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百億の星ぼしと千億の異世界

SF、ファンタジー、推理小説のブログ。感想を出来る限りネタバレしない範囲で気ままに書いています。

マイクル・イネス 『ある詩人への挽歌』(1938)

2014年03月24日 | 外国推理

MICHAEL INNES Lament For A Maker
桐藤ゆき子[訳]
(◎1993/社会思想社 教養文庫3039 F039)


ラナルド・ガスリーはものすごく変わっていたが、どれほど変わっていたかは、キンケイグ村の住人にもよく分かっていなかった……狂気に近いさもしさの持ち主、エルカニー城主ガスリーが胸壁から墜死した事件の顛末を荒涼とした冬のスコットランドを背景に描くマイクル・イネスの名作。江戸川乱歩は「非情に読みごたえのある重厚な作品」として世界ミステリのベスト5に挙げた。


いちヴィンテージ・ミステリ・ファンとして、本書がかって文庫化されていたことを大変嬉しく思います♪
もしまだ持ってないという人は、今すぐに入手して下さい!www

冒頭のキンケイグ村の靴直し、イーワン・ベル老の語りがいかにも老人の語り口で最初少しとっつきにくい感じもありますが、慣れてしまえばもう物語世界に引き込まれ、キンケイグ村の一住人となっている自分に気がつきます。
エルカニー城を取り巻く冬の風景などを容易に想像できるような繊細な模写や、登場人物6人にそれぞれ1部ずつを語らせる7部構成(1と7は靴直しのイーワン・ベル老が担当)、そして物語の中にさらに小さな物語がいくつも織り込まれ、それによって大きな物語を紡ぐ妙…確かにこれは名作だと思います。さまざまに物語が展開していくので当然ページが進んでいくのですが、終盤にさしかかるともっとこの物語世界に浸っていたいとページを捲るのがもったいなくなってしまうほど充実した読書時間を味わえました。登場人物も多いですが、それぞれにキャラが立っているのでよくありがちな誰が誰だかわからなくなってしまうということもありません。

第2部はロンドンから来た青年、ノエル・ギルビーが語るのですが、第1部のベル老とはうってかわってさわやかで若々しい躍動感が感じられます。こうして部が変わるごとに、語り部が変わるのですが、"よくこれだけ見事に描き分けができるものだ!"と驚かされます。また2人の女性、クリスティンとシビルがそれぞれに魅力的なこと!

結末に明かされるさらなる真実…そして、"あぁ…物語の中に紡がれたあの気になる物語にはこんな結末が用意されていたのか!" という驚きと…

イネス、他のも読もうっと!

グリン・ダニエル 『ケンブリッジ大学の殺人』(1945)

2014年02月23日 | 外国推理

GLYN DANIEL (DILWYN REES) The Cambridge Murders
小林 晋◎訳
カバー・イラスト:西川由季子
カバー・デザイン:小栗山雄司
(◎2008/扶桑社/扶桑社ミステリー タ9-1/1134)


ケンブリッジ大学が明日から長期休暇に入るという夜、フィッシャー・カレッジ内で門衛が射殺された。副学寮長のサー・リチャードは、一見単純に見える事件に複雑な背景があることに気づき独自の調査に乗り出すが、やがて帰省した学生のトランクから第二の死体が発見され…。めくるめく推理合戦、仮説の構築と崩壊、綿密きわまる論理的検証、そして単越したユーモア。考古学教授を本職とする著者がものした、本格ファンの魂を揺さぶる幻の40年代クラシック・パズラー、ついに本邦初訳なる!


扶桑社ミステリー文庫にはたまに古い年代ものの初訳が紛れ込んでいたりするので、要チェックなのですが、これもそんな中で見つけた一冊。
"本格"、"幻の40年代"、"クラシック・パズラー"といったキー・ワードを見かけ、即古本購入しました。読み始めたのは昨年の9月頃だったのに、読了が今となってしまったのはこちらの諸事情もあったのですが、本編529頁+訳者あとがき19頁の大作で、何しろ中間部が若干中だるみしながら長いんですよw

最初、探偵役はサー・リチャードでしたが警察の捜査が入ると途中で探偵役を止めてしまいます(オイっwww)。並行してウィンダム警部が捜査するのですが行き詰まってしまい、ついにはスコットランド・ヤードに応援を仰いでロバートスン・マクドナルド警視が登場し、警察本部長のカニンガム・ハーディ大佐まで捜査に加わって・・・、さらには事件関係者の推理も加わりもうグチャグチャにwww
確かに中だるみしている感は否めないのですが、ラストの急展開、4人の中の一人の沈着冷静な推理は圧巻です。読み終えることが出来て良かったと同時に、"いやぁ、面白かったなぁ♪"

主人公サー・リチャード・チェリントンは大学教授である作者の投影と見られ、これが処女作。最後の容疑者というか犯人と対峙した時のサー・リチャードの傍観者的姿勢には少し違和感を感じたものの、あくまでも教授は素人探偵であり、さらには時代が時代なだけにこれもまた一考なのかとも・・・。もちろん結末は作者がきちんとつけてくれましたよ。
第二作 Welcome Death は作者自身は処女作より自信があったみたいですが、アガサ・クリスティらからは処女作の方が良かったと言われました。出版元はグラディス・ミッチェルの初期作やキャメロン・マッケイブの『編集室の床に落ちた顔』(国書刊行会)のゴランツ社。


マイクル・ギルバート 『空高く』(1955)

2013年03月22日 | 外国推理

熊井ひろ美訳
カバーデザイン/ハヤカワ・デザイン
カバー写真/Lake Country Museum/CORBIS/CORBIS JAPAN
(◎2005/ハヤカワ文庫 HM 310-10)


英国の片田舎ブリンバレーは不穏な空気に包まれていた。別荘荒らしが頻発し、教会の献金箱からは金が奪われ、疑惑の人物マックモリス少佐も一大轟音とともに大爆発し空高く舞いあがった自宅のなかで死亡した。三つの事件に繋がりはあるのか?少佐の爆死に、かつて爆弾による謎の死を遂げた夫との関わりを感じた聖歌隊の指揮者リズは、息子ティムと非道な犯人を探しはじめるが…巨匠による傑作が待望の文庫化。新訳版。


やっぱり英国の作家は上手いです。違和感のないキャラクター設定、流れるようなストーリー、その裏にある見事な構成、そしてさらにごくさりげなくロマンスを挿入して……。でもこれって本格推理小説とは微妙に違う気がします。本格推理を期待して読みだしたので、いくらかサスペンスの要素が入り込んでいるように思え、その点ではちょっと肩透かしをくらった感じがしましたが、それでも十分に面白く読めましたよ。結局、あの人はあの人を脅していたのかなぁ……?

E・C・ベントリイ 『トレント最後の事件』(1913)

2013年03月13日 | 外国推理

E. C. BENTLEY Trent's Last Case
高橋豊訳
カバー・野中昇
(◎1981/ハヤカワ・ミステリ文庫 HM 74-1)


米財界の大物マンダーソンが何者かに射殺されるという大事件に、<レコード>紙のモロイ卿は急遽、素人探偵として名の高いトレントに、事件の真相を探るよう依頼した。現地に乗り込んだトレントは、持ち前の推理能力を発揮して犯人の目星をつけた。だが、すでにマンダーソン婦人への思慕の情が、彼の心でつのり始めていたのだ。事件の真相によって彼女が受ける衝撃を憂慮した彼は、自らの推理を綴った手記を彼女に託して立ち去ったが……事件が急展開するのはまさにこれからだった! 鮮やかな大逆転と恋愛模様の模写で愛読され続ける古典的名作


これはかなり昔読みました。もうストーリー自体うろ覚え状態になっていますが、丘だったか崖だったかの上でトレントと未亡人が絡んだワンシーンと、爽やかな読後の満足感得られたことを今でも覚えています。推理小説にロマンスを見事に絡めたストーリーで、今まで読んできた推理小説の中でもベスト中のベストとして、いつかまた読み返してみたい一冊です。そして今日はそのトレントものの短篇が載ったものを入手出来ました。


『毒薬ミステリ傑作選』(1951)
「救いの天使」 E・C・ベントリイ
RAYMOND T. BOND Handbook For Poisoners
R・ボンド編
(◎1977/創元推理文庫 一六九 1)


「救いの天使」 トレントの推理が冴えます。今気づいたのですが、先日読んだ仁木悦子さんの短篇「ただ一つの物語」はもしかしたらこのシチュエーションのヴァリエーションだったのかな? もっともストーリー自体は全く違いますが。



『暗号ミステリ傑作選』(1947)
「利口なおうむ」 E・C・ベントリイ
RAYMOND T. BOND Famous Stories Of Code And Cipher
R・ボンド編
(1980/創元推理文庫 一六九 2)


「利口なおうむ」 トレントが小箱をとりあげてみせて言ったセリフ、ここにトレントの魅力が発揮されています。やっぱりフィリップ・トレントはいいなぁ♪

ジョン・ディクスン・カー 『夜歩く』(1930)

2013年03月12日 | 外国推理

JOHN DICKSON CARR It Walks By Night
文村潤訳
カバー・依光隆
(◎1976/ハヤカワミステリ文庫 HM 5-2)


数年前、花嫁のルイーズを殺そうとして精神病院へ収容されたローランは、殺してしまいたいほど愛していた彼女が、サリニー公爵と結婚するという噂を聴き、脱走を企てた。まんまと脱走に成功した彼は、整形手術で顔を変え、公爵の命を狙って、夜な夜な霧けぶる快楽の都パリを徘徊する"狼人間"と化した。そして衆人環視の中で堂々と犯された戦慄すべき密室殺人!
フェル博士、ヘンリー・メリヴェール卿(H・M)の前身と称される、パリの探偵バンコランが颯爽と登場する、鬼才ジョン・ディクスン・カーの処女作!


昔カーを少しコレクションして(もちろん古本です)積読状態になっていたんですが、"やはり本格的に本格推理小説を読み出すならカーから入ろうカーw" ということで順を追って処女作から読み始めたのですが、うーむ……どうやら期待が大きすぎたようです。解説によるとカーの本領が発揮されるのはもっと後の作品らしいです。パリ警視庁の大立者、予審判事バンコランの知人、ジェフ・マールの一人称視点から物語が語られるのですが、この1冊を読んだだけでは探偵役であるバンコランには癖があり過ぎるので惹かれることはありませんでした。でもストーリーは中々に楽しめましたよ。シャロン・グレイという魅力的な準?ヒロインもいましたし。
そういえばバンコランっていうと世代的にパタリロを思い出してしまうんですが、カバー・イラストの背景に溶け込んでるのがバンコランで、気を失っているのがシャロン、それを抱えているのがジェフなのかな? ところで依光隆さんってSFのカバーやイラストだけでなく推理小説の方まで手掛けていたんですね。