百億の星ぼしと千億の異世界

SF、ファンタジー、推理小説のブログ。感想を出来る限りネタバレしない範囲で気ままに書いています。

堀晃 『遺跡の声』(1996,2007)

2014年04月10日 | SF 系外

AKIRA HORI Call Of The Ruin
Cover Illustration▼加藤直之
Cover Design▼岩郷重力+Wonder Workz.
(◎2007/創元SF文庫 SFほ-1-2)


その恒星系に浮かぶ無人観測基地のシステムには、10年前に太陽爆発で死んだ女性科学者の人格が転写されていた。“彼女”からの異状を伝える連絡に、婚約者だった私が派遣された。その途上、私は巨大な太陽ヨットと遭遇する――名編「太陽風交点」に始まるシリーズを最新作まで収録。辺境宙域で人間の想像を超えた遺跡を巡る調査員の私と、助手である結晶生命体トリニティの旅路。

「太陽風交点」
「塩の指」
「救助隊Ⅱ」
「沈黙の波動」
「蜜の底」
「流砂都市」
「ペルセウスの指」
「渦の底で」
「遺跡の声」

今、読後の余韻に浸っています・・・。
"あぁ、もう最高すぎる…! まっとうな正統派ハードSFをもったいないけれども今、読み終えてしまった。でも読んで良かった。これだから宇宙舞台のSFはやめられない…。" 

探偵小説を2冊続けて読んだためか、宇宙への渇望がもの凄く大きくなってしまいました。"さて、では何を読もう?" と選んだのは、先に『バビロニア・ウェーブ』を読み、大好きな光瀬龍に通ずる読後感を得られた堀晃の本書、大正解でした。短編の連作集なのですが、舞台設定しかり、小道具しかり、これぞハードSF! しかも自分のような物理系音痴でも普通に読めるのは、核となるストーリーがしっかりとあるからだと思います。一人称で書かれた主人公である「私」は各エピソードごとに説明されるのですが、ここでは「沈黙の波動」から引用してみます。

 私は下級の遺跡調査員だ。銀河系の中心からは太陽系の外側、ペルセウスの腕に沿って最外部へ延びる星系には、恒星系へ進出することもなく滅びた種族の遺跡が点在している。私の任務は、プログラムされた航路を飛行しながら遺跡を調査し、場合によっては無人基地を投下して発掘作業を進めることだった。が、銀河系遺跡の調査は、最近主流となった"文明発生~重元素分布説"によって、銀河系の中心方向に関心が向けられている。生命の発生、進化、文明の発生に必須とされる重元素の分布は銀河中心部に集中しており、太陽系文明に有用と考えられる"異種文明"との接触は銀河系内部の方向で行われる可能性が大きかったからだ。
 私の受け持つ星域は、およそ注目を浴びることはなく、やがては無人探査機に置き換えられるのではないかと予測された。(「沈黙の波動」より引用)


このように、まず主人公の設定がいいじゃないですか。年齢不詳の「私」は一人乗りの調査艇に乗っていて、なにやら理由があって太陽系近傍には二度と戻るまいと決意しています。ならば孤独かというとそうでもなく、冒頭のとてもせつない名作「太陽風交点」の最後に出会った(後に「トリニティ」と「私」が名付ける)結晶生命体とともにエピソードごとに異なる星の文明の遺跡を訪ねて行きます。

そして最終エピソード「遺跡の声」でのラスト…。「私」の感情の吐露がないため、調査員である「私」がこの時何を思ったかは、もうここまで読んで完全に「私」と同化したこちらが想像するしかないのですが、「私」が、よくありがちなありきたりのお涙頂戴的感傷に流されずに幕が下りるのがまた、思いのほかいつまでも余韻を残します。
いつまでも、いつまでも…。
いつかきっとまた、本書を読み返すその日まで…。


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