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NEOMAP Web Forum

総合地球環境学研究所プロジェクト4-4「東アジアの新石器化と現代化:景観の形成史」のwebフォーラム

コスト距離(1)

2009-01-20 19:23:56 | NEOMAP本部
「認知地図」というものがあります。

人間や動物が環境に対してもっている空間的知識を
地図に見立てて言い表したもので、多くの場合、
私たちが一般的に目にする「地図」とは位置関係が大きく異なります。
なぜなら、私たちが感じる「心理的距離」は、
地図上の「ユークリッド距離」とは異なるからです。

たとえば、同じ10kmであっても、舗装された道路と山道やぬかるんだ沼地では
通過にかかる時間がそれぞれ大きく異なるでしょう。
後者の場合、「ユークリッド距離」で10kmの距離が、
「心理的距離」では20km(相当)になるかもしれません。

ところが、「心理的距離」は非常に複雑な要素から構成されるため、
その復元は困難です。
しかし近年、GIS(地理情報システム)を利用して、
ユークリッド距離を心理距離に近づけることができるようになってきました。

現在、もっとも一般的に行われているのが、
「地形の傾斜角度」からユークリッド距離を修正する方法です。
地理学者toblerの提案した「ハイキング関数」という式を用いて、
ある点からある点に、どれぐらいの「時間」がかかるかを計算できます。

「遺跡間の隔たり」や「資源産出地までの距離」などを考えるとき、
このアイデアは重要になると考えます。
古代人は「ユークリッド距離」ではなく「心理的距離」で
距離をとらえていたと思われるからです。(いなはた)

予測モデリングと遺跡立地(2)

2009-01-13 14:52:11 | NEOMAP本部
前回、J. Christopher Gillamさんの予測モデリングを紹介しました。
クリスさんの方法の特徴が、DESKTOP GARPを利用した遺伝的アルゴリズムを用いる点にあることは前述の通りですが、
今回はこの方法の射程と限界について、考察したいと思います。

DESKTOP GARPというソフトウェアは、遺跡を「点」として扱います。
つまり、遺跡の存在する地点を、面積のある「面」ではなく、
緯度経度の交わるところ、面積のない「点」として便宜的に扱い、
その点についての生態学的環境情報(たとえば、気温や積雪量、標高、傾斜角度など)を解析する、という仕組みです。

クリスさんのされているような、大陸レベル(マクロスケール)での分析ならば、
分析に用いる環境情報データセットの精度とコンピュータの計算能力を考えると、
この分析で十分だと思います。

しかし、狩猟採集民研究において、これをセミマクロあるいはミクロスケール(たとえば日本の県単位)で高精度の環境情報を用いて分析するとき、話は変わってきます。

生業=居住戦略、つまり、居住地の選択も生業システムの一部であるという考え方をとると、
遺跡の立地は生業戦略に強く規定される、といえます。
また、C. Vita-Finziが1978年に提唱し、高い評価を受けた「サイト・キャッチメント分析」※では、
狩猟採集民の集落は、半径10km(約2時間)以内の「領域」に、日常的な資源獲得地を含むよう立地します。

すなわち、狩猟採集民の遺跡立地の決定には、遺跡周辺の面的な環境が生業とのかかわりから重視される、と予想できます。
したがって、DESKTOP GARPの行う遺跡立地点の生態学的な分析は、セミマクロあるいはミクロスケールで考えると、遺跡立地の予測としては足りない部分が多い、と言えます。

しかし、逆に言えば、遺跡周辺の地理学的な立地分析がほとんどである日本考古学において、
クリスさんの提示する遺跡立地点の生態学的な分析は、これまでの立地分析をより多角的にしてくれると思います。
現在、面的な予測モデリングも研究されているようですが、両者をうまく組み合わせるような、方法的な模索が必要なのではないでしょうか。(いなはた)

(※「サイト・キャッチメント分析」(SCA;Site Catchment Analysis)については、1983年に赤澤威先生が紹介されています。日本では今回言及したような面的な遺跡周辺環境の分析を指すことが多いのですが、これは正確には「遺跡開発領域」(SET;Site Exploitation Territory)と呼び、サイト・キャッチメントは遺跡から出土した資源から、資源獲得地を線的にとらえる考え方を指すそうです。)

予測モデリングと遺跡立地

2009-01-08 18:10:11 | NEOMAP本部
昨年、J. Christopher GillamさんがNEOMAP本部にしばらく滞在されたときに、
GISの考古学への応用について、幸いにも多くのご指導をいただきました。
これを私ひとりの胸の中にしまっておくのはもったいないので、ここでその一部を紹介していきたいと思います。

今日紹介するのは予測モデリング(Predictive Modeling)です。

乱暴に要約すると、
これは既知の遺跡をサンプルとして扱い、その遺跡の立地する環境をモデル化することで、
同じような環境の土地を「遺跡存在予想地」として予測する分析だと理解しています。

クリスさんの方法の特徴は、この分析に遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)を用いる点です。
遺伝的アルゴリズムとは、これも乱暴に要約すると、
コンピュータの計算能力を活用して、複雑な計算を繰り返しながらモデルを最適な値に近づけていく方法です。
クリスさんが使っているDESKTOP GARPというソフトウェアは、
植物や動物種の分布の予測モデルを作るために発展したもので、
生態学的適所モデリング(Ecological Niche Modeling)などとも呼びます。
この方法によって、より少ないサンプルで、より精度の高い予測を行うことができるそうです。

古くは佐原眞が指摘したように、遺跡存在は常に暫定的なものですが、
数量的に遺跡を分析しようとするときには、どうしてもこの事実に目をつむらざるを得ません。
数量的なデータは、あくまで今発見されているものから得るしかないからです。
しかし、現在の遺跡分布を統計学的なサンプルとして扱い、遺跡存在を確率的に予測する、という予測モデリングの方法論と考え方は、この問題を乗り越えるために重要となるかもしれません。(いなはた)

第6回景観セミナー開催のご案内

2009-01-07 11:53:37 | 景観セミナー
各位
After Japanese announcement the English follows.

明けましておめでとうございます。

第6回景観セミナーを下記のとおり開催いたします。
今年度最後のセミナーです。
ふるって、ご参集下さいますようお願い申し上げます。

なお、今回は4名の方に発表をいただきますので、
13時~18時までといたしました。通常とは異なります。
 

            記

■日時:2009年1月30日(金) 13:00-18:00
       (終了後に懇親会を予定しています。)
■場所:大谷婦人会館(京都市・東本願寺の北隣です。)
http://homepage2.nifty.com/otani-hall/fujin/akusesu.htm
■内容:
○研究発表
村上由美子(総合地球環境学研究所)
「河姆渡文化期の木製品と景観」

細谷 葵(総合地球環境学研究所)
「“過程”の聖化-奄美大島の稲作作業と祭り」

春田直紀(熊本大学)
「近世地名から探る現代景観の古層」

中井精一(富山大学)
「都市の中心性と都市景観ーだから富山は金沢に勝てないー」
      (発表各30分、その後質疑応答・討論を予定しています。)

○12月11日開催の所内プロジェクト発表会でのNEOMAP報告の紹介
内山純蔵(総合地球環境学研究所)

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Dear all,

HAPPY NEW YEAR !

The 6th Landscape Seminar will be held Friday, 30th January.

Date: Friday, 30th January
Time: from 13:00
Place: Otani Fujin Kaikan, KYOTO

Presentation:
MURAKAMI, Yumiko (RIHN)
"Wooden tools and the Landscape in Hemudu Culture"

HOYOYA, Aoi (RIHN)
"Sacred routine- Routine works and festivals of rice agriculture in Amami Oshima"

HARUTA,Naoki(Kumamoto university)
"Remains of the early-modern landscape: viewpoint of place-name analysis"

NAKAI,Seichi(Toyama university)
"What makes a centre of the area?: Urban landscape comparison of Kanazawa and Toyama"

UCHIYAMA, Junzo (RIHN)
"The report of neomap research activities 2008 "

Language: Japanese
(makiba)