガラスがはめ込んであり、その向こうには隊長と橋本隊員と海老名隊員の姿があります。隊長は海老名隊員に、
「お前も行って、謝ってこい」
「ええ~、私はあの人に脅迫されて、仕方なくやったんですよ~」
「ともかく行って謝ってこい、これは命令だ!」
「は~い」
 海老名隊員は部屋を出て行きました。そして無菌室の中に入って行きました。
 女神隊員はようやく頭を上げました。隊長はその単眼を見て、
「これじゃ、どっちが凶悪な宇宙人なのか、わからんな」
 橋本隊員の質問です。
「あの男、どうします?」
「とりあえず、うちの隊員にするか。その状態でじょんのび家族に出向するという形に」
「そんなことできるんですか?」
「大丈夫、テレストリアルガードはなんでもありだ」
「いやぁ、それもそうなんですが・・・ 彼はじょんのび家族に帰れるんですか? もう宇宙人てことがバレちゃってますよ」
「あは、そっか。めんどくさいなあ、日本て」
 なお、隊長は女神隊員に7日間の謹慎を命じました。具体的には7日間サブオペレーションルーム立ち入り禁止です。ただし、この処分には別の意味もあるようです。

 翌朝です。隊長がサブオペレーションルームで固定電話に出てます。
「あ、ああ、あ~そうか・・・ わかったよ、ありがとう」
 隊長は電話を切りました。寒川隊員がマグカップに入ったコーヒーを持ってきました。
「はい、コーヒーです」
 隊長はその寒川隊員を見て、
「あいつ、釈放だってよ」
「あいつって、昨日写真を流出させたやつですか?」
「ああ、例の写真は誰にでもふつーに見られる状態になってたんだそうだ。まあ、早い話、自衛隊のミスだったらしい」
「なんか納得いきませんねぇ・・・」
「まぁ、しょうがないのかなぁ・・・」
 けど、隊長の顔は不自然に笑顔です。何か企みがあるようです。

 朝の陽光の中、1台のパトカーが2階建て木造アパートの前に停まりました。その後部座席が開き、昨日逮捕された例のブサメンが降りてきました。
「けっ!」
 パトカーが走り去りました。ブサメンはそのパトカーに罵詈雑言を浴びせまたし。
「全部ネットに書くからな、覚えてろよ!」
 ブサメンは振り返りアパートの外部階段の手すりに手を掛けました。と、その真後ろに男が立ってます。黒いフードをかぶった黒装束の男です。ブサメンはそれに気づいたらしく、さっと振り返りました。
「ん?」
 が、誰もいません。
「おかしいなあ?・・・」
 ブサメンは階段を昇って行きました。


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