精神世界と心理学・読書の旅

精神世界と心理学を中心とした読書ノート

『ブッダを語る』前田専学(NHK出版1996年)②

2007-05-13 22:53:19 | 宗教一般
私は、大乗仏教の思想に共感はするが、テーラワーダ仏教のヴィパッサナー瞑想を実践し、この瞑想法の方法としての素晴らしさにも共感する。それで大乗仏教とテーラワーダ仏教との思想的な対立点については、どうしても気になる。

しかし、『ブッダを語る』を読む限り、形而上学的な問題に対するブッダの態度は一貫しており、どのような尋問や誘惑があっても、そのような問題に返答せず、捨て置いた(捨置)。このように形而上学的な問題について判断中止することを無記という。これはよく知られた事実だが、この本は、ある程度具体的にこの点を論じている。

たとえば、無我が文字通りアートマンは存在しないという意味で用いられるようになったのは、もっと後代になってからだという。逆に初期経典(『ディーガ・ニカーヤ』)には、「ブラフマンとなったアートマンによって住する」という表現も見られ、アートマンがブラフマンと合一することが解脱だというウパニシャッドの思想と対応するという。ただし、初期仏教はアートマンを形而上学的に論じるのではなく、独自の実践倫理的なアートマン論を展開しているようだ。

すなわち、のちにテーラワーダ仏教と大乗仏教との違いとして鮮明になってくる問題群は、初期仏教においては、鮮明な、具体的なものとしては存在しなかったのか知れない。テーラワーダ仏教といえども、初期仏教の実践的な簡潔な言葉を、何らかの仕方で解釈することによって独自の世界観を築いていった部分があるのかも知れない。

書評というよりも、私の関心からの一論点の紹介という形になったが、読みやすく、しかもよく整理された入門だと思う。


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