百億の星ぼしと千億の異世界

SF、ファンタジー、推理小説のブログ。感想を出来る限りネタバレしない範囲で気ままに書いています。

小泉喜美子 『血の季節』(1981)

2015年09月23日 | 日本推理

(◎1986/文春文庫 389-2)



早春の青山墓地で幼女の惨殺死体が発見された。深夜の独房では死刑囚が異様な告白を始めた・・・事件は40年前の東京にさかのぼる。美しい公使夫人と書記官はほんとうに死んだのか? 中世のドラキュラ伝説を現代に甦らせる耽美派ミステリーの傑作。昨冬、急逝した筆者が三つだけこの世に残した長編のひとつ。 解説・戸板康二


『弁護側の証人』(未読)で知られる小泉喜美子。『弁護側~』は将来のお楽しみに取っておくとして、シルバーウィークで時間があったので、あまり見かけない本書から先に読んでみました。オルツィ『紅はこべ』が随所に出てくるのですが、創元文庫のを所有してるだけでこちらも未読だったので、先にせめてあらすじだけでも読んでおけば良かったかも。形式は倒叙になるのかな? 冒頭、二審前に精神病理学会有数の泰斗である院長博士が警部から再鑑定の依頼を受け、犯人と対峙し聴取をする中でやがて明らかとなっていく事件の全貌。けれどもそれすらも・・・。

本書は上掲したあらすじも何も、『紅はこべ』以外は全て頭から締め出し、余計な先入観も持たずに心をまっさらな状態にしてから読むべき本です。そうすればきっと、"なぜあの時ああだったのか"といった作者の仕掛けたトリックというか遊び心を存分に堪能することができ、そして読後、「ルルベル・・・」と、心の中でそっとその名を呼ぶようになっているのです・・・。