銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

デュエット

2007年05月05日 05時51分52秒 | 散文(覚書)
あの坂を上れば

真っ白な雲に会える

大好きなあの人に会える

遠い遠いせせらぎの

夢にも似た想い出が

そっと

瞼に腰かける



ずっと平坦な道のこの先に

あの坂は

いずれ母となる少女の乳房のように

大切に

静かにあるけれど

この胸の中にある泉にも似て

いつも白くなりゆく

ひとつの希望



辺りはかすんで

きっと一切は

どこかへ旅立つ

命の宿りは儚くて

ただひとつのところに皆あるだけなのに




下校の鐘だけが行方を示し

淡い綿のように

ふわふわと転がってきて

いつから

大人になったのだろう

どこから

写真を置いてきたのだろう



あの坂を上れば

大きく広がる雲に抱かれる

掌を透かして二重に映せば

その中で微笑む見えない柱が

この泉と呼応して

涼やかに

凛と生きている



頬を伝う睫毛は

知らぬ間に

白き雲の小さな影となって

ゆるやかに

心を震わせる



指の腹

あの坂よ

小さきものにこそ気高さはあって



柱の陰で

そよぎ立っている

愛しき人たち

デュエットは坂をなぞって

遠くここまで降りてくる