百億の星ぼしと千億の異世界

SF、ファンタジー、推理小説のブログ。感想を出来る限りネタバレしない範囲で気ままに書いています。

伊藤計劃 『ハーモニー』(2008)

2013年03月14日 | SF 地球

Cover Illustration◎シライシユウコ
Cover Design◎岩郷重力+Y.S
(2008/早川書房 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション 124644)

第30回SF大賞受賞
第40回星雲賞日本長編部門受賞
フィリップ・K・ディック記念賞特別賞


「一緒に死のう、この世界に抵抗するために」――御冷ミァハは言い、みっつの白い錠剤を差し出した。21世紀後半、<大災禍>と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は医療経済を核にした福祉厚生社会を実現していた。誰もが互いのことを気遣い、親密に"しなければならない"ユートピア。体内を常時監視する医療分子により病気はほぼ消滅し、人々は健康を第一とする価値観による社会を形成したのだ。そんな優しさと倫理が真綿で首を絞めるような世界に抵抗するため、3人の少女は餓死することを選択した――。それから13年後、医療社会に襲いかかった未曾有の危機に、かって自殺を試みて死ねなかった少女、現在は世界保健機構の生命監察機関に所属する霧慧トァンは、あのとき自殺の試みでただひとり死んだはずの友人の影を見る。これは"人類"の最終局面に立ち会ったふたりの女性の物語――。『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。

まず最初に作者が作家デビューしてからわずか2年ほどで早逝されたことを全く知りませんでした。まだ第一作『虐殺器官』も積読状態になっているんですよ……。どうりで最近出てきた作家のわりに古書店で探していても作品数が少なかったわけです。

主人公霧慧(きりえ)トァン、御冷(みひえ)ミァハ、零下堂キアンの3人の少女を軸に物語が展開していきます。内容についてですが、心臓の弱い方はパスした方がいいかも……。(一部地域の人を除き)大人になるとWatchMeという生体監視装置みたいのを体に埋め込まなければならない世界で成長したトァンはかなりタフになっています。

一日で読み終えてしまいました。それだけ一気に読ませてくれる作品でした。各賞を受賞したのも頷けます。風景描写の不足を感じるところもあるのですが、それを補って余りあるストーリーでした。読み終えてあくまでも想像の域を出ませんが、もしかしたら作者は肺がんと闘病しながら、その痛みからヒントを得てこの小説を書きあげたのかななどと思ったりしてしまいます。だって読んだ方ならわかると思いますが、痛みとかにも内容が関係してるし、最後の予想外の展開が待っているんですよ。そしてさらにこの終わり方……だからもしかしたら作者はこれを求めていたのかなと思ってしまうんです。

追悼、伊藤計劃(けいかく)。


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