百億の星ぼしと千億の異世界

SF、ファンタジー、推理小説のブログ。感想を出来る限りネタバレしない範囲で気ままに書いています。

上田早夕里 『火星ダーク・バラード(単行本)』(2003)

2012年12月29日 | SF 火星

SAYURI UEDA
装幀・伸童舎
装画・田中達之
(角川春樹事務所)


火星治安管理局員・水島烈は同僚の神月璃奈とともに、凶悪殺人犯ジョエル・タキを護送中、襲撃を受けて意識を失うが、それは肉食恐竜の姿をした生物によるものだった! 意識を取り戻した水島を待っていたのは、ジョエル・タキ逃亡の知らせと璃奈の無残な死体――。捜査当局から疑いをかけられた水島は自らの潔白を証明するため、個人調査を開始するが、その矢先、アデリーンという美少女と出会う。事件の真相を知っていると語る彼女は他人の精神と共振することのできる「超共感性」と呼ばれる特殊な脳機能の持ち主だった。だが、すでに自体は二人の力だけではどうしようもない方向へと向かっていたのだった……。
サスペンスに満ちた展開で息つく間も与えないSF巨篇、堂々の誕生!

ラストの方で不覚にも泣きましたよ。帯にもあるとおり、第4回小松左京賞受賞作で、『華竜の宮』『リリエンタールの末裔』『魚舟・獣舟』と読んできた上田早夕里のハードボイルド風ノンストップ・エンターテインメントSF。ハードボイルド風と表記したのは本書がハードボイルドの基本形ともいうべき一人称ではなく、三人称複数視点で描かれているからです。ジョエル・タキは前日譚である「小鳥の墓」(『魚舟・獣舟』所収)からさらに輪をかけてサイコみたくなっていたので、当初本書を読むにあたって心配していた感情移入してしまうことはもうありませんでした。でもジョエル・タキについては意外にあっさりとその最期が推測だけで語られていたので、まさかどこかで生き延びているのでは……などと邪推してしまいます。あ、あとアデリーンと親友シャーミアンのお別れシーンも泣けました。この作者は油断しているとこういうシーンを忍ばせているので、まんまとその術中にハマってしまいますw SFファンには『華竜の宮』、そうでないなら本書がお勧めかなぁ~。この本、目まぐるしく場面が変わったり、火星、地球、木星、フォボスまで出てくるし、さらにもう一人の主人公が美少女だったりと、アニメ化しても相当面白いだろうな~♪ 宮崎アニメみたいなのでもいいけど、表紙みたいな画でもかなりカルトSFっぽくなって面白そう。でもアキバ系だけはやめてもらいたいw

藤崎慎吾 『クリスタル・サイレンス』(1999)

2012年09月17日 | SF 火星

Shingo Fujisaki "Crystal Silence"
カバーイラスト=野中昇
(ソノラマ文庫ふ5-1/2 → ハヤカワ文庫JA)


2071年、火星の北極冠で氷に閉じこめられて冷凍保存された高等生物の死骸が大量に発掘された。地球外知的生命の残した貝塚の可能性があるとして、縄文時代が専門の生命考古学者サヤは、調査のため火星に派遣される。だがそこは、疫病が蔓延し、各国コロニー間で"闇の戦争"が繰り広げられる、危険に満ちた世界だった。そして、北極冠の採氷基地で標本の採集に励むサヤたち学術調査員にも攻撃が加えられ、調査活動は難航する。

 女性が主人公なので自己投影しにくかったのと、サイバー・パンク的要素も含まれていて読み始め当初戸惑いがありましたが、スターシップ・トゥルーパーズ的要素まで出て来て、テンコ盛りカオス状態になったある意味P・K・ディック的ですらあるストーリーが迎えるラストは、その流れからある程度予想は出来たものの、それでも思わず感涙してしまい、大満足しました。

ジェフリー・A・ランディス 『火星縦断』(2000)

2012年09月17日 | SF 火星

Geoffrey A. Landis "Mars Crossing"
Cover Illustration 田中 光
小野田和子◎訳
(ハヤカワ文庫SF 1562)


2028年、第三次有人火星探査隊は赤い惑星に降り立った。だが、彼らのミッションは重大な欠陥を孕んでいた。着陸早々、帰還船に事故が発生。隊員の一人が命を落とし、地球への機関が最優先事項となった彼らは、新たな帰還船を求めて火星縦断の旅に乗りだした! NASAの現役研究者である作者が、最新のデータを駆使してリアルな火星を構築。極限状態でのサバイバルを描いた傑作ハードSF

 ハードSFというと人物描写がおろそかにされるイメージがありますが、この本に限っては全くそんなことはありません。ストーリーに並行して6人の隊員の過去が綴られていきます。そして予想を覆す意外なラスト・シーンに思わず感涙。"まんまとやられたな"って感じなのですが、決して奇をてらった感じはありません。大満足の一冊。ローカス賞受賞作。