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“真実の愛”を探して エジプトへ向かうシニア女性たち

2021-12-29 22:35:10 | 音楽、TV、観劇

 録画していたNHK教養テレビ「ドキュランドへようこそ」の特集、「“真実の愛”を探して エジプトへ向かうシニア女性たち」(初回放送日:2021年12月17日)は面白かった。邦題の「“真実の愛”を探して」は安手の恋愛ドラマさながらだが、番組HPには内容紹介とともに原題が載っている。

エジプト南部の都市ルクソールでは結婚ビジネスが活況。若いエジプト人男性を求めて欧米の熟年女性たちが訪れる。人生の残された時間を楽しもうとする女性たちの思いに迫る
 古代遺跡で知られるエジプト南部の都市、ルクソール。ここで今結婚ビジネスが活況だ。若いエジプト人男性を求めて毎年、欧米の熟年女性たちが訪れるのだ。一方のエジプト人男性たちにとっては手っ取り早く金もうけする手段。こうした男女の、ユーモラスな愛の軌跡を追い、「人生百年時代」に残された時間を楽しもうとする女性たちの思いに迫る。原題:My Mohamed is different(エジプト 2020年)

 ルクソールといえば、私は1997年11月に観光客を狙ったテロ事件を思い出す。事件では日本人10人が犠牲になっており、スイス人36人に次いで死者が多かった。尤もこの事件は既に風化しており、意図的に映しているのだろうが、欧米のシニア女性の観光客が目に付いた。
 番組の冒頭に登場したのはアブデル・ラヒム・フセイン(35歳)。彼も元はルクソールでガイドをしていたそうだが、観光客が減った最近はそれだけでは生活していけず、結婚ビジネスを始めたという。アブデルは番組の解説者かつ進行役であり、彼の話からルクソールでの結婚ビジネスが浮かび上がる。

 番組に登場した2人の欧州人女性の体験も興味深い。サラナ・ブチンスカさん(79歳)は25年前に離婚しているが、ルクソールでハムディ・アハマドという、どう見ても30代半ばの男性と再婚し、現代はこの地に住んでいる。ブチンスカという姓から東欧系と思ったが、出身はスコットランド、陽光溢れるルクソールの暮らしが気に入っているとか。
 但しサラナさんの話によれば、現地で若い男に食い物にされる欧州女性が多いそうで、歯がゆく感じてもいるそうだ。そのようなシニア女性はさみしさから関係をずるずる続けているそうだが、それもカネがあってのことなのだ。ちなみにサラナさんはクエーカー教徒。

 エジプトでは男性は4人まで妻帯が認められており、ハムディにはれっきとしたエジプト人妻もいる。住んでいる階は違っても、サラナさんはハムディの母や妻子は同居している。もちろんその家の資金を出したのはサラナさん。姑やエジプト人妻は英語が話せないので、同じ屋根の下に暮らしていても、会話は殆どないという。
 それでもサラナさんは幸せそうだ。顔の表情がまたいい。若い頃の写真ではなかなかの美人だったが、現代も年齢を感じさせない。そして日本の高齢者ならまず着ない派手で露出度の高い服を着こなし、ファッションを楽しんでいる。

 もう1人はニルチェ・ファン・デル・ポルさん。オランダ人らしい姓だが、彼女の出身地は触れられなかった。ニルチェさんの正確な年齢は確認できなかったが、夫は32歳という。一般に日本人には欧州人の歳は判り難いが、ニルチェさんは80過ぎに見えた。
 ただ、サラナさんと違い、話しぶりから結婚生活に悩みがあることが伺えた。ニルチェさんは現地の雑貨を扱う店を始めたが、次第に夫は店を仕切るようになったという。やはり欧州とエジプトでは文化習慣が違い過ぎるし、エジプトでは妻が夫の命に服従するのは当たり前。夫に「私は貴方のATMではない」と言ったこともあるそうだ。

 エジプト人の若い夫は欧米のシニア妻には優しくとも、エジプト人妻には母親と会うことも許さなかった者もいたそうだ。母に会うには夫の許可が必要と平然と言うエジプト男に、違和感を感じた欧米人女性もいた。
 冒頭に登場したアブデルは、エジプト人とも結婚したことはあるが、この結婚は事故に遭ったようなものと言っていた。例え5千ドルしか貰えずとも、欧州の女と結婚したいという。何故エジプト女性との結婚が上手くいかなかったのは不明だが、女だけでなく当人の性格もあるはず。

 欧州の女を口説く手口を得意げに語るアブデルだが、ルクソールに来た独身の女に狙いを定めるそうだ。女が望みそうなタイプの男を演じ、自分は幾つもの仮面をつけていると話す。現代彼は米国在住だったドイツ女モニカと暮らしているそうだが、豪邸に住み、中古でもいい車を乗り回し、街の人々に好かれていると言っていた。
 街には幾つも豪邸が立ち並んでいるが、その多くは欧州のシニア女性が貢いだカネで建てられているとか。現地には、「私のモハマドは貴女のモハマドとは違う」という諺があり、原題はここから来ている。

 婆さんにしても金持ち女をゲットして幸せのはずのアブデルだが、時には無性に家から逃げたくなる気分になるという。女というのは常に払った金を忘れさせないというが、リッチな暮らしを送る代償ゆえに仕方ない。彼の様な男は80~90年代から現れるようになったそうだ。
 それにしても、欧米人シニア女性の情熱ぶりには驚く。エジプト人ジゴロ相手に、残り少ない人生を謳歌するというのは日本ではまず考えられない。もちろん欧米でも金持ちマダムでしかやれないけど。

 対照的に日本の独身シニア女性には、タワマンに住み高級車を乗りまわしても、さみしいとしか見えない暮らしを送る者がいる。恋愛どころか明らかなミサンドリー(男性憎悪)に陥り、「美人」という言葉すら否定する著名なおひとり様までいる。
 この種の女たちは意見の異なる同性にも攻撃的だが、日本のおひとり様と“真実の愛”を探してエジプトへ向かうシニア女性、果たして女としての生き方としては何方が幸福なのだろう?

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2 コメント

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Unknown (鳳山)
2021-12-30 07:11:32
色々な人生がありますからその人の勝手にすれば良いとは思いますが、欧米の独身シニア女性にしても日本の独身シニア女性にしても極端は良くないと個人的には思います。人生ほどほどが一番ですよ。
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鳳山さんへ (mugi)
2021-12-30 23:11:00
 犯罪行為をしないのであれば、シニア世代は自由な余生を過ごせばよいと私も思います。ただし、己の価値観や生き方を強要する独身シニア女性は困りもの。

 名はあえて伏せますが、いくらメディアに識者扱いされても、若い女性が某独身シニア女性のような人生に憧れるのかは疑問です。
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