
MICHAEL INNES Lament For A Maker
桐藤ゆき子[訳]
(◎1993/社会思想社 教養文庫3039 F039)
ラナルド・ガスリーはものすごく変わっていたが、どれほど変わっていたかは、キンケイグ村の住人にもよく分かっていなかった……狂気に近いさもしさの持ち主、エルカニー城主ガスリーが胸壁から墜死した事件の顛末を荒涼とした冬のスコットランドを背景に描くマイクル・イネスの名作。江戸川乱歩は「非情に読みごたえのある重厚な作品」として世界ミステリのベスト5に挙げた。
いちヴィンテージ・ミステリ・ファンとして、本書がかって文庫化されていたことを大変嬉しく思います♪
もしまだ持ってないという人は、今すぐに入手して下さい!www
冒頭のキンケイグ村の靴直し、イーワン・ベル老の語りがいかにも老人の語り口で最初少しとっつきにくい感じもありますが、慣れてしまえばもう物語世界に引き込まれ、キンケイグ村の一住人となっている自分に気がつきます。
エルカニー城を取り巻く冬の風景などを容易に想像できるような繊細な模写や、登場人物6人にそれぞれ1部ずつを語らせる7部構成(1と7は靴直しのイーワン・ベル老が担当)、そして物語の中にさらに小さな物語がいくつも織り込まれ、それによって大きな物語を紡ぐ妙…確かにこれは名作だと思います。さまざまに物語が展開していくので当然ページが進んでいくのですが、終盤にさしかかるともっとこの物語世界に浸っていたいとページを捲るのがもったいなくなってしまうほど充実した読書時間を味わえました。登場人物も多いですが、それぞれにキャラが立っているのでよくありがちな誰が誰だかわからなくなってしまうということもありません。
第2部はロンドンから来た青年、ノエル・ギルビーが語るのですが、第1部のベル老とはうってかわってさわやかで若々しい躍動感が感じられます。こうして部が変わるごとに、語り部が変わるのですが、"よくこれだけ見事に描き分けができるものだ!"と驚かされます。また2人の女性、クリスティンとシビルがそれぞれに魅力的なこと!
結末に明かされるさらなる真実…そして、"あぁ…物語の中に紡がれたあの気になる物語にはこんな結末が用意されていたのか!" という驚きと…
イネス、他のも読もうっと!