中国がイギリスに総額400億ポンド(約7兆4000億円)の投資を中国独自の原発建設することで合意したと21日発表した。習近平国家主席は、ロンドンの金融市場で、人民元建ての国債を発行する方針も明らかにした。一方、朝日新聞デジタル・ヘッドラインは2015年10月21日(水)の「今日のトピックス」で「中国が国産空母2隻の建造を進めています。これまで旧ソ連軍の空母を導入していましたが、さらなる海洋進出を目指す姿勢が浮き彫りになりました。その装備と周辺国への影響は?」と軍事技術輸出だけではなく、軍拡にも乗り出していることを伝えている。中国のそれらの動向は以前から懸念されていた動きだが、ここにきてピッチは上がっているようだ。国内の経済運営の弱体化が何かと証券市場を怯えさせている不安要因になっているが、経済は内需喚起に求める本来的は正道を志向するだけではなく、武器輸出にも乗り出し始めたのだろうか。
●習国家主席のエリザベス女王への恭しい態度は”敬老精神”の表れか?
アフリカなどの紛争地帯への武器輸出は前から指摘されていたが、イギリスへの原発輸出は、「(英中)両国は包括的で戦略的なパートナーシップを結び、共に黄金時代を築く」(習近平国家主席)と中国が積極的なのは、習主席歓迎式典での習主席のエリザベス女王との乾杯の態度のうやうやしさは誰とも交わしたことの無い、大きな体を小さくして頭を下げた態度だったことは、習主席の敬老精神の発露では勿論ない。写真があるなら載せたいほどだった。中国はアメリカと渡り合える経済状況にはないことが良く分かる。中国は独自では脱却できない危機とは即断できないが、危機的状況にあるようだ。筆者は以前、表からは窺い知れない中国経済の底の深さと、中国人民の働きぶりを軽視しては中国が見えなくなってしまう―ー旨、書いた。中国が困難に直面しても、自前のタフさから復活するに違いないという認識は変わらないが、このところの動きは、危機が中国指導部に持ち前の長期的視点、戦略的視点を曇らしているかも知れない。アメリカの布石が功を奏しつつあるのかもしれない。それは、FRBに代表される金融マフィアのドルから元へのシフトの引き揚げが、想像以上に中国経済を痛めつけているのかもしれない。
●TPPはドル基軸通貨経済圏の延命策でAIIB(元基軸通貨圏)への対抗策
筆者はTPPもドル基軸通貨経済圏の延命策としてのものだと思っているが、そのTPPがアメリカでは議会で批准できない方向に進みつつある。一方、中国のAIIB(アジアインフラ投資銀行)構想はイギリスは参加したものの、日本やアメリカは参加する気配が見えない。基軸通貨が衝突するはずの構図が描き切れていない。衝突が先先に延ばされつつある前段階で、FRBの巧妙な出口戦略のアナウンス効果により中国は窮地に追い詰められている。中国はウォール街からロンドン・シティーに元の蘇生を仲間を探す以外になくなっている。シティーもウォール街に主導権を握られた20世紀の金融パワーを覆したい思いは強いだろう。新興市場のパワーをシティー金融街は取り込みたいだろう。
●ウォール街よりシティーへ接近、シティーもウォール街出し抜く意図?
話が横にそれてしまったが、中国がソフトパワーを放棄して、ハードパワーに比重を移す動きは、アメリカ軍需産業や金融資本の狙いであり、安倍の好戦策にはまる恐れがある。中国は第2次大戦後、国民党を倒し、全土を抑えた。もっぱら軍事的勝利の賜物だった。近代民主主義が国民にどれほど浸透しているか?日本ですら民主主義がいまだ半分しか根付いていない。国民の政治参加が日常的ではない。政治は生活だ。日常的な中にある。これがやっと日本でも認識されだしたのが、皮肉にも安倍内閣の立憲主義破壊への反対運動からだ。
●中国でも日本でもなかなか理解できない対等・同等という概念
中国はいまだ、選挙を体験していない国民が大多数だ。筆者自身の中国10年の体験からしても、個人が同等の権利を持っていること、対等であることは、なかなか理解できないのが中国の人々だ。一般的にあるのは相手より上か下か―ーの判断で、会社でも「どちらが命令する立場で、どちらが命令される立場なのか」と声を荒らげねば分からないのが通常だった。これから立場が分かり、命令を聞く。さもなければ上司にさえ命令するようになる。対等は全く分からないのだ。学校で教わるように「民主主義が重要」とは発言できるが、実践するとなると、その前提である、対等・平等の観念より、皆が渡るから大丈夫だろうーーとか、世話になった人だからーーとか、投票行動は政策判断ではなくなってしまうことが大半だ。高尚なことを言うつもりはさらさらない。日々の生活の中の政治はそのような位置づけの中にあるのは誰しも分かるだろう。中国には中国的な政治があり、武断・軍事の方が分かり易いのだ。そして、内需拡大に向かわない経済運営は危険な軍需拡大に向きかねない。軍需の方が容易だからだ。しかし、対等は分からなくても平和はわかる。
●「米国はこれまで、ドイツ帝国・日本帝国・ナチスドイツ・ソ連を破壊したことからも分かる通り、潜在的な競争相手を容認したことがない」
2015年10月24日付けで韓国の朝鮮日報がアメリカ地勢学者のミアシャイマーと中国胡錦濤・前国家主席の「外交ブレーン」と呼ばれた北京大学国際戦略研究院の王緝思院長の対談を載せている。「光復70周年、韓国外交の道を問う」というテーマで開催した国際会議でのものだ。その中でミアシャイマー・シカゴ大学教授は「中国の台頭に対抗し、米国と中国に隣接する各国が反中連帯を結成、アジア地域で激しい安保競争が発生するだろう」と持論を展開しているだけでなく、「米国はこれまで、ドイツ帝国・日本帝国・ナチスドイツ・ソ連を破壊したことからも分かる通り、潜在的な競争相手を容認したことがない」と断定している。アメリカが強力だった時代と、衰退傾向にある今日と、まったく同じ態度を取るとは即断できないが、アメリカのDNAがそのようなものだることは理解できる。なんとも物騒な予言になってしまったが、ソフトパワーがますます重要になる時代に入ったことを実感させる。筆者にはミアシャイマーも20世紀の地勢学者の観が強い。しかし、ミアシャイマーの指摘は不気味だ。ソフトパワーが岐路にあるのは、新興国・アジアの経済が曲がり角にあるのと一対を成しているのか?
●ジョセフ・ナイの言うソフトパワーは軍人の詐術ことば
前回記した、ジョセフ・ナイの言うソフトパワーは、どうやら、ハードパワーを権力や権威で押さえつける力とするなら、ソフトパワーは相手から頭を下げ近づけさせる力の意味のようだ。権力者の発想であって、今日、だれも見向きもしない上から目線の軍人の発想だ。ここから、リーダー学を修めようと言う。いきおい、ハードパワ―とソフトパワーの案配はどの程度がいいかーーという話に堕ちて行く。それをリーダー教本のテキストにしようと書いているようだ。ソフトパワーの名称から詐術的ではないか。彼にはソフトパワーの力を理解することは出来ないだろう。もともとハードパワーの信者なのだから。