【時事(爺)放論】岳道茶房

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郵政見直し、首相は指導力を発揮したのか?

2010年04月04日 | 情報一般
田原総一朗の政財界「ここだけの話」
郵政見直し、首相は指導力を発揮したのか?

 3月28日、「サンデープロジェクト」(テレビ朝日)の最終回に全党の党首(民主党は菅直人副総理・財務相)をお呼びして、現在、各党が抱える問題点について問うた。

 だがそこで、連立政権内の矛盾、そして対立が露呈した。

■菅氏VS亀井氏の血相を変えた口喧嘩
 亀井静香郵政・金融担当相と原口一博総務相が24日、郵便貯金の1人当たり預入限度額を現在の1000万円から2000万円、簡保保険の加入限度額を現在の1300万円から2500万円に引き上げることを発表した。いずれもほぼ倍増である。

 亀井氏は番組で、これらの限度額の引き上げについて「総理は了解されたということで菅さんにも全部申し上げた」と述べた。

 すると、民主党の副総理であり財務大臣である菅直人氏が「数字は聞いていない」と繰り返した。

 その発言を受け、亀井氏は顔色を変えて、「あなたの耳が悪いんだよ」「国民が見ている。閣内で何やっているんだと支持率がガタガタに落ちる」と反論した。

 このやりとりは言わば、テレビでの口論、まさに喧嘩になってしまった。

 そして本来ならば、連立政権に対して攻撃しなければならない自民党の谷垣禎一総裁、共産党の志位和夫委員長、そして公明党の山口那津男代表といった野党の党首たちは、まるで観客席にいるかのように、連立政権内の大口論をぼう然と見つめているばかりであった。

 それにしても、この連立政権内の対立とは、いったい何であろうか。

 どうやら今回の郵政見直し案については、亀井氏は小沢一郎幹事長の了解を得てからの主張だったようである。

 かねてより亀井氏は、小泉純一郎氏が行った郵政民営化をぶち壊す、そう宣言している。

 そういう意味では、亀井氏の「郵政改革」とは、改革ではなく逆行である。

■郵政への資金流入は弱小金融機関の経営を圧迫する
 それにしても、ゆうちょ銀行の預入限度額を1000万円から2000万円に増やすとは、尋常ならぬできごとである。民業の圧迫、不公正な競争条件ということになれば、もしいずれかの国が世界貿易機関(WTO)に訴えたら、敗れるような内容ではないか。

 現在、銀行や信用金庫が倒産した場合、預金者を保護する額(ペイオフ=預金保護)は1000万円が限度となっている。

 しかし、ゆうちょ銀行は実質的に国が保証している銀行であるから、上限が2000万円ということは保護される金額が2000万円、というのと同じだ。一般の銀行にしてみれば、明らかに不公平である。

 それだけではない。

 国が保護するゆうちょ銀行の預入限度額が2000万円となれば、規模が小さく、財務体質の弱い信用金庫や地方銀行などの預金が、ゆうちょ銀行へ流れてしまうことは間違いない。

 つまり、弱小金融機関の倒産すら起きる可能性があるのだ。

 さらに、ゆうちょ銀行には、借り入れのノウハウ、つまり金を集めるノウハウはあるが、貸し付けのノウハウは全くない。だから、ゆうちょ銀行にいくら金が集まっても、国債を買う以外にノウハウがないわけである。

■7月の参議院選挙を念頭に置いた郵政見直し案
 おそらく、亀井大臣や小沢幹事長は選挙、つまり7月の参議院選挙を念頭に、今回の預金限度額や加入上限額の大幅引き上げを考えついたのであろう。

 選挙で頼りになるのは、連合つまり労働組合と、そして特定郵便局長である。特定郵便局長の集票能力は連合に比べれば小さいが、その一方で、固い。確実に票が読める。

 選挙で勝つための手段として、こういった亀井案を考えたのであろうが、これは常識では考えられない愚行である。

 実は、この原稿を執筆しているのは30日で、今日の午後6時から閣僚懇談会が行われることになっている。

 その場で、亀井発言を断固として受け入れなかった菅氏はどういう姿勢に出るのだろうか。

 仙谷由人国家戦略相も「全閣僚でもう一度議論したらどうか」「どこへ使うのかわからないで金を集めても」などと発言し、明らかに強い反対の姿勢をとっている。枝野幸男行政刷新相も強く反対するに違いない。

 そこで問題は、鳩山由紀夫首相だ。

 亀井氏は「鳩山首相はわが提案を了承している」と強調したのに対して、鳩山首相は記者会見で「了承していない」と述べている。

 普天間問題でも苦境にある鳩山首相が、どういう態度に出るのであろうか。

 ここでもし、亀井案を受け入れるということになれば、鳩山首相はぶれが激しく信用できないという世論が起こるはずである。

 私はここまで執筆して閣僚懇談会の結果を待った。

 あっさりとした幕引きだった。閣僚に向かって、「一任をありがとう。自分のリーダーシップのもとで進めていく」と語り、「亀井・原口案を軸に早く法案を作るように指示した」のである。

 仙石氏から「この案では地方の中小金融機関、地方経済にとって良い影響をもたらさない」といった異論も出たが、鳩山首相は結局、亀井案を支持したのである。

■郵政票を取り込むことは将来的にプラスかマイナスか
 普天間問題はもとより、郵政見直しで追い詰められた鳩山首相はここでリーダーシップを発揮しないと大変なことになると考えたに違いない。しかし、亀井案を「了承していない」としていた鳩山首相が一転して、亀井案支持を打ち出したのを見て、はたして国民はどう思うだろうか。

 先に亀井案は選挙対策だと言った。20万人以上いる日本郵政の労組は現在の連立政権を支援している。だから「郵政票」は大きな魅力なのだ。

 しかし、そうした郵政票を取り込むためだとしても、大きな目で見れば、選挙にとってマイナスになるのではないかと私は思う。

 なぜなら、今年2月に行われた長崎県知事選を思い出してほしい。

 小沢氏が票を集めるために盛んに道路建設を行うと主張し、結局は大差で敗北した。その二の舞にならないとは限らない。

 そして繰り返すが、民業を圧迫する郵政の肥大化は誤りだと私は思っている。

2010年4月1日 日経BP

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