前回、J. Christopher Gillamさんの予測モデリングを紹介しました。
クリスさんの方法の特徴が、DESKTOP GARPを利用した遺伝的アルゴリズムを用いる点にあることは前述の通りですが、
今回はこの方法の射程と限界について、考察したいと思います。
DESKTOP GARPというソフトウェアは、遺跡を「点」として扱います。
つまり、遺跡の存在する地点を、面積のある「面」ではなく、
緯度経度の交わるところ、面積のない「点」として便宜的に扱い、
その点についての生態学的環境情報(たとえば、気温や積雪量、標高、傾斜角度など)を解析する、という仕組みです。
クリスさんのされているような、大陸レベル(マクロスケール)での分析ならば、
分析に用いる環境情報データセットの精度とコンピュータの計算能力を考えると、
この分析で十分だと思います。
しかし、狩猟採集民研究において、これをセミマクロあるいはミクロスケール(たとえば日本の県単位)で高精度の環境情報を用いて分析するとき、話は変わってきます。
生業=居住戦略、つまり、居住地の選択も生業システムの一部であるという考え方をとると、
遺跡の立地は生業戦略に強く規定される、といえます。
また、C. Vita-Finziが1978年に提唱し、高い評価を受けた「サイト・キャッチメント分析」※では、
狩猟採集民の集落は、半径10km(約2時間)以内の「領域」に、日常的な資源獲得地を含むよう立地します。
すなわち、狩猟採集民の遺跡立地の決定には、遺跡周辺の面的な環境が生業とのかかわりから重視される、と予想できます。
したがって、DESKTOP GARPの行う遺跡立地点の生態学的な分析は、セミマクロあるいはミクロスケールで考えると、遺跡立地の予測としては足りない部分が多い、と言えます。
しかし、逆に言えば、遺跡周辺の地理学的な立地分析がほとんどである日本考古学において、
クリスさんの提示する遺跡立地点の生態学的な分析は、これまでの立地分析をより多角的にしてくれると思います。
現在、面的な予測モデリングも研究されているようですが、両者をうまく組み合わせるような、方法的な模索が必要なのではないでしょうか。(いなはた)
(※「サイト・キャッチメント分析」(SCA;Site Catchment Analysis)については、1983年に赤澤威先生が紹介されています。日本では今回言及したような面的な遺跡周辺環境の分析を指すことが多いのですが、これは正確には「遺跡開発領域」(SET;Site Exploitation Territory)と呼び、サイト・キャッチメントは遺跡から出土した資源から、資源獲得地を線的にとらえる考え方を指すそうです。)
クリスさんの方法の特徴が、DESKTOP GARPを利用した遺伝的アルゴリズムを用いる点にあることは前述の通りですが、
今回はこの方法の射程と限界について、考察したいと思います。
DESKTOP GARPというソフトウェアは、遺跡を「点」として扱います。
つまり、遺跡の存在する地点を、面積のある「面」ではなく、
緯度経度の交わるところ、面積のない「点」として便宜的に扱い、
その点についての生態学的環境情報(たとえば、気温や積雪量、標高、傾斜角度など)を解析する、という仕組みです。
クリスさんのされているような、大陸レベル(マクロスケール)での分析ならば、
分析に用いる環境情報データセットの精度とコンピュータの計算能力を考えると、
この分析で十分だと思います。
しかし、狩猟採集民研究において、これをセミマクロあるいはミクロスケール(たとえば日本の県単位)で高精度の環境情報を用いて分析するとき、話は変わってきます。
生業=居住戦略、つまり、居住地の選択も生業システムの一部であるという考え方をとると、
遺跡の立地は生業戦略に強く規定される、といえます。
また、C. Vita-Finziが1978年に提唱し、高い評価を受けた「サイト・キャッチメント分析」※では、
狩猟採集民の集落は、半径10km(約2時間)以内の「領域」に、日常的な資源獲得地を含むよう立地します。
すなわち、狩猟採集民の遺跡立地の決定には、遺跡周辺の面的な環境が生業とのかかわりから重視される、と予想できます。
したがって、DESKTOP GARPの行う遺跡立地点の生態学的な分析は、セミマクロあるいはミクロスケールで考えると、遺跡立地の予測としては足りない部分が多い、と言えます。
しかし、逆に言えば、遺跡周辺の地理学的な立地分析がほとんどである日本考古学において、
クリスさんの提示する遺跡立地点の生態学的な分析は、これまでの立地分析をより多角的にしてくれると思います。
現在、面的な予測モデリングも研究されているようですが、両者をうまく組み合わせるような、方法的な模索が必要なのではないでしょうか。(いなはた)
(※「サイト・キャッチメント分析」(SCA;Site Catchment Analysis)については、1983年に赤澤威先生が紹介されています。日本では今回言及したような面的な遺跡周辺環境の分析を指すことが多いのですが、これは正確には「遺跡開発領域」(SET;Site Exploitation Territory)と呼び、サイト・キャッチメントは遺跡から出土した資源から、資源獲得地を線的にとらえる考え方を指すそうです。)