百億の星ぼしと千億の異世界

SF、ファンタジー、推理小説のブログ。感想を出来る限りネタバレしない範囲で気ままに書いています。

トマス・アドコック 『神なき街の聖歌』(1989)

2013年03月09日 | 外国ハードボイルド

THOMAS ADCOCK Sea Of Green
田口俊樹訳
カバー・小野利明
(◎1994/早川書房ミステリアス・プレス 77)


私は戻ってきた。希望のかけらもないマンハッタンのスラム街へ。柄にもなく、古巣への郷愁を胸に抱いて――が、私は刑事だ。待っていたのは、厳しく冷たい現実だった。新興宗教教主に送りつけられる死の脅迫状、スラムで起きた連続殺人。やがて二つの事件は複雑に絡みあい、私自身をも巻き込んでゆく。ニューヨーク派の大型新人が放つ、刑事ノヴェルの白眉。

まず一人称単一視点から描かれたハードボイルドなのが嬉しいです。やっぱりハードボイルドは一人称でなければ! そして原題とは全く関係ない邦題もいいじゃないですかw(でもこの邦題、内容に上手く合ってると思います) またカバー・イラストがその主人公、NY市警刑事ニール・ホッカデイ(どういう風に発音するんでしょうかね。ホにアクセントを置くのか、それともカにアクセントを置くのか…)のイメージを見事にそのまま描いていると思います。そしてこのバツイチの主人公はかなり貧しい暮らしをしていて、その点も推理小説によくありがちなお金持ちで美食家の大学教授が探偵役になるよりは庶民的な共感が持てます。内容も面白かったです。ヒロイン役のモナにも惹かれましたよ。

ただし不満が全くなかったわけではありません。ラストで人間関係がいわゆる"世界って狭いな"的な終わり方をするのです。作者は最後に意外性を持たせて、あっと驚かせたかったのかも知れませんが、実は誰と誰はこーで誰と誰はあーいう関係だったみたいなこういうまとめ方をされてしまうとあまりにもご都合主義的な気がします。まあ、一つの関係はあってもよしとしても、もう一つの方は要らなかったんじゃない? と思いました。あとね、ホッカデイがやたらジャズに詳しすぎるんです。曲を聴いただけで奏者を当ててしまうというのは、ホッカデイの生活からすると有り得ないと思いました。きっと作者が詳しいんでしょうね。まぁ、ハードボイルドにジャズはつきものなので甘目に見ることにします。

早く先を読みたくってページを捲るのが嬉しくって……こういう小説を読んでいる時は嬉しくてなりません。アメリカ探偵作家クラブ賞を受賞した二作目『死を告げる絵』以降、第四作まであるようなので全部読むことに決定。それだけ読後の満足感は十分に得られました。