日本会議唐津支部 事務局ブログ

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原子力国民会議主催の講演会のようす:第2回 金氏氏「原子力の再出発 ~福島の教訓と今後の安全~」

2014年12月14日 | 活動報告

 前回に続き、講演1の内容をお知らせします。



■講演-1 「原子力の再出発 ~ 福島の教訓と今後の安全~」

講師:金氏 顯 氏(かねうじ あきら、九州工業大学産学連携推進センター客員教授

【講演要旨】

 
東電福島第一原子力事故から3年余りが過ぎ、去る4月に政府は「第4次エネルギー基本計画」を閣議決定し、原子力は「重要なベースロード電源」と位置付けられ、安全性を担保しつつ再稼働を進めるなどの方針が示された。一方で、原子力規制委員会は新規制基準の適合性を昨年7月から審査し、ようやく九州電力川内1,2号機が審査合格し、地元鹿児島県の再稼動容認の決議なされ、来年早々にも再稼動の見通しとなった。

 しかしこの間、原子力発電の全面的停止により、火力発電の計画外停止による大停電の危機、化石燃料輸入増等による我が国の産業や経済への深刻な悪影響、二酸化炭素排出増加による地球温暖化への悪影響など、原子力の再稼働は急務である。

 そこで、再稼働について一般市民の皆様が正しい判断をする一助として、この講演では東電福島事故の教訓を徹底的に洗い出して原子力発電所の安全性を大きく向上させる多重かつ多様な安全対策、さらに人と環境を護る避難計画も策定、即ち原子力のリスクはゼロではないが、事故の教訓に学び安全性は飛躍的に向上していることをお話したい。

 なお時間が許せば、原子力ゼロがもたらす悪影響、また高レベル放射性廃棄物地層処分についても触れたい。

【講演】

まず、原子力発電の技術、特に安全は大変難しい技術ですが、今日はそれを出来るだけ易しく、そして正しく皆様にお伝えしようと思います。

 

 本題の福島事故の事に入る前に、原子力の基本的なことを3枚のスライドでご説明します。まず、我が国の原子力発電建設の歴史です。1970年に我が国で初めての商業用原子力発電所が運転開始しました。東電福島1号機、関電美浜1号機、原電敦賀1号機です。第1世代は米国から導入し、トラブル経験、対策をしながら国産化、第2世代は信頼性、安全性を向上、第3世代は経済性と信頼性安全性をさらに向上、約30年間に50基を建設し運転。21世紀に入り54基に達し、新規建設が一段落した矢先の2011年3月11日に東日本大震災に遭遇した東電福島事故が起こりました。

 原子炉の形式は2種類あって、東電福島は沸騰水型(BWR)、九電は川内、玄海とも加圧水型(PWR)。主要な相違点はPWRは格納容器がBWRの5~10倍大きい、蒸気発生器で事故後の冷却出来、蒸気には放射能を含まないから自由に放出出来る、使用済み燃料プールが地上階にある。これらにより、炉心溶融事故が起きても後の対応がかなり容易になる。3枚目、原子燃料は極少量で大きなエネルギーを発生できる。1gのウラン核分裂でガソリン2000リットル相当のエネルギー、自動車だと2万キロ走るエネルギーに相当する。従って発電コストが非常に安く、また川内や玄海に現在ある燃料だけで3,4年分もつ。

 

 さて、2011年3月11日に東電福島事故が起こりました。ここで、東日本大震災に遭遇した原子力発電所14基のうち、残りの10基は安全に炉心冷却出来たことも忘れてはいけません。

 

・東京電力:福島第一4,5号機。福島第二1~4号機
・東北電力:女川1~3号機
・日本原子力発電:東海2号機

東電福島事故の教訓は色々言われていますが、重要なことを整理して言うと次の3つです。

 

1:想定外の自然災害への備え 、安全設備は単一故障に備え多重に設けていたが、大津波により一切合財が破壊され、作動しなかったこと。

 

2:長時間の全電源喪失への備え 、日本の電源は信頼性高いとして、全電源喪失は短時間しか想定して無く、炉心溶融、水素爆発に至った。

 

3:過酷事故を想定した備え 、過酷事故(炉心溶融や水素爆発)を想定した対策を規制対象とせず、事業者自主判断としたために、海水注入や格納容器ベント等の緊急対策が後手後手になった。
 
また避難行動が行き当たりばったりとなった。 

 

まず教訓1に対しては:

 

「活断層ではない岩盤上に設置すること」に対しては、発電所の地下には活断層は無いことを確認。

 

「想定される最大規模の地震を“基準地震動”とし、対策すること」に対しては、 当初:敷地に特定の鹿児島県北西部地震(1997年)から540ガル 、今回:北海道留萌庁南部地震(2004年)を考慮し、620ガルに変更 。

 

「過去に記録のある最大の津波高さを超える“設計基準津波”を想定し対策」に対しては、 当初:発電所周辺の活断層での地震による津波:4m、今回:沖縄海溝におけるプレート間地震による津波:5mに変更。

 

「竜巻対策:日本で発生した過去最大の竜巻風速を踏まえ、風速100m/秒の竜巻を想定して対策」に対しては、

 

復水タンク・燃料取替用水タンクエリアの防護対策。

 

「火山噴火対策:川内原子力発電所では約1万3千年前の桜島での「桜島佐津間噴火による火山灰(厚さ15cm)を想定」に対しては、火山灰の影響に対し、川内原子力発電所の安全機能を損なわない様に対応が取れることを確認 。

 

「2001.9.11米国同時多発テロ後の米国原子力規制委員会は「原子力施設に対する攻撃の可能性』に対する特別の対策を原子力発電所に要求した。(B5b) テロ行為により原子炉に航空機が衝突した場合でも原子炉を安全に停止できること。)」に対しては、 原子炉から100m離れた場所に原子炉遠隔停止・冷却機能を有する建屋を設置(ただし5年以内に設置)、電源、水源、注入ポンプなど。
 

 

次に教訓2に対して

 

「地震で受電設備が損傷」に対しては、 受電設備の耐震性向上 (碍子対策、ガス遮断器採用)

 

「海水冷却非常用ディーゼル発電機2機が津波で機能喪失 、直流蓄電池が津波で機能喪失、また寿命も8時間」に対しては、移動式大容量発電機車(空冷ディーゼル、ガスタービン)、非常用蓄電池を高台設置。運転時間も長時間に ディーゼル発電機冷却用可搬式海水ポンプ車、海水ポンプ・モーター予備


最後に教訓3に対して:

 

原子力の安全設計の基本は「機械は故障する、人はミスを犯す」ことを前提に多段の防護をすること(これを深層防護という)。

 

従来は次の3層であった。

 

第1層 (異常の発生防止):余裕ある安全設計(地震対策等) 、インターロック(誤操作防止)

 

第2層 (異常の拡大防止): 異常の検知 、原子炉の自動停止

 

第3層 (異常の影響緩和):非常用原子炉冷却装置、格納容器内冷却

 

これを4層、5層の防護へより備えを深化させることになった。(これまでは4,5層は事業者自主判断)

 

第4層(過酷事故防止):緊急時対策所、格納容器内冷却の多様化、格納容器内水素の燃焼消滅など

 

により放射能の格納機能強化 、人的操作と仮設設備強化で炉心溶融の防止と影響緩和、淡水注入、海水注入ラインの設置、別置きポンプ、可搬式ディーゼルポンプ車の配置 《放射能放出のくい止め》

 

第5層(防災対策):オフサイトセンター設置、合同対策協議会、屋内避難基準 、病院・介護対策、      避難計画《人と環境を護る》

 

 避難計画について、やや詳しく説明。まず、福島事故を踏まえ、原子力災害対策指針(原子力規制委員会)にて対策重点区域を30kmまで拡大。 PAZ(5km)、UPZ(30km)と2つの地域に区分し、それぞれ判断基準を決めて準備する防護措置を定めている 「防災計画」は自然災害を含め内閣府、「原子力防災対策指針」は原子力規制委員会が制定。これ等を基に「原子力防災計画」を県が、「避難行動計画」を立地市町村が策定し、「県防災会議」で審査、承認されている。判断基準は、福島第一事故時避難の教訓反映(線量基準、屋内退避、病院・介護施設等) 。


 
やや時間がありますので、(附1)原子力ゼロの影響を説明します。

 

・火力発電依存度は過去最高! 大停電の危機、第3の石油危機、化石燃料代巨額の無駄、電気代高騰、産業空洞化の「五重苦」状態です。

 

・原子力ゼロにより毎年3.8兆円を海外に無駄に垂れ流し! (国民一人当たり 3万円)

 

・経済団体からの緊急要望や意見等 が相次いでいます。

 

○『電力供給および電気料金に関する関西・九州企業への影響調査』平成26年4月15日、関西経済連合会、九州経済連合会

 

○『電力多消費産業の事業存続のための緊急要望』平成26年5月27日

 

(鉄鋼、電炉、鋳造、鍛造、鉱業、熱処理、化学等の工業会・協会)

 

○『川内及び玄海原子力発電所の一刻も早い再稼働を求める』平成26年6月(九州経済連合会、九州商工会議所連合会、九州経済同友会、九州経営者協会)

 

○『当面のエネルギー政策に関する意見』平成26年10月7日、経団連、

 

①原子力再稼動プロセスの加速、②以下省略

 

即ち、全国の中小企業は事業存続の危機に直面しています!

 

更に、次の様な原子力のエネルギー安全保障効果もあることを忘れていけません。非常に高い備蓄効果(現燃料で3,4年分) 地政学リスクの低さ(政情の安定国からの燃料輸入) 、シーレーン依存度の低さ、二酸化炭素排出への国際圧力の低さ、潜在埋蔵量の多さ(枯渇リスクの低さ)、原子力保有による、他エネルギー資源獲得へのバーゲニングパワー 、原子力技術の保有による国際的優位性、「準自国エネルギー源」の保有による自給率向上

 

ドイツの脱原発政策の実態は、電力の63%は自給エネルギー (自国産石炭、水力、再エネ、原子力)、日本は僅か10%。・原子力は9基運転中(稼働率は90%超、うち6基の発電量は世界10位以内と大事に運転。)、再エネ推進政策の危機(固定価格買取制度(FIT) を2000年から導入。電気代13年間で2倍。陸上風力はほぼ飽和。洋上風力は北部から南部消費地への3800km送電線建設計画は住民反対運動で90km程度しか実現してない。) 

 

 (附2)高レベル放射性廃棄物の処分

 

使用済み原子燃料を再処理し、約5%の核分裂生成物を高レベル廃棄物として取り出す。(ウランとプルトニウムは再利用高レベル廃棄物をガラスに溶融固化 、まず約50年地上保管冷却、約20cmの鋼板、粘土(人工バリア)で覆い、地下300m以下に永久貯蔵、放射性物質を人工バリアと自然バリアにより、数万年に渡り、地球の地上の生物環境から、人類が関与することなく深地層自然の管理に委ねる、最も確実な方法。

 

約40年間分の高レベル廃棄物約4万本を貯蔵するに必要な敷地規模は:約3km×約2km。
 

 

最後に、地球が数億年かけて蓄積した化石燃料を人類がわずか200~300年で消費し尽くし、あとまた原始生活に戻ることが出来るのか?、原子力に代わる新たな基幹エネルギーを手にするまでは原子力エネルギーは持ち続けなければいけないと思います。

 

私は唐津に生れ、北九州に育ち、今日は小倉から来ました。ご静聴有難うございました。

【現職】
九州工業大学産学連携推進センター客員教授
北九州工業高等専門学校特命教授
北九州産業技術保存継承センター館長

~つづく~

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