goo blog サービス終了のお知らせ 

百億の星ぼしと千億の異世界

SF、ファンタジー、推理小説のブログ。感想を出来る限りネタバレしない範囲で気ままに書いています。

仁木悦子 『冷えきった街』(1969)

2013年03月16日 | 日本ハードボイルド

カバー装画 直江博史
(◎1980/講談社文庫 に 2 5)


堅岡清太郎一家は続発する怪事件に恐慌を来していた。長男清嗣は睡眠中にガス栓を抜かれ、二男冬樹は暴漢に襲われ、末娘このみを誘惑するという脅迫状までが舞い込んだ。事件解明の依頼を受けた探偵三影潤が謎に挑むが、やがて第一の殺人が起こり悲劇の幕があく。呪われた一家を待ち受ける運命は……。


刹那い……刹那いエンディングです。

読みながら"はたしてこれはハードボイルドなのだろうか?"と問い続けました。まず一人称単一視点から物語が語られる点はハードボイルドの定石なのでこれは最良とし、国内ハードボイルドものでは海外ものと違い法律上、拳銃を持つことは許されないのでその点もOK、アクション・シーンも一箇所出てくるので、まぁ良しとします。けれどもどうしたわけか、中盤まではハードボイルドというよりはむしろ本格推理小説といった雰囲気なのです。
ところがその雰囲気は終盤247頁で交わされた会話によって一変します。

「おれのおふくろなんか、あんたには関係ない人間だよ。会ったことだってないんだし」(冬樹)
「人間である以上、関係ないとは言えないよ。ほかの犯罪ならばともかく、僕は人間の命を奪う奴は赦せない。命は人間の手でこしらえて返すというわけにはいかないものだからね」(三影)

この部分にくるまでは私立探偵三影潤の"芯"がなかなか見えてこなかったんですが、ここでやはりこれはハードボイルドだと思いました。もしかしたら国内で女性作家が最初に書いた男性主人公ハードボイルドではないでしょうか。いずれにしても、海外でも女性作家が女性主人公のハードボイルドを書く例は多く見受けられますが、女性作家が書く男性主人公ハードボイルドは内外含めて珍しいと思います。類型的にこの真面目さに似た探偵を探すならマイケル・Z・リューインのアルバート・サムスンあたりでしょうか。

だから読み始める時に"女性作家に男性主人公のハードボイルドが書けるのだろうか?"という一抹の不安があったのも事実です。けれども読み終えてみて、その不安は全く不要だったことがわかります。そして悲しい過去を背負いつつ、『冷えきった街』だからこそ際立つ温かい心を持った三影潤は、わが愛すべき私立探偵の一人となりました。

小鷹信光 『探偵物語』(1979)

2013年02月25日 | 日本ハードボイルド

カバーデザイン
鈴木成一デザイン室
カバーイラスト
板垣俊
(◎1998/幻冬舎文庫 こ 6 1)


私立探偵の工藤俊作は、電話のベルで起こされた。失踪した十七歳の少女を四日間の期限付きで探して欲しいという。しぶしぶ調査を始めたが、誘拐の脅迫電話で事態は急展開を見せる。多くの血が流れ、工藤は少女の行方を求め必死に走り回る。そして最後につかむ意外な事実とは――。伝説のドラマの原案者が秘蔵していた長編小説。

ある一定レヴェルの年代以上にとっては「探偵物語」といえば(本書のカバーイラストそのまんまですが)松田優作が演じた軽ハードボイルドものがすぐに連想されると思います。今までハードボイルドといえば海外ものしか読んでこなかったので、国内ものはイマイチ疎いということもあり、本書もそんな軽ハードボイルドなのかと勘違いしていましたが、実際読み終えてみると全然違ってました。
そうなんです、よくよく考えてみると、なんといっても作者があの(ジョン・エヴァンスを教えてくれた)小鷹信光さんです。今まで想像していたのよりももっとずっとビターな正統ハードボイルド、一気に読了してしまいました。
しかし第一作目からこういうテーマ(あらすじからは読めません)を持ってくるとは……。

東京都内各所を舞台に繰り広げられるストーリーなので風景がすぐ浮かんでくるし、車での追跡シーンなど克明に車線情報が描かれているので頭の中で"今、あの車線にいるのか…"と想像しながら読めて臨場感も倍増しました。こういう読み方は海外ものだと出来ないので国内ものの強みですね。あらためて感じました。

そして名無しのコンティネンタル・オプやフィリップ・マーロウ、はたまたリュウ・アーチャーとも違う私立探偵工藤俊作、まだシリーズがあるので今後が気になります。