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INDOCTRINAIRE by Christopher Priest
鈴木博訳
カバー=上原徹
(1970/Faber & Faber Ltd. ◎1979/サンリオSF文庫 43-A)
南極大陸の氷の下6000フィートにある集中研究所でウェンティック博士は機密の研究を進めていた。刺激→反復→教化→習慣というパブロフの実験を薬を投与して短縮しようというのだ。スターリン体制下でパブロフの実験が悪用されたように、一歩間違えると危険な薬だった。ところが政府関係者と称する二人の男が突然現れて、博士はその仕事を解除されたというのだ。まだ研究は完成していないのに。そして一枚のフィルムを示して、新しく別の任務を申し渡した。目的も理由もわからないまま博士はブラジルのジャングルへ連れてこられた。ジャングルを抜けて目的地のプラナルト地域の草原へ踏み入って背後を振り返ってみると、今までそこにあったジャングルは消え、かわりに前方に見えるのと同じ草原の地平線がどこまでも広がっていた。その上、手の生えた机、耳のある壁、高等数学の公式に従って設計された迷路のある監獄に収容されてしまった。現代イギリスSFの代表作。
サンリオSF文庫には素晴らしいカバー・アートワークが多く、これもそのうちの一冊で、読了後にはカバーが内容を如実に表しているのを感じられます。英国SF界重鎮のこれが処女長編だったんですね。ウェンティック博士が典型的な巻き込まれ型主人公となって物語は展開していき、途中間延びしたような退屈な部分も感じられましたが、その部分ですらも結末に至ってはなるほど必要不可欠なパートだったのかと膝を打つほど練られています。読後の清涼感は全くもってありませんが、それでもビターな味わいのある一品。