トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

オトナ向けの浦島太郎物語

2006-08-27 20:14:02 | 読書/日本史
 仏教学者でもあるひろさちやさんは著書『昔話にはウラがある』(新潮文庫)で、浦島太郎について書いている。その解釈はとても面白かったが、子供にはとても聞かせられない昔話だ。

 子供の頃に浦島太郎の絵本をご覧になった方は多いだろう。文部省唱歌でも浦島太郎の歌がある。一番と二番なら大抵憶えている。
「昔々浦島は助けた亀に連れられて、龍宮城に来て見れば、絵にもかけない美しさ。乙姫様のご馳走に、鯛や平目の舞踊り、ただ珍しく面白く、月日のたつのも夢の中」
 そして「心細さに蓋取れば、あけて悔しき玉手箱、中からぱっと白煙、たちまち太郎はお爺さん」で最後となる。

  子供の頃は絵本と文部省唱歌を素直に信じていた。だが、大人になるといろいろな疑問が出てくる。太郎は漁師となっているが、気の荒い海の男が亀を苛めてい る子供に優しく諭すのだろうか?あまりにも漁師らしくない。亀が乙姫様の使いなので、この亀は女主人の好みの男を物色していたのではないか、と思えてく る。お眼鏡に適った若い男に声をかけ、龍宮城に招待するのが亀の任務なのだ。龍宮城に着いてからの太郎がいったい何をしていたのか。ひろさんに言わせれ ば、「乙姫様のご馳走って?浦島太郎がいっぱしの男性であるなら、水族館に行って水槽の魚を眺めて、お昼にカレーライスかお子様ランチを食わせてもらって喜んでいる小学生じゃあるまいし」。
  そもそも乙姫様が普通の生き物ではない。いかに美しかろうが、ひょっとして何千歳にもなっている化け物かもしれず、おそらく接した人間の男は浦島だけでは ないだろう。亀に若く美しい男を連れて来させ、共にすごしたのは、男の精気を吸って生きている吸血鬼もどきか、と想像したくもなる。だから“太郎はお爺さ ん”となってしまった?

 ひろさんは『江戸の性愛学』(河出文庫、福田和彦 著)の説を引用されているが、文部省唱歌の祖形は「続浦島子伝」であり、原文は次のようになっているそうだ。
浦子(浦島太郎)、神女(乙姫)と共に玉房に入り、玉顔を向かい合わせ、此の素質(裸身)を以って、共に鴛衾(えんきん・寝所)に入る。燕婉(えんえん)を述べ、綢繆(ちゅうびょう)を尽くし[手足を絡ませて、もつれ合わせて]、“魚比目(ぎょひもく)の興”“鴛同心(えんどうしん)の遊”
 この最後の“魚比目の興”“鴛同心の遊”は実は交接体位、 つまりラーゲなのだ。どのような体位かはあえて書かないが、魚比目を平目に「綢繆を尽くし(手足をもつれ合わせて)」の“綢”を“鯛”にしたらしい。小学 生に体位は教えられないから。乙姫様のご馳走とは素晴らしい体を与えたことに他ならず、浦島は「月日のたつのも夢の中」となってしまった。

 一般に知られる浦島太郎の物語は御伽草子が 元となっている。草子では浦島は丹後国(京都府北部)の者で、年の頃二十四五とある。彼は亀を助けるが、その翌日、小舟に美しい女性がただ一人乗ってやっ てくる。女は乗っていた船が沈み、自分は小舟に乗って流されてきたと言う。そして女は自分を本国まで送ってほしいと浦島に頼む。頼みを聞き入れた浦島は 「遥か十日あまりの船路」を送って行った。後でこの女は本当は龍宮城の亀と分かるが、この時点では美しい人間の女なので、正確には“助けた亀に連れられ て”ではない。龍宮城に着いた浦島は彼女を妻とし、三年送る。

 三年経ったが、浦島は妻に一時休暇を願い、国に帰り両親に自分たちのこと を報告してくると言う。それで女は彼に一つの箱を持たせ国に帰らせた。故郷に帰った浦島は、ふるさとのあまりの変りように驚く。何故なら龍宮城の三年は地 上の七百年に相当するからだ。問題の玉手箱だが、御伽草子には箱を開けた後がこう記されている。
中より紫の雲三すぢ上りけり。さて、浦島は鶴になりて、虚空に飛び上りける
 お爺さんではなく鶴になってしまった。鶴の寿命は千年だから後三百年は生きられるということか。

 それにしても、“魚比目の興”“鴛同心の遊”なる言葉があるとは知らなかった。それでこそ「鯛や平目の舞踊り」が生きてくる。しかし、ひろさんの本を読んだ後は、子供の頃のような純な気持で浦島太郎の唄が聞けなくなった。世の中には知らなくともよいことがある。

よろしかったら、クリックお願いします


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
知って、愉しい事も (二人のピアニスト)
2006-08-28 05:28:06
世の中には、知らなくともよいことがある。

子供が何時かは大人になる宿命を背負っている『人間』にとって、出来れば積み残して行きたい荷物もありますね。

老境に入り、は良いとして、視力の衰えのため、読書力が壊滅した私には、mugi様の記事で、毎度、自分の読めない幾つもの本を読んだ気分にさせて貰っているのは、愉しい事です。
返信する
ストーン・コールド・クレイジー (Mars)
2006-08-28 20:37:28
こんばんは、mugiさん。



太郎が鶴になる話は存じておりましたが、亀(乙姫)の方から近づいてきたとは初耳です。仰るとおり、多くの男性の場合、美味しい料理、酒を出されると、最後はオ○ナが欲しくなるものです。太郎と乙姫の関係がギブ・アンド・テイクの仲ならいいのですが、ヤマト男は代々、ハ○ー・ト○ップに弱いのであれば、それも考えものですね(かくいう私も男なので、一度位はかかってみたいものです(汗))。



ところで、話は脱線して申し訳ないですが、某Qさんの曲に、宇宙飛船に乗って旅に出て、地球に帰ってきた時には愛する者は、、、というものもありましたね(宇宙空間で過した時間は、地球では何倍もの時間が過ぎていた)。簡単には想像はできないのですが、ある日突然、目覚めた時、親族・友人、知人は全てなく天涯孤独の身になったとしたら。それでも、人は生きていけるものでしょうか(私は自信はないですが)。



人は、エ○も愛もなければ、なかなか生きていけないものなのでしょうか?最終的には、独りになるのに。柄にもなく、夏の終わりはお○ンチにさせられる、そんな季節なのでしょうか?

返信する
ありがとうございます (mugi)
2006-08-28 21:38:56
>二人のピアニストさん

視力の衰えで、読書が困難になるのは、私も将来大いにありえることで、怖いことです。

私の少し卑猥な記事で、読書された気分になられ、楽しまれたなら、幸いです。
返信する
リブ・フォーエバー (mugi)
2006-08-28 21:39:58
こんばんは、Marsさん。



私はひろさんの本を読んで初めて太郎が鶴になるのを知りました。

亀(乙姫)の方から近づいてきたのはさもありなん、でしたね。タダ飯、タダ酒に性では、サービスがよすぎて、何かウラがあると感じられます。それでも引っかかるのは、ヤマトに限らず男の性でしょうか?



宇宙飛船に乗って云々の壮大なSFは、いかにもブーさんらしいですね。

私は想像力が乏しいので、目覚めた時、天涯孤独の身になったとしたら、という発想は思い付きません。初めはショックでしょうが、それでも何とか人とつながりを求めるかもしれません。人間は人の間でしか生きられない生き物なので。
返信する