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〈沖縄への敵意〉に変質し始めた「本土」世論

2014年01月04日 | 練馬の里から
【非武装・不戦エッセイ】 その7
〈沖縄への敵意〉に変質し始めた「本土」世論
                  井上澄夫 米空軍嘉手納飛行場・一坪反戦地主

 「本土」の世論は日ごろは〈沖縄〉を意識しない。95年秋、沖縄で少女が米兵にレイプされる痛ましい事件が起きたときは〈沖縄〉に強要されている恐るべき事態にいくらか関心が寄せられたが、それも1,2年ほどのことで、その後〈沖縄〉は再び忘れられた。
 〈沖縄〉と「本土」世論との関係はこのサイクルの繰り返しである。「本土」世論はなにか大事件が起きないと〈沖縄〉を意識しないのだ。

 「本土」世論のここ5、6年ほどの状況には若干質的変化が生まれたように感じる。それはもっともらしい言い訳が共通の心理になってきたということだ。
 地方紙を含めてマスメディアは以前より〈沖縄〉を取り上げるようになった。沖縄への米軍基地の集中がもたらす事件・事故の頻発がいくらかは報道されるようになったのだ。それ自体はむろん悪いことではない。しかしそれは同時に「本土」民衆の心に重苦しい感情を生むことになった。
 一口にいえば自分の加害者性への負い目である。ことあるごとに「本土」側の自分たちが批判されることに次第にいたたまれなくなってきた。そしてその鬱屈した心情は出口を求めてさまようことになったのだが、その結果、多くの人の心に生まれたのが私が「危険手当論」と呼ぶ屁理屈である。
 沖縄県民が米軍基地の集中で大変な目にあっているのは「わかる」、だが、だからこそ、政府が莫大な振興予算を毎年沖縄に拠出しているではないか、「危険手当」をたんまりもらっていながら、そのうえまだ文句を言うのはどうかしている……わがままではないか……。
 ※ 全国紙の記者が「沖縄はわがままだ」とつぶやいたという証言が実際にある。

 仲井真知事が辺野古の海の埋め立てを承認したことで首相官邸の公式ホームページには「揺すりたかり」といった沖縄批判が続々書き込まれたという(12・30付沖縄タイムス記事「全国での基地報道単純化 県内に危機感」)。
 これは「沖縄はごまかしとゆすりの名人」という暴言(2010年12月)でケビン・メア在沖米総領事が沖縄県民の囂々たる非難の嵐によって辞任に追い込まれたことを覚えている人びとによる反撃だろうが、12・31付琉球新報はまた官邸の同じホームページに沖縄を中傷して「盗人ですよ」と書き込まれたと報じている。
 こういう低劣な非難が官邸に寄せられることには、沖縄が抱え込まされている困難と苦悩の全体像を鮮明に伝えず、振興予算と基地問題との関係だけをひたすら強調する全国紙などのメディア報道に多大の責任がある。

 しかし私はこの現象の問題性はそれだけにとどまるものではないと思う。これまで「本土」社会の底辺でひそかに積もり積もってきた〈沖縄に対する逆恨み感情〉が、いくらかは「理屈」めいた「危険手当」論をも乗り越え、ついに〈沖縄への敵意〉に変わったのだ。
 沖縄を軍事植民地として支配してきた日本政府の構造的差別・抑圧政策に「本土」世論がとうとう合流し始めたのである。
こう記すと、それはオーバーな表現で「本土」の世論はそこまで悪化していないという人がいるだろう。しかしそういう人は沖縄が強制されている惨状や沖縄の人びとの思いを伝える街頭宣伝に30分でも参加してみればいい。そうすれば、〈沖縄〉をめぐる世論動向をリアルに肌で感じることができるだろう。

 少し前まで街を行き交う人びとは私たちの街頭情宣に対し圧倒的に無関心であるか、少なくともそう装っていた。しかし今はあれこれむき出しの反応がある。わざわざ近寄ってきて「オスプレイ賛成!」と叫ぶ、ビラ撒きを妨害する、「沖縄から米軍がいなくなったら誰が日本を守るんだ!」と喧嘩腰で議論をふっかける……、そういう事例にはこのところ実に事欠かないのである。
 私の先輩の沖縄出身高齢者に「沖縄は勝手に独立しろ!」と怒鳴って脱兎のごとく走り去った女性もいた。 
 しかもそういう人びとの多くはいわゆる右翼団体関係者ではなく、ごく普通の市民、ちまたの人である。そしてその事態にこそ、現代日本社会の深刻な病状が表われている。(2013年1月17日、超党派の沖縄代表上京団の銀座デモを妨害した集団は右翼団体が動員した者たちで、同種の団体がすでに沖縄で活動している。)
  
 この明白な敵対関係を生んだ主因は政府の〈「尖閣」危機煽動〉である。中国軍がいつ「尖閣諸島」に侵攻してくるかわからない、見よ、中国公船がたびたび繰り返し日本の領海を侵犯している、しかも中国は勝手に「尖閣諸島」を含む防空識別圏を設定し、識別圏を侵犯すれば戦闘機で対応するとまで宣言しているではないか……。
 こういう危機煽動を続けながら、安倍政権は中国を敵視する、今後「おおむね10年程度」の「国家安全保障戦略」を策定し、それに基づき新しい防衛大綱と中期防衛力整備計画(中期防)は南西諸島を想定する「離島・島嶼防衛」を最重点課題とするものになった。
 自衛隊を送り込んで新たにレーダー基地を建設するなど南西諸島を要塞化し、航空自衛隊那覇基地の戦闘機を増やして2個飛行隊とする(約40機)、「離島奪還」の備えとして水陸両用車、機動戦闘車、オスプレイ、新早期警戒管制機、新空中給油機・輸送機、無人偵察機を導入し、水陸機動団を新編する、イージス艦を増やす、陸上自衛隊員を増員する……など安倍カラーの軍拡が着々と進められている。

 安倍政権は米国政府に〈「尖閣」有事〉に当たっての対応の保証を求め、「尖閣諸島」が日米安保条約第5条の適用範囲であることを繰り返し確認している。そういう事態が連日大々的に報道されれば、沖縄が中国と対峙する最前線として「本土」防衛のついたて(盾)になるのは当然だ、米軍はオスプレイを辺野古新基地に常駐させ、日本を守るべきだ、沖縄がそれを拒否するとは何ごとか、すでにもらうべきカネはもらっているではないかという心理が「本土」世論に蔓延してくるのは当然すぎるほど当然である。「本土」世論が見せ始めた沖縄への敵意は安倍政権が意図して醸成し増長したものである。
※ 日米安保条約第5条・条文
 両国の日本における、(日米)いずれか一方に対する攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであるという位置づけを確認し、憲法や手続きに従い共通の危険に対処するように行動することを宣言している。

 そしてこの差別・抑圧政策と「本土」世論との合流の趨勢こそ、安倍首相が仲井真知事をああもやすやすと屈服させた最大の政治的条件だったのである。
 私は知事を擁護する気は少しもないが、安倍政権による露骨な構造的差別・抑圧政策と政権の煽動・誘導に乗せられて沖縄への敵意を示し始めた「本土」世論の犯罪的変質とを阻止できなかったことに「本土」民衆の一人として責任を痛感する。
      2014・1・1 記 

【付記】
沖縄の新聞、琉球新報の2013年12月30日付社説「年末回顧 県民は屈服しない 尊厳と覚悟問われた一年」は結語をこう記している。
 〈沖縄の尊厳と覚悟が問われた一年だった。「屈辱」は味わったが、この経験を生かし、沖縄の民意はより「屈強」になるだろう。「不屈」を誓い、新年を迎えよう。〉
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-217284-storytopic-11.html


【参考】(2014/1/2 練金術師)
「沖縄の闘いは、その差別構造につながる内部矛盾の克服を含めて、当分続く。沖縄の闘いが、構造的沖縄差別を突き崩す時期は、周辺諸地域の民衆の、沖縄に対する共鳴・共感・連帯の度合いによって、遅くもなれば早くもなるだろう」
  新崎盛暉が説く構造的沖縄差別 http://www.koubunken.co.jp/0500/0483.html あとがき


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