【時事(爺)放論】岳道茶房

話題いろいろだがね~
気楽に立寄ってちょ~

民主党の“経済音痴度"を考える

2010年04月04日 | 情報一般
民主党の“経済音痴度"を考える

すったもんだの内紛の末に、郵政改革の骨格が固まりました。ほぼ当初の亀井案どおりで落ち着きましたが、その問題点は既に先週説明したので、今週は郵政を題材に、民主党の“経済音痴度”の度合いを考えてみたいと思います。

■ゆうちょ銀行を巡る意味不明の対応
  郵政改革について問題点はたくさんあるのですが、その中でも私が一番理解できないのは、なぜゆうちょ銀行を「銀行法が適用される普通の会社」のままにしたのかということです。

 郵貯の収益で郵便局や郵便配達のネットワークを維持するというのは、政策的には明らかに間違っていますが、政治的にその道を選択した以上、国民負担を抑えるためには、ゆうちょ銀行が安定的に大きな収益をあげられなくてはなりません。

 もちろん、そのために預入限度額を引き上げて、民業圧迫お構いなしに大量の資金を集めようとしているのですが、融資能力がないゆうちょ銀行にとっては、国債が主な運用先とならざるを得ません。

 その場合、ゆうちょ銀行は二つのリスクを抱え込むことになります。一つはフローの面でのリスクです。国債金利と預金金利の間には金利差がありますので、特に現在のように預金金利が異常なまでに低い場合、預金量が増えれば増えるほど収益が大きくなりますが、金融市場が財政赤字を嫌気して金利が上昇を始めたら、その収益も減少する可能性があります。

 それよりも怖いのは、もう一つのストック面でのリスクです。ゆうちょ銀行は膨大な額の国債を保有していますが、その中で時価評価されているのは満期が近いごく一部だけであり、残りは簿価で評価されています。

 しかし、万が一国際会計基準が適用されてすべての国債を時価評価せざるを得なくなったら、金利上昇局面では国債価格が低下しますので、ストック面で大きな損失が発生するかもしれないのです。このストック面での“制度リスク”は、銀行法が適用される限りは逃れられません。

 そう考えると、日本郵政、特にゆうちょ銀行については、民間会社の姿を維持するならば(暗黙の政府保証などを取っ払って)徹底的に普通の民間銀行にしていくか、銀行法が適用されない特殊会社として徹底的な国債消化機関(いわゆるナローバンク)にするか、両極端の解しかないはずです。

 それなのに、今回の案では、銀行法が適用される民間会社を維持したまま、政府のバックアップで預金を大量に集めて国債で運用しようという、もっとも中途半端な形になりました。表面的には官と民のいいとこ取りをしたように見えますが、実際は、もっとも悪い要素を寄せ集めた最悪の解なのです。

 閣僚が集まった場でもこうした議論なく、最悪な解を認めてしまうというのは、政権の経済音痴をさらけ出しているようなものではないでしょうか。

■郵貯資金でインフラ投資?
 次に郵政改革について分からないのは、改革案自体には入っていませんが、複数の閣僚が郵貯資金の運用先として海外へのインフラ事業や国内の公共施設への投資を挙げていることです。

 おそらく、国債だけに投資して利益を稼ぐ構造は長続きしないという、ある意味正しい問題意識からの発言だと思いますが、やはりここでも大きな疑問が沸いてきます。

 インフラ投資は、リターンを得るまでに10年から20年程度を要する超長期の投資です。しかし、当然ながらゆうちょ銀行への預金は、そんな超長期にわたって固定的に預けられるお金ではありません。金融を少しでも知っていたら、銀行のALM(Asset Liability Management)管理の観点から流動性の高い短期性の預金を超長期の投資に充てられるはずないのは、明らかではないでしょうか。

 更に言えば、国内の公共施設に投資し出したら、それこそ公的金融そのものであった財政投融資の復活に他なりません。ゆうちょ銀行に民間銀行のふりをさせても、そうした分野への投資をさせると政府が決めれば同じなのです。

 そう考えると、民主党はマーケット・キャピタリズム(市場資本主義)とステーツ・キャピタリズム(国家資本主義)の差異を理解していないのでは、と心配になります。

 例えば、韓国やシンガポールは海外のインフラ投資に官民を挙げて成功しており、その資金面のかなりの部分の面倒は国家が見ている点で、ステーツ・キャピタリズムの典型例です。しかし、これらの国が成功しているのは、政府内に金融市場を理解したキャピタリストが存在するからです(というか、国のトップからしてキャピタリストですよね)。

 それと比べると、官僚がすべてを支配する日本の政府内にはそうしたキャピタリストがいないからこそ、過去ずっと財政投融資で非効率な投資を繰り返してきたと言わざるを得ません。民主党による政治主導になったからと言って、民主党の国会議員の大半も金融の素人であることを考えると、何も変わらないのです。更に言えば、ゆうちょ銀行を民間会社のままにとどめていても、融資能力がない以上は変わらないのです。

 そうした現実を考えずに、郵貯資金で海外インフラや公共施設への投資をと主張するのは、どんなもんでしょうか。

■民主党政権の経済音痴の原因は?
 もちろん、これら以外にも民主党政権の経済音痴を表す事例は、枚挙に暇がありません。JALへの過剰支援とその後の無策は産業政策的にあり得ませんし、道路公団の復活も経済的にはとても正当化できません。成長戦略の柱の一つに海外のインフラ事業への投資を挙げていることも、意味不明です。

 公務員制度改革だって、天下りを禁止して、公務員が定年まで勤務できるようにして、公務員のリストラをやらないで、その一方で公務員の総人件費を2割削減できるかどうか、また新卒の公務員をちゃんと採用できるかどうか、算数ができる人ならすぐに分かるはずです。

 要は、今の民主党政権には、経済音痴を露呈した政策が多過ぎるのです。では、民主党の若手政治家には経済通も多いのに、なぜそうなってしまうのでしょうか。小沢幹事長をはじめとした民主党の重鎮の意向に逆らえないからとしか思えません。でなかったら、日銀出身で金融に精通した大塚副大臣があんな醜悪な郵政改革をまとめるはずありません。

 そして、ここで留意すべきは、もしかしたら民主党は今の日本の縮図かもしれないということです。自分が知る範囲でも、多くの企業や役所で、上司が馬鹿なことを言っていると分かっているのに、自分の出世や評価を気にして何も意見をせずにイエスマンとなっている若手が多いと思います。今の民主党もそれと同じではないでしょうか。

 そう考えると、民主党政権の間違った政策に対しては厳しく批判すべきですが、同時に、そうなってしまっている原因については、民主党を他山の石として私たち自身も反省することも必要ではないでしょうか。それなしに民主党を批判するだけでは、日本は決して良くならないように思えます。

2010年4月2日  ダイヤモンドオンライン
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸博幸

最新の画像もっと見る