IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

アメリカ版五人組?

2006-07-30 09:38:59 | 政治
ワシントン近郊のメリーランド州フレデリックで、犯罪発生率を減らす苦肉の策として、地元警察が「Know Five」という運動を開始することになったらしい。さっき見たローカルニュースによると、警察官が町の商店や民家を一軒ずつ訪問して、地元住民らに「少なくとも5人の隣人と仲良くなって、お互いを知るようにしてください」と要請するんだとか。地元住民が隣人をよく知ることで、「周囲の目」を気にするようになり、犯罪を犯そうとは思わなくなるだろうというのが地元警察の言い分だ。地元テレビのインタビューに答えた中年男性は、「子供の頃は少しでも悪さをすれば、近所の人から両親に連絡があって、こっぴどく怒られたもんだよ」と語っていた。これで犯罪が極端に減ることは無いと思うけど、あらためて近所付きあいの無さが分かったニュースだった。さて、今日は国土安全保障省から民間業者へ委託された事業で無駄遣いが繰り返されているというニュースを。

27日付のワシントンポスト紙は同じ日に発表予定の議会報告書の内容について報じ、国土安全保障省から民間企業に発注された事業の中で、莫大な額の無駄遣いが当たり前のように行われていた実態を明らかにした。911同時多発テロ事件後の2003年に創設された国土安全保障省は、以前から政府と関係の深い業者が入札無しで契約を受注するケースが頻繁に発生したため、以前から公平さを欠くと批判されてきた。同省が民間業者に対して発注した契約総額は現在までに340億ドルに達しており、27日に発表された議会報告書は、「その中で深刻な無駄遣いが発生していた」と結論づけている。報告書によると、2003年から2005年までの間、入札無しでの受注は700パーセント以上の増加を見せており、その額は55億ドルにも及ぶ。国土安全保障省による民間業者への委託事業はさまざまな分野に及んでおり、空港での荷物・身体検査だけではなく、国境警備やハリケーン被災者たちへの住宅供給なども含まれている。

報告書では水増し請求の疑いがある契約の存在だけではなく、関連業者の高級ホテルでの滞在が政府から支払われていたり、国土安全保障省の職員が政府のクレジットカードを使用して私的な買い物を行っていた事実までもが明らかにされている。これまで国土安全保障省による支出は「対テロ戦争」の名目で大目に見られてきたが、27日発表の報告書では政府が初めて同省の経理面での問題を追及し、これまで公にされなかった問題点を指摘している。元監査官のクラーク・アービン氏はワシントンポスト紙の取材に対し、「無駄遣いされてきたお金でアメリカ国内をより安全にすることができたのです」と語り、国内の安全保障における書類上の数字と現実とのギャップが無駄遣いに起因していると主張した。国土安全保障省の広報官は今回の報告書に関して、「(途中から国土安全保障省に組み込まれた)運輸保安局の編入前のデータも批判の対象となっている」と反論したが、民間業者による無駄遣いが発生していた事実を間接的に認めてもいる。

911同時多発テロ事件後に創設された国土安全保障省は22の政府機関を統合したものでもあり、これだけ大きな省庁の再編が行われたのは実に50年ぶりの事だった。短期間で創設された国土安全保障省は約18万人の職員を抱える巨大な組織だが、対テロ戦争や国内の安全レベルを引き上げるという設立当初の目的は専門スタッフの数が限られていたため、その多くを民間企業に丸投げしている状態だった。莫大な予算と18万人以上のスタッフが存在するにもかかわらず、昨年9月にハリケーン「カトリーナ」が南部湾岸地域を直撃した際には効果的な活動を行う事ができず、市民やメディアから激しく非難されていた。議会報告書は、空港で使われる金属探知機などを製造するNCSピアーソン社からの請求に少なくとも2億9700万ドルの「問題視されるべき請求」が存在していたと指摘し、高級ホテルの代金までもが請求されていたと明かしている。また、カナダやメキシコ周辺の国境地帯に設置されている監視カメラが、雪や湿気が原因で、全く機能していなかった事実も明らかにされている。

ニューオーリンズへの取材まであと2日。ようやく取材先との連絡も終え、今は現地の新聞報道などをもう一度読み直している。昨日はニューオーリンズの北にあるスライデルという町の商工会議所や市庁舎、警察署に電話をかけて、関係者と話をした。現地では市長や警察署長からも話が聞けるようで、市庁舎でメディア対応を担当する女性が「ニューオーリンズ以外の忘れられた町にも目を向けてほしい」と語ったのが印象的だった。スライデルは人口4万人足らずの小さな町で、ハリケーンが来る前はリー・ハーベイ・オズワルドの誕生地くらいにしか知られていなかったんだけど、ニューオーリンズ以上の洪水被害に遭ったため、昨年9月には多くのジャーナリストが町を訪れている。スライデルには1日だけしか滞在できないんだけど、ニューオーリンズ以上に復興がすすまない小都市の実態を見る事ができればと思っている。商工会議所のキャサリンさんはマサチューセッツ州にある有名な女子大学を卒業していて、電話での打ち合わせの後で突然、「今年のレッドソックスはどうなんですか?」と聞かれた。僕は「もちろん、優勝しかないでしょう」と答えたんだけど、スライデルにも赤靴下ファンが住んでいるという事実にビックリ。おみやげにベースボールカードでも持っていくか。


写真:ルイジアナ州スライデルで29日、被災者向け住宅の建設に汗を流すボランティア団体のメンバー (AP通信より)


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