しかし、次の日もその次の日も、やつらの突然死のニュースはなかった。おかしいなあ。もしや未成年てことで、ニュースにしてないのかも。
が、3日目の夕方、オレがアパートに帰ってくると、意外なものがアパートの階段の前で待っていた。女万引きGメンと、あのとき万引きをした方の男子高校生が立っていたのだ。おいおい、あのノートに名前を書き込んでも何も起きないのか? あは、なんだ・・・
しかし、こいつ、なんでここにいるんだ?
「久しぶり」
彼女が声をかけてきた。オレも何か返事しないと。
「どうしたんですか?」
「この子、昨日警察に出頭してきたのよ」
女は高校生を見てこう言った。
「あなた、この人に何か言うことあるんでしょ」
すると万引き犯の男子高校生は素直に頭を下げた。
「ご、ごめんなさい」
おいおい… ま、こんなところで立ち話もなんだ。オレたち3人は近くの喫茶店に行くことにした。
喫茶店で聞いた話だと、最初は2人で逃げてたが、万引き犯の方は怖くなってすぐに離脱したとか。で、警察に出頭したようだ。万引き犯とはいえ、万引きGメンに危害を加えてないし、なにより未成年者。警察は調書を取って、とりあえず帰宅させたようだ。
さらに万引き犯は、父親とうまくいってないとか、母親とは離婚して離れ離れになったとかうだうだと言ってたが、オレにとっちゃあ、ちっとも楽しい話じゃなかった。もう飽きたよって感じ。
ただ、こいつ、悪い奴じゃなさそうだ。悪いのはもう1人の方か? いや、もう1人の方も案外いいやつかも。オレはなんでこいつらをデ×××トで殺そうとしたんだ? オレってやっぱそうとうバカだったんだ。あはは・・・
と、その瞬間、オレはふと変な感覚に襲われた。周りのすべてのものが一斉に止まったのだ。どうやら時間が停止したようだ。動いてるのはオレだけ。オレは焦った。これってやっぱあいつのせいか?
「ノート、返してよ!」
その声は真後ろからだった。立ち上がって振り返ると、思った通りにやつはいた。オレが最初に出会った死神だ。やっぱりこいつか。かわいい死神はなんか悲しい眼をしていた。とりあえず話しかけてみるか。
「お久しぶり」
「ふざけないで! もう、あなたのせいで地球の裏側に飛ばされたのよ!」
おいおい、あの呪文にそんな効果があったのかよ。
「ねぇ、ノート返してよ!」
ノート・・・ あれはデ×××トじゃなかった。もう返してもいいかな?
いや、あのノートには死神を追っ払うという効果があるし、それ以前に死神を可視化できるという効果がある。あれはいろいろと有用だ。そう簡単に返すかよ。軽くあしらってやるか。
「あれはもうないよ。捨てちまったよ」
「ふざけないでよ、そのカバンの中に入ってるんでしょ!」
そのカバンとは、オレが会社訪問のときに持っていくカバンのことである。もちろん今も持ってる。あのノートを拾って以来、このカバンの中に常時入れて肌身離さず持ち歩いてたのだ。つまり、こいつの言ってることはビンゴなのだ。
しかし、こいつ、なんでこんなに血眼になってるんだ? ただのノートなんだろ。ちと理由を訊いてやるか。
「これ、ただのノートだろ? なんでそんなに必至なんだよ。代わりのもの、くれないのか?」
「代わりのものなんかないわよ。1人1冊て決まってんの!
本部から近々死ぬ人の名前がそのノートに転送されてくるの。それがないと私たち死神は仕事ができなくなるのよ!」
「なくすとペナルティがあるのか?」
「あるわよ。それをなくすと、私たちは人間にされちゃうのよ!」
それを聞いてオレは思わずプッと噴き出してしまった。それを見てやつがカッとした。
「何がおかしいのよ!」
「だって人間だろ。いいじゃん、人間て。素晴らしいぞ!」
「バカ言わないでよ! 私はこう見えても500歳を超えてんのよ! 人間になったらせいぜい80歳しか生きられないんでしょ? そんなの私、絶対嫌よ!」
ええ、こいつ、戦国時代から生きてんのかよ? う~ん、それじゃ、嫌だろうなあ・・・
でも、正直こいつがどうなろうと、オレにはまったく関係のない話だ。いや、いっそうのこと人間になって、オレの妹になってみないか? 死神だったらいまいちかわいくないが、妹になったら案外とかわいかも。
ああ、なんかめんどくさくなってきたぞ。一気に吹き飛ばしてやるか!
「パンプルピンプルパムポップン!」
かわいい死神はその呪文を聞いてびっくりしたようだ。唇が「なぜ?」と言ってるようにも見えた。が、それはほんの一瞬の出来事。かわいい死神はぱっと消えてしまった。と同時に、時間が再び動き出した。
「あれ、なんで立ってるの?」
女万引きGメンは座ったまま、びっくりしてた。そりゃそうだ。時間が止まったときオレは彼女の目の前に座ってたのに、今は立ち上がってるんだから。
帰りの時間になった。オレたち3人は喫茶店の外に出た。と、男子高校生はオレに向かって再び深々と頭を下げた。
「いろいろとご迷惑をかけて、すみませんでした」
謝ってもらえるのは嬉しいけど、別にそこまで腰を低くすることはないだろって。だいたいオレはあんたから何も被害を受けてないよ。こいつ、本当にいいヤツだな。
オレたち3人は、それぞれ別の方に向かって歩き出した。が、次の瞬間、とんでもない異変が起きた。1つの人影が飛び出し、男子高校生に当身を喰らわしたのだ。そいつは男万引きGメンに凶刃を振るった男子高校生だった。あのときとまったく同じ、男子高校生をナイフで刺したのだ。男子高校生の声にならない悲鳴が響いた。
「うぐぁっ!」
「おまえ、1人で何いい子になってんだよ」
刺した高校生がそういうと、刺された男子高校生の身体が崩れ落ちた。
「おい、何やってんだ!」
オレは反射的にそいつに向かって駆けだした。
「おっと!」
刺した男子高校生は、今度はオレに向かってナイフを振り上げた。オレは急停止。ぎりぎりでなんとかナイフを交わした。次の瞬間、刺した男子高校生は逃げ出した。くそーっ、あいつは根っからの悪党だったのかよ!
「ねぇ、しっかりして! しっかりしてよ!」
それは女万引きGメンの声だ。振り返ると彼女は男子高校生の半身を抱きかかえていた。激しい出血だ。オレはすぐさまスマホを取り出し、119番した。
が、救急車はなかなか来なかった。時間がやたら長く感じた。男子高校生はかなり苦しそうだった。オレはなんとかしたかったが、こんなときのオレは、やはり無力だった。ただ見てるしかなかった。男子高校生を励ます女万引きGメンの声が、いつしか涙声に変わっていた。
やっと、やっと救急車が来た。救急隊員が男子高校生の身体を救急車に乗せた。一刻を争う大ケガだ。救急車はすぐに出発した。
オレも救急車に同乗した。女万引きGメンも救急車に乗りたかったようたが、警察の事情聴取があるから残ることにした。本当だったらオレが事情聴取に応じるべきだったのかもしれないが、オレは見てはいけないものを見てしまったのだ。男子高校生がストレッチャーに乗せられるとき、その頭に死神が立っていたのだ。こいつは一大事だ。なんとかとしないと、こいつは死んでしまう。彼女に頼みこんで、オレが救急車に同乗することにした。
救急車の中、男子高校生はさらに苦しくなっていた。きえぎえに唸り声をあげていた。その頭の上には、相も変わらず死神が立っていた。やっぱりボンテージルックのかわいくって幼い女の子だ。
オレは最初に出会った死神の言葉を思い出した。
「もし死ぬ間際だったら枕元に立つ。死んだら魂が抜け出すから、すぐさま回収できるように枕元に立つの。こうなったらもうおしまい。誰にでも邪魔することはできないわ」
その話がもし本当なら、こいつはもうおしまいなのか? くっそーっ、なんとかならないのかよ~ ちと死神に事情を話して許してもらおうか?・・・ いや、そんなことで動く死神じゃないだろって。ああ、何かいい手はないのか?
いや、もしかしたらこんな状況下でもあの魔法の呪文を唱えたら、この死神は消えるんじゃないのか? ええーい、どうせ死ぬんだ。やっちまえ!
オレは呪文を唱えることにした。ちょっと・・・ いや、かなり恥ずかしい呪文だが、救急隊員の眼なんか、今はなんにも怖くないぞ。よし!
「パンプルピンプルパムポップン! ピンプルパンプルパムポップン!」
思いきってその呪文を唱えると、死神は「えっ?」とした表情を見せ、次の瞬間パッと消えた。やった、大成功だ! なんだよ、なんの問題もなくパッと消えたじゃんかよ! あいつ、ウソつきやがって!
救急隊員たちは冷ややかな眼でオレに視線を浴びせたが、次の瞬間、それ以上の驚愕が起きた。なんと瀕死の男子高校生が眼を醒ましたのだ。その表情は何事もなかったように晴れ晴れとしていた。
「あれ、なんでオレ、こんなところにいるんだ?」
どうやら何が起きたのか、ぜんぜん覚えてないらしい。ともかく彼は救われた。よかった、よかった。
が、3日目の夕方、オレがアパートに帰ってくると、意外なものがアパートの階段の前で待っていた。女万引きGメンと、あのとき万引きをした方の男子高校生が立っていたのだ。おいおい、あのノートに名前を書き込んでも何も起きないのか? あは、なんだ・・・
しかし、こいつ、なんでここにいるんだ?
「久しぶり」
彼女が声をかけてきた。オレも何か返事しないと。
「どうしたんですか?」
「この子、昨日警察に出頭してきたのよ」
女は高校生を見てこう言った。
「あなた、この人に何か言うことあるんでしょ」
すると万引き犯の男子高校生は素直に頭を下げた。
「ご、ごめんなさい」
おいおい… ま、こんなところで立ち話もなんだ。オレたち3人は近くの喫茶店に行くことにした。
喫茶店で聞いた話だと、最初は2人で逃げてたが、万引き犯の方は怖くなってすぐに離脱したとか。で、警察に出頭したようだ。万引き犯とはいえ、万引きGメンに危害を加えてないし、なにより未成年者。警察は調書を取って、とりあえず帰宅させたようだ。
さらに万引き犯は、父親とうまくいってないとか、母親とは離婚して離れ離れになったとかうだうだと言ってたが、オレにとっちゃあ、ちっとも楽しい話じゃなかった。もう飽きたよって感じ。
ただ、こいつ、悪い奴じゃなさそうだ。悪いのはもう1人の方か? いや、もう1人の方も案外いいやつかも。オレはなんでこいつらをデ×××トで殺そうとしたんだ? オレってやっぱそうとうバカだったんだ。あはは・・・
と、その瞬間、オレはふと変な感覚に襲われた。周りのすべてのものが一斉に止まったのだ。どうやら時間が停止したようだ。動いてるのはオレだけ。オレは焦った。これってやっぱあいつのせいか?
「ノート、返してよ!」
その声は真後ろからだった。立ち上がって振り返ると、思った通りにやつはいた。オレが最初に出会った死神だ。やっぱりこいつか。かわいい死神はなんか悲しい眼をしていた。とりあえず話しかけてみるか。
「お久しぶり」
「ふざけないで! もう、あなたのせいで地球の裏側に飛ばされたのよ!」
おいおい、あの呪文にそんな効果があったのかよ。
「ねぇ、ノート返してよ!」
ノート・・・ あれはデ×××トじゃなかった。もう返してもいいかな?
いや、あのノートには死神を追っ払うという効果があるし、それ以前に死神を可視化できるという効果がある。あれはいろいろと有用だ。そう簡単に返すかよ。軽くあしらってやるか。
「あれはもうないよ。捨てちまったよ」
「ふざけないでよ、そのカバンの中に入ってるんでしょ!」
そのカバンとは、オレが会社訪問のときに持っていくカバンのことである。もちろん今も持ってる。あのノートを拾って以来、このカバンの中に常時入れて肌身離さず持ち歩いてたのだ。つまり、こいつの言ってることはビンゴなのだ。
しかし、こいつ、なんでこんなに血眼になってるんだ? ただのノートなんだろ。ちと理由を訊いてやるか。
「これ、ただのノートだろ? なんでそんなに必至なんだよ。代わりのもの、くれないのか?」
「代わりのものなんかないわよ。1人1冊て決まってんの!
本部から近々死ぬ人の名前がそのノートに転送されてくるの。それがないと私たち死神は仕事ができなくなるのよ!」
「なくすとペナルティがあるのか?」
「あるわよ。それをなくすと、私たちは人間にされちゃうのよ!」
それを聞いてオレは思わずプッと噴き出してしまった。それを見てやつがカッとした。
「何がおかしいのよ!」
「だって人間だろ。いいじゃん、人間て。素晴らしいぞ!」
「バカ言わないでよ! 私はこう見えても500歳を超えてんのよ! 人間になったらせいぜい80歳しか生きられないんでしょ? そんなの私、絶対嫌よ!」
ええ、こいつ、戦国時代から生きてんのかよ? う~ん、それじゃ、嫌だろうなあ・・・
でも、正直こいつがどうなろうと、オレにはまったく関係のない話だ。いや、いっそうのこと人間になって、オレの妹になってみないか? 死神だったらいまいちかわいくないが、妹になったら案外とかわいかも。
ああ、なんかめんどくさくなってきたぞ。一気に吹き飛ばしてやるか!
「パンプルピンプルパムポップン!」
かわいい死神はその呪文を聞いてびっくりしたようだ。唇が「なぜ?」と言ってるようにも見えた。が、それはほんの一瞬の出来事。かわいい死神はぱっと消えてしまった。と同時に、時間が再び動き出した。
「あれ、なんで立ってるの?」
女万引きGメンは座ったまま、びっくりしてた。そりゃそうだ。時間が止まったときオレは彼女の目の前に座ってたのに、今は立ち上がってるんだから。
帰りの時間になった。オレたち3人は喫茶店の外に出た。と、男子高校生はオレに向かって再び深々と頭を下げた。
「いろいろとご迷惑をかけて、すみませんでした」
謝ってもらえるのは嬉しいけど、別にそこまで腰を低くすることはないだろって。だいたいオレはあんたから何も被害を受けてないよ。こいつ、本当にいいヤツだな。
オレたち3人は、それぞれ別の方に向かって歩き出した。が、次の瞬間、とんでもない異変が起きた。1つの人影が飛び出し、男子高校生に当身を喰らわしたのだ。そいつは男万引きGメンに凶刃を振るった男子高校生だった。あのときとまったく同じ、男子高校生をナイフで刺したのだ。男子高校生の声にならない悲鳴が響いた。
「うぐぁっ!」
「おまえ、1人で何いい子になってんだよ」
刺した高校生がそういうと、刺された男子高校生の身体が崩れ落ちた。
「おい、何やってんだ!」
オレは反射的にそいつに向かって駆けだした。
「おっと!」
刺した男子高校生は、今度はオレに向かってナイフを振り上げた。オレは急停止。ぎりぎりでなんとかナイフを交わした。次の瞬間、刺した男子高校生は逃げ出した。くそーっ、あいつは根っからの悪党だったのかよ!
「ねぇ、しっかりして! しっかりしてよ!」
それは女万引きGメンの声だ。振り返ると彼女は男子高校生の半身を抱きかかえていた。激しい出血だ。オレはすぐさまスマホを取り出し、119番した。
が、救急車はなかなか来なかった。時間がやたら長く感じた。男子高校生はかなり苦しそうだった。オレはなんとかしたかったが、こんなときのオレは、やはり無力だった。ただ見てるしかなかった。男子高校生を励ます女万引きGメンの声が、いつしか涙声に変わっていた。
やっと、やっと救急車が来た。救急隊員が男子高校生の身体を救急車に乗せた。一刻を争う大ケガだ。救急車はすぐに出発した。
オレも救急車に同乗した。女万引きGメンも救急車に乗りたかったようたが、警察の事情聴取があるから残ることにした。本当だったらオレが事情聴取に応じるべきだったのかもしれないが、オレは見てはいけないものを見てしまったのだ。男子高校生がストレッチャーに乗せられるとき、その頭に死神が立っていたのだ。こいつは一大事だ。なんとかとしないと、こいつは死んでしまう。彼女に頼みこんで、オレが救急車に同乗することにした。
救急車の中、男子高校生はさらに苦しくなっていた。きえぎえに唸り声をあげていた。その頭の上には、相も変わらず死神が立っていた。やっぱりボンテージルックのかわいくって幼い女の子だ。
オレは最初に出会った死神の言葉を思い出した。
「もし死ぬ間際だったら枕元に立つ。死んだら魂が抜け出すから、すぐさま回収できるように枕元に立つの。こうなったらもうおしまい。誰にでも邪魔することはできないわ」
その話がもし本当なら、こいつはもうおしまいなのか? くっそーっ、なんとかならないのかよ~ ちと死神に事情を話して許してもらおうか?・・・ いや、そんなことで動く死神じゃないだろって。ああ、何かいい手はないのか?
いや、もしかしたらこんな状況下でもあの魔法の呪文を唱えたら、この死神は消えるんじゃないのか? ええーい、どうせ死ぬんだ。やっちまえ!
オレは呪文を唱えることにした。ちょっと・・・ いや、かなり恥ずかしい呪文だが、救急隊員の眼なんか、今はなんにも怖くないぞ。よし!
「パンプルピンプルパムポップン! ピンプルパンプルパムポップン!」
思いきってその呪文を唱えると、死神は「えっ?」とした表情を見せ、次の瞬間パッと消えた。やった、大成功だ! なんだよ、なんの問題もなくパッと消えたじゃんかよ! あいつ、ウソつきやがって!
救急隊員たちは冷ややかな眼でオレに視線を浴びせたが、次の瞬間、それ以上の驚愕が起きた。なんと瀕死の男子高校生が眼を醒ましたのだ。その表情は何事もなかったように晴れ晴れとしていた。
「あれ、なんでオレ、こんなところにいるんだ?」
どうやら何が起きたのか、ぜんぜん覚えてないらしい。ともかく彼は救われた。よかった、よかった。